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第五十四話「暗黒の騎士」
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「フシュー、フシュー」
不気味な呼吸音を響かせて、ゴツい全身鎧を着込んだ三メートル近い戦士が立ちはだかっていた。
「う……あの、リーダー?」
大鎚を携えた重撃戦士、オルテガ=ダングが及び腰になりながら後ろをチラリと見る。
「だ・か・らぁっ!毎度毎度、俺に頼ろうとするなって!」
勇者レオス・ハルバは前回同様にそう切り捨てると、回復役である”神導師”の男を引き連れてまたもサッサと先へと進もうとする。
「いや!でもコイツ、巨大だし!絶対、またあの”変な水”を飲んで超強くなるだろうし!」
しかし今回に限ってはオルテガ=ダングが最初から及び腰なのもある意味仕方が無いのかもしれない。
「フシュー!フシュー!」
立ちはだかる今回の騎士、死の超能力者にして”キルキル団”が偉大なる総統、サー・イキングの”四魔騎士”が”唯一槍”は――
巨漢のオルテガを遙かに凌駕する三メートル超えの戦士で、肩宛部分と顔を全て覆った兜に角を生やす、全体的にゴツゴツとした造形の全身漆黒の鎧に覆われた戦士。
その姿と野太い不気味な呼吸音から、地獄の使者と見紛う最恐の竜戦士だったからだ。
「…………問題無いって、こんな虚仮威し野郎、少しはヤーヴを見習えよ」
レオスはそう言うと、オルテガを置き去りに背中を向けて本格的に先へと進路を取る。
「フシュー……フシュ、”ゴールド”ト”ロッソ”ヲシリゾケテキタカ……ダガ、ヤツラハアンラッキークローバーノナカデハサイカソウ、サイジャクダ……アマリチョウシニノルナヨ、ニンゲン」
「うわぁぁっ!!あんなこと言ってる!言ってますってぇ!リーダー!?カタコトめっちゃ怖ぇっ!!」
ビビりまくる”重撃戦士”に”勇者”は大きく溜息をついてから、既に到達したドア前から振り返って……
シャキン!
左手で剣を抜いて、仲間であるはずの”重撃戦士”に向けた。
「そんなのゲームでの常套句だろ?いいかオルテガ、ここはお前の”責任箇所”なんだよ、解るか?それか俺に斬られる方を選ぶのかよっ!!」
「うっ……り、了解……リーダー」
脅しのような命令を受け、オルテガ=ダングは項垂れた。
「……」
それを見届けてから、勇者レオス・ハルバは回復役を引き連れ部屋を後にする。
――
ガシィィン!、ガシィィン!
「フシュー!ワレノアイテハキサマカ……フシュ!デハ……」
ギリギリと漆黒の鎧を軋ませて、巨大な暗黒騎士の両腕が天高く上がる!
「くっ……くそ!こうなりゃ……」
そして、項垂れていた重撃戦士は……
「暗黒の騎士?ナンボのもんだよっ!!おりゃぁぁっ!!」
追い込まれたオルテガ=ダングは手にした大鎚を肩に担いで持ち上げ、それをそのまま目前の黒き壁に振り上げた!!
ガコォォッーーン!
「ガッ!ガガ……」
ドゴォォッ!!
「グ……ガガガ……」
オルテガの振り回した大鎚は面白いように暗黒の騎士に命中し、その都度に黒くて頑丈そうな鎧が拉げて破損し、そして破片が辺りに飛び散った!!
「おぉぉぉぉぉっ!!いけるっ!!俺、ムッチャ強ぇぇっ!!」
ドゴォアァァァァァーーーー!!
そして遂に三メートル超えの巨体は膝を着き……
「ググ……フシュー!……コウナレバ……」
黒き鎧の巨人は懐から例の液体が入った小瓶を取り出して、それを兜の隙間へと……
「させるかよぉっ!何度も何度もっ!!」
バキャァァッ!!
「グハァァ!!」
ガシャン!
そうはさせじと、返す刀で大鎚を振り戻して、オルテガ=ダングは暗黒の騎士の手に在った小瓶を弾き跳ばし、それは床に落ちて粉々に砕けた。
「お、おおおおっ!!俺様最強っ!今こそ、オルテガ=ダング、ぜっ・こう・ちょうぅぅーーっ!!」
――
―
「…………」
「どうかしたの?はじめくん」
俺の顔を覗ってくる輝く瞳の美少女に俺は”いいや”と首を振った。
「なんでもない、ちょっと一昔前の、金満球団にいた”ゼッコウチョウ男”の様な台詞が聞こえた気がしただけだ……」
俺の返答に美しい瞳の美少女、マリアベル・バラーシュ=アラベスカ嬢はフフフと笑う。
「なにそれ……ふふ」
俺とマリアベルは最終決戦の準備を整え、再び玉座の間に戻って来ていた。
「あ……ちょうど良かったですわ、四代目様、奥様。今丁度、レアスティアナ様がお戻りになられたところで」
不在中の部屋と魔法陣を任せていた女犬頭人、アリエット=アーレが俺達を出迎える。
「おお、ティナティ……」
「……」
「レ、レアスティアナ、首尾はどうだ?」
俺は部屋に居る”鉄喰い魔神”を見つけて名を……隣の竜姫の無言の圧力で彼女の名を寸前で呼び直して成果を尋ねる。
「超楽勝かな……けれど、あの”サイキックのおいしい水”はもう要らない?」
「は、はは……」
俺は苦笑いしつつ、取りあえずは魔神の労を労う。
「ねぇ、はじめくん……詳しく聞いてなかったけど、”あの水”の成分って?」
「ん?ああ……そうだな」
俺はマリアベルの質問を受け、懐から小瓶を取り出すとグッと一気に呷る。
ゴクゴク……
「うーーーー不味い!もう一杯!」
そして空の瓶を手にお決まりの台詞を口にする。
「まぁ……ぶっちゃけ葉っぱの汁だ、不味いが健康には良いそうだぞ」
俺の答えと、漂ってきた匂いにだろうか?マリアベルは可愛らしい顔を引き攣らせる。
「それって私も飲むのよね?……うう……それで強くなった”フリ”をして……」
「ああそうだ、唯の薬草汁だからな、全然!全く!完全に!能力が向上する事なんて無いから、”フリ”で頼む!」
「…………」
自信たっぷりに言い切る俺の言葉に蒼き竜の美姫は微妙な表情だった。
「ん?どうかしたか、マリアベル」
「いえ……」
そしてマリアベルは微妙な表情をした後、呆れた様にこう言ったのだった。
「はじめくんて……ほんとうに嘘が得意よね」
――
―
ガコォォッーーン!
「ガッ!ガガ……」
ドゴォォッ!!
「グ……ガガガ……」
相変わらずオルテガの振り回した大鎚は面白いように暗黒の騎士に命中し、その都度に黒くて頑丈そうな鎧が破損して、破片が飛び散る!
「おぉぉぉぉぉっ!!弱い!弱いぞぉ、暗黒の騎士!!いや、俺様が強すぎるのかぁぁっ!!」
ドゴォアァァァァァーーーー!!
大鎚を縦横無尽に振り回す”重撃戦士”、巨漢で四角い顔で大雑把な造りの目鼻立ちであるオルテガ=ダングは調子に乗りまくっていた。
「ははははっ!あの水さえ無けりゃ!俺は負けることなど無い!はははっ!!」
ガコォォッ!
ガコォォッ!
ガコォォッ!
嵐の如きラッシュで鉄塊を叩き付け、相手を叩きのめし続ける男!
そしてその打撃を受ける度に、暗黒の騎士の鎧は激しく破損し、そして砕け散って剥がれてゆく……
「おぅらぁぁっ!!中身はどんなごっついオッサンだよ!このオルテガ=ダング様が引きずり出してトカゲのミンチにしてやるぜぇぇっ!!」
ブォォッ!
目前で為す術無く崩れ落ちる巨体に、トドメの一撃とばかりに愛用の大鎚を振り上げた”重撃戦士は……
「うぉぉ……う…………え?……あ?」
そのまま、筋骨隆々な闘士の彫像のように固まっていた。
ギギギ……
片膝を着いて項垂れた黒騎士の右肩当と胸部の鎧が拉げて傾き――
ガコンッ!ガシャンッ!
床に落ち、
「…………」
巨大な大鎚を雄雄しく振り上げたオルテガ=ダングの前に無惨に這い蹲る暗黒の騎士は既にくず鉄の廃棄物同然だ。
「うう……ぐっ……ぐぐぅ……」
しかし――
そのオルテガの鉄槌は彼の頭上でイチミリも動かない!
「うぐぐ……おぉぉっ?」
微動だにしない!
ギシシシ……ギシシシ……
それは――
「な……なんだよ、これっ!?」
重撃戦士の乱打撃で散々に剥ぎ取られた黒騎士の破片は、地に落ちた後にその形を黒き影に変え、そしてそのまま紐状に……
シュルル……
そう!
まるで”蛇の影”の如くに、這うように移動してオルテガ=ダングの全身に絡みつき、
雁字搦めにしていたのだ!
「うおぉっ!?嘘だろ!なんだよ、この影……う、動けねぇ……」
ギギギ……
巨漢のオルテガが全身の筋力を集結させても僅かに肉が軋むだけ。
大鎚を頭上に固まる筋骨隆々の男の姿は、まるで古代の戦士を象った彫像そのものだ。
「………………ましてよ」
――っ!?
「貴方……………………てましてよ」
全身を硬直させられ、焦りまくっていた男は、耳に流れ込んだ声で、目前に”瀕死の鎧騎士”が居たことを思い出す。
――”瀕死の鎧騎士”
そう、重撃戦士、オルテガ=ダングが破壊したはずの”瀕死の鎧騎士”……
「お…………おま……」
だがその”瀕死の鎧騎士”は……
”それ”から漏れる声は……
先程までの低く野太い声では無く、カタコトでも無い!
「ふ、ふふ…………ふふふ……」
シュォォォォーーーー
オルテガ=ダングに叩き落とされ、剥ぎ取られ、僅かに身に残った鎧さえ蒸発するように消えて……
そしてそこに残ったのは――
「貴方……覚えてましてよ」
そこに立った、小さい影は……
「う、うわぁぁっ!!」
オルテガは叫んだ!
四角く大雑把な造りの顔を引き攣らせて叫んでいた!
「ふふふ……」
何故なら其所には……
黒い巻き髪と黒瑪瑙の瞳が美しい少女。
可愛らしい造りの顔の、朱い唇を歪めて嗤う蛇の姫。
「ふふふ……あははは…………ふふふふ」
抑えきれぬほど昂った感情のまま、微動だに出来ない男の前で嗤う”蛇竜姫”が居たのだ。
「お……おお……ひ、ひぃぃっ!!」
男は恐怖した。
その恐ろしい表情に。
その恐ろしく揺らめき輝く黒瑪瑙の双瞳に!
「…………」
やがて少女は、漏れ出でる嘲笑で震える背中を落ち着けて、そして……
――呟いた
「貴方……覚えてましてよ、ええ、よく覚えてますわ……この……ゴミ虫!」
第五十四話「暗黒の騎士」 END
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