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第四十六話「箸休め回ですか?」
しおりを挟む第四十六話「箸休め回ですか?」
フレストラント公国から戻った斎木 創は勇者迎撃の態勢を整えるため色々と頭を悩ませていた。
今回のこれもその一つ。
――
――戦闘員……と言っても、これだけか
俺は我が居城、”4LDK城”で項垂れていた。
”謁見の間”兼”会議室”で玉座に座り、俺の前に整列した五人の犬頭人兵士達をもう一度確認する。
「……」
トナミ村常駐の犬頭人隊、筆頭兵士長”トナミのトトル”と彼が率いる四人の犬頭人小隊長達。
――たった五名……それも犬頭人
各犬頭人隊が率いる兵士は一部隊二十人前後、総勢百二十四名とのことだが、相手は超反則級の強者、”勇者”である。
低レベルの兵士達が何人いても、ものの役には立たないばかりか無益な被害が増すばかりだ。
だからこの城に常駐する面子で強い順に集めたのだが……
それにしても五名は軍とは言わない。
大体、この五名だって筆頭兵士長のトトルがレベル4で残りが3……
ギリギリだ。
”賑やかし”としてでもギリギリ投入できるかどうかの微妙な弱さ。
「……」
――うう……頭が痛いな
「どうか致しましたか四代目?小生達になにか不備があったでありましょうか」
あからさまに浮かない思案顔の俺を見てだろう、不安そうにトトルが聞いてくる。
「いや、少しな……数がな……お前等みたいな優秀な兵士が足りなくてな……」
”クゥーーン”とすり寄ってきた子犬の目に、俺は毒気を抜かれたばかりか大変に気を遣い、オブラートに包みまくって話す。
「そ、そうでありますかっ!なるほど、小生等のような”優秀”な!なるほどっ!」
「…………」
尻尾をブンブン、パタパタと……わかりやすい奴だ。
「お任せ下さいっ!!そうであるかもと、小生、この日の為に助っ人を要請しておりました!!」
「は……?」
――助っ人?誰を?
俺は少々面食らう。
「小生等と軍事教練所の同期の精鋭達、”犬頭人兵士高等練兵所”、通称”ワンワンパニック軍学校”で学んだ、同じ釜の飯を食った同胞であります!是非に!四代目のために役立ちたいと此所に集っておりますっ!」
――ぶっ!!ワンワン?……なにそれ?
俺はツッコミ所が多くて追いつかない。
「いや、ちょっとまて、えと……」
円らな瞳をキラキラとさせるワンちゃんに俺は……
――嫌な予感しかしないっ!!
「否!時は金なりでありますっ!さぁ四代目の為にはせ参じよ!我が同胞っ!!」
――って、おおーーい!その四代目様の話聞けよっ!!
バンッ!
「うおっ!」
――――ザザッ!
乱暴にドアを開けて飛び込んできたのは……
二人の影!!
――この動き!!もしや期待して良いのではっ!?
「…………」
それは二人の……犬頭人だった。
――いや……だろうよ、
――そりゃそうだ
俺はガックリと肩を落とし、そしてチョイチョイと人差し指を曲げてサッサと自己紹介しろと促す。
――いや、もう……諦めたんだって、俺
「はっ!では自分からっ!」
図体だけは中々にデカい長毛犬……じゃない、犬頭人。
その男が俺に敬礼して名乗った。
「自分はパニャン!パニャン=デコルテ!自分で言うのも何でありますが、礼儀を重んじ、規律を遵守する真面目男であります!」
「な、なるほど……それは良い事だな」
俺は一応対応しつつ思う。
――大食いとか、ダニ持ちとか、特技と言えない事をアピールしてくる奴等と比べると……いや、そんなことより際どい”あだ名”を名乗る奴等と比べれば、真面な部類か?
「なお、酒宴の席では一転、豹変し無礼講となるため、仲間内よりこう呼ばれております……」
――え?
嫌な既視感だ!いや、これは……
「いや、もういい、やめっ……」
「”酒の上のパニャン”と!!」
「やっぱりかぁぁっーー!!パーニャパニャパニャ”困った子”ってかっ!!」
俺は叫んでいた!そう、リズミカルに!
またこの展開だよっ!叫ばいでかっ!!
「四代目?」
そんな俺を、トトルが不思議そうな瞳で見ていた。
――ええいっ!解れよっ!!昨今の事情考えろ、ワンちゃん達っ!!
と言っても犬頭人達には無理な話だろう。
「もういい、俺は気分が優れないから今日の所は……」
「次は私ですね、私はマーニャ=ドルトイ、確実に仕事を熟し、先輩方からもお前なら安心して申し送りもできると評判の、出来る後輩キャラ……人呼んで」
――聞けよっ!!
「人呼んで、”担い手のマーニャ”です!」
――くっ…………うぅぅっ!!
「こ、この世には目に見えない魔法の輪があるんだってぇっ!!じゃない!クソッ!いじめかっ!?これ虐めなのかよっ!!」
なんとか抑えようとしたが、斎木 創の生来のツッコミ体質は悲しくも反応する。
「お、お前等……」
そして俺はもう、涙目だった。
涙目で俺の前に並ぶ犬頭人隊を眺める。
デブで小太りサングラスの中年犬頭人……ブゥダ=ノダック。
特技は大食い。他人の飯まで食うがそのくせ絶対に分け与える事は無いことから仲間内から呼ばれた通り名が……
――”くれないの?ブゥダ”
見るからにひ弱そうな、見た目、男?女?解りづらい犬頭人……ナウシダ=ノイラート。
病弱で風邪をよく引き、ダニもよく他人に伝染すという、通り名は……
――”風邪とダニのナウシダ”
長い毛並みを幾つもの三つ編みに束ねたおしゃれな女犬頭人……アリエット=アーレ。
趣味は放浪で、各地の犬頭人族の知り合い宅に滞在するらしく、通り名は……
――”借暮らしのアリエット”
白い毛並みでこの中では一番ガタイが良い、寡黙そうな男犬頭人……ラプタ=テンコウ。
此奴は最早通り名というよりもなんか色々とアウトだ。
「…………」
それで今回が……
――”酒の上のパニャン”と”担い手のマーニャ”
極め付きがこの隊の隊長、トナミ村常駐軍隊長兼任の犬頭人隊、筆頭兵士長、トトル=ライヒテントリット。
――通称”トナミのトトル”……
「…………」
――駄目だ……此奴等はもう……生きた”著作権法違反、損害賠償物件”だ!
「もういい……七人、取りあえず頭数だけは揃った。お前達には一般戦闘員として……」
俺はこれ以上拘わってはいられないと、サッサと話を済ませることに……
「四代目!勿論お任せ下さい!!我ら同期七人揃えばそれは……軍事教練所”ワンパニ”時代に全員が集いし時に密かに呼ばれていた呼称こそがっ!」
――へ?
いや、もう勘弁してくれ。
俺はもうイチミリも関わりたく無かった。
「そうか、わかった、わかったからもう説明はしなくて……」
「犬頭人教練所では希望の星と……つまり”スター”」
「聞いてます!?四代目様の話聞いてますか!!トナミのトトルさんよぉっ!!」
「つまりこうですわ、その名声は”ワンパニ”に収まる器では無く、そう、この世界の……つまり”ジオ”の……」
「いやだから……もういいって、お洒落犬のアーレさんや!」
「ど、どんなときも、どんなときも、ぼ、僕が僕らしく……じゃなくて、い、如何なる時も正義の為にぼ、僕らは……The EveryDay?」
「やめろ、止めろって!ナ、ナウシダ=ノイラート!病弱で気が弱いクセになんでこんな時だけ前に出てくる”男の娘”っ!?」
「よぉし、俺の出番だ!いくぞ、七人そろってっ!!」
「お前の出番は永遠に無いっ!ブゥダ=ノダック、飯でも食ってろって!」
俺の制止を全く意に介すること無く、ズビシィ!と七人の犬頭人がポーズを決める。
――やめろ……やめっ
「我ら!”三百六十五日戦う犬頭人界の希望の星”!!」
――ぐはぁぁっ!!
”三百六十五日戦う犬頭人界の希望の星”
よりにもよって……スター・ジオ・ジ・エブリィ……
――くっ……これは……どうだ?ギリギリ……
「ああ!少しばかり長ったらしいなら、略して”じぶり”とでも呼んで頂けたら幸いであります」
「それ絶対略したら駄目なやつぅぅっーー!!」
輝かしい犬頭人隊のチーム名は……
ギリギリどころか完全アウトだった。
――もういい……もう……
「あの、四代目、それで……」
「ああ!?なんだよ!まだなにかあるのかよっ!トナミのトトルさんよっ!」
俺は犬頭人隊、筆頭兵士長”を思いきり睨み付ける。
「い、いえ……捕虜の火狢殿をお言いつけ通り連れてきているのですが、その件はいかがいたしましょうか?」
――おおうっ!?
そうだ、忘れていた。
戦闘員の件もそうだが、そっちも今日の案件だった。
俺は気持ちを持ち直してトトルに命じる。
「わ、わかった。化狸をこの部屋へ通せ、それからお前等への指示は追って伝えるから今日は解散だ」
――
―
果たして……騒がしくも迷惑な七人組が部屋を出て入れ替わりに件の火狢が犬頭人兵士に連れられて入って来た。
「ご苦労、お前はもう下がって良いぞ」
俺は大丈夫ですかという顔の兵士を追いやって、広間に化狸のみを残す。
「……」
「……」
警備する兵士もいない、それどころか火狢は拘束さえされていない。
全て俺の指示だ。
「……」
俺は玉座に坐した俺の前で俺を睨む……というには迫力皆無な獣の目を見ながら言葉をかける。
「お前には俺の為に働いて貰う」
「……」
「取りあえずトトルの指揮下に入って……」
「アッシが斎木 創の為に働く?正気でヤンスか!?」
言い返す獣に俺はニヤリと笑った。
「お前、使い魔の儀式を偽のアイテムで装ったくせに俺と念話は出来たろう?」
「うっ!?」
痛いところを突かれたと、顔に出る化狸。
「おかしいなぁ?儀式が偽物なのに、主人と使い魔の”使い魔専用念話機能”だけ仕えるなんてなぁ?」
「ううっ……くぬぅっ」
ほんと、滑稽なほど顔に出る馬鹿狸。
これでよく間者など出来たものだ。
俺は呆れながらも続ける。
「だからこそ、閻竜王は火狢をこの任務に抜擢したんだろうが……それってお前の固有スキルだろう?」
「うおっぉう!?うひゃぁぁ!?」
――だから顔に出すぎだって……馬鹿狸
そう、”偽の使い魔”……それには持って来いの固有スキルだ!
数メートルしか有効範囲の無い例の糸電話的な”使い魔専用念話機能”は使い魔契約の産物で、それを固有スキルとして所持するこの化狸は、この任務に持って来いだったのだ。
――だから閻竜王は、こんなレベルの低いバカを起用したのだろう
「それな、固有スキルだから誰が相手でもできるんだろう?」
――そう……そして今回の俺の作戦にも……
「は、はぁ?……さ、さあ……し、知らないでヤンスねぇ?スヒィー!スヒィー!」
――誤魔化し方下手っ!?てか、口笛はもっと下手だ!!
ガタッ!
「なっ!なんでヤンス!?やるんで!やる気でヤンスかっ!!」
俺は立ち上がると、焦りまくって全く脅威とならないファイティングポーズを取るホントに間抜けな獣に近づいて――
「これ、なぁんだ?」
ポケットからある魔道具を出して見せた。
「そ、それはっ!?……使い魔儀式の……」
それを見て驚く化狸に俺はニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
「正解。けどこれはちょっと特殊でなぁ……使い魔の儀式を従者の同意なく行える”強制主従関係成立魔道具”なんだよなぁ」
「うっ!?」
引き攣る化狸の顔。
「ちょっと昔なじみにな、お前も知ってるだろう?あの”魔術遮断の杭”……作者はあれ造った男で、後ろの穴にブッ刺して使う……ちょぉっと痛くて苦しいけど、下級怪物には効果覿面の逸品だ!」
「うっ!……や、やめて……やめてほしいで……」
「大丈夫だって、痛いのは最初だけでそのうち良くなるから」
俺はゆっくり間を詰め、化狸は青い顔でジリジリと後退る。
「じゃぁ、一気に……」
「う、うわぁっ!やめて!やめてほしいでヤンスっ!」
――
「だめでヤンス!そこは!そこは入る所じゃないでガス!ああっ!うっ!ひゃぁぁーーんっでヤンスでガスゥゥ!!」
――混じってる!キャラ混じってるぞ、化狸……
俺はそんな獣に容赦無く太っとい魔道具をくれてやったのだった。
「うっ……うう……穢されたでヤンス……もうアッシは穢されたでヤンスよほぉ……」
そしてシクシク泣いて床に項垂れる馬鹿狸に、俺は微塵も同情すること無く言った。
「そうだ、お前の名な、考えておいてやったぞ」
「…………」
そうだ。
晴れて正式に俺の使い魔となった幸運な獣に、俺はマリアベルの”雪兎”……“クルムヒルト”と同じように命名してやることにしたのだ。
「お前は”ブンプク”だ、今日からそう名乗れ」
「……」
そして俺の有り難い気遣いに馬鹿狸は……
「斎木はじ……主様……あの影娘といい、主様は少し名前のセンスが……」
「……」
「……」
俺はおもむろにポケットから予備の魔道具を取り出す。
「もう一本、いっとくか」
「ひっ!ウソ!うそうそでヤンスよっ!ブンプク!カッコイイ!素晴らしい名でヤンスっ!」
「……」
「ひぃぃっ!やめ……」
「……」
「らめぇぇっ!!」
――
俺は……
今日一日の鬱憤を、ここに来て一気に晴らしたのだった。
第四十六話「箸休め回ですか?」END
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