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第十六話「薬用石鹸(ムーズ)買ってきたら?」
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「……てなわけで、俺は、”この後大事な約束がありますので、すみません、先生も気をつけてお帰り下さい”と未練たらたらの美女に告げてここに来た訳なんだよ」
俺はその時の状況を、目の前でアイスミルクティーを飲む美少女に話していた。
まぁ、多少アレンジはしたが、しっかりと”大事な約束”を強調することを忘れない俺。
ここはファミリーレストラン”ゲスト”。
俺の学校からも、彼女の学校からもほど近い場所にあるごく普通のファミレスだ。
「ふーん」
ストローでアイスミルクティーを飲むプラチナブロンドの少女は、如何にも興味なさそうに相づちを打つ。
「なんていうか、その先生、御前崎 瑞乃っていうんだけど、美人で色気があってな、学校でも男子生徒にカリスマ的な人気があるんだ」
「へー」
相変わらず、美少女の返事は適当だ。
「え……と、でも良かったよ、この間のお詫びに奢ってやろうと思ってたから、臨時収入はタイミングばっちりだったよな」
「……この間!」
一瞬で彼女の翠玉石の瞳に殺気がこもった。
「いや、違う違う、ボールを避けて、羽咲の顔面に当ててしまった件だよ!」
「……」
スカートが捲れ上がって……ごにょごにょ……の件とは違うと、慌てて答える俺を疑わしそうに見た後、彼女は再びアイスミルクティーのストローに口を付ける。
俺はホッと一息吐いた後、自分の紅茶に口を付け、話を続けた。
「でも、何であんな、”ご褒美”だなんて……もしかして、あれって、俺を誘っていたのかもな……ああいう大人な女って、意外と俺みたいなのがタイプとか……」
「……」
「……」
「あははははっ」
羽咲はキョトンとした瞳で俺を見た後、キッカリ三秒は間を置いてから、何だか乾いた笑い声を上げた。
「なんだよ、そんなに馬鹿にすること無いだろ、ちょっと思っただけだよ、いいだろ思うくらい」
なんていうか、彼女の反応は全く興味が無い感じだ。
相変わらずのすまし顔でアイスミルクティーを飲んでいる。
ーーもう、盾也くんったら!他の女の話ばっかりで少しぐらい、わたしのことも見てよ!
ーー見てるぞ、いつも……少しなのは他の女の方だ!
ーーもぅ、恥ずかしい////!盾也くんのバカバカ!
ーー”ぽかっ!ぽかっ!”
ーーいたい、いたい、やめろよ、”うさぴょん”!
ーーもぅー”じゅんじゅん”のバカ!
ーーアハハ
ーーフフフ
「……………………」
俺は想像してみる。
ーーあり得んな……実際……
というか、あったらむしろ怖い。
目の前には、すまし顔で相変わらずアイスミルクティーを飲む、プラチナブロンドの美少女、羽咲。
「…………」
いつにも増してクールビューティーだ。
「まあ、どっちにしてもあの魔力は驚異的だよ、担任の御前崎 瑞乃が魔導士って噂は聞いてたけどあそこまでとはな……あんな美人で、あの実力って……」
ーーガタン
「!」
羽咲がスマートフォンを床に落とした。
「……あ、ごめんなさい」
「い、いや」
直ぐに拾う仕草に移る彼女。
「ねえ……」
そして、その動作をしながら彼女は視線を向けずに声をかけてくる。
「え?」
「その女の話ってまだ続くの?」
ーーー
ーー
なんていうか……凍り付いた。
いや、彼女の声は全然怒ってないし、床に落ちたスマートフォンを拾うため、俯いていて表情は確認できない……それでも……
本能というか……俺はその空気に強ばっていた。
「い、いえ!終わりです!たった今、終わりました!惜しい人を無くしたモノですっ!」
何故か起立して姿勢を正し、最後は意味の分からない事を俺は口走っていた。
いや、何故かじゃない……正直びびってました!
「ふーん、そうなんだ……ねえ、盾也くん、今日わたしを呼び出したのって、この間のお詫びだけ?」
スマートフォンを拾って席に着いた美少女は、一転、明るい笑顔で問いかけてくる。
「……」
正直俺は拍子抜けした。
ーーふぅ……
そして同時に安堵していた……なんだ……勘違いだったのか?と
席に座り直し、既に冷めた紅茶を一口含んでから俺は答える。
「いや、剣だよ、この間、特訓が終わった後に次に会うときには用意しとくって言っただろ」
そうなのだ、あの日、俺が拳固でのされた後、目が覚めた俺と羽咲は特訓を続けた。
夕暮れまでみっちりとだ。
で、その時に、魚人王戦で使い物にならなくなった剣の代わりを渡す約束をしたのだった。
「ほんと!うれしい……やっぱり剣がないと心細いんだよね」
途端にぱっと輝く少女の整った顔。
俺の作った剣でここまで喜んでくれると、俺も悪い気はしない。
「ああ、物はこれなんだけど……」
俺はあらかじめ持ってきていた、丈夫な布で作られた剣道の竹刀袋を彼女の前に差し出す。
「今度の剣はちょっと特別製でな、少しばかり特殊な造りに挑戦してみたんだが、大丈夫、羽咲ならきっと使いこなせ…………?」
「…………」
剣を渡そうと差し出す俺…………微笑んだまま、”それ”と俺を見る少女……
「……」
「……」
えっと……なんだ?
彼女はそのままで、一向に俺の差し出した竹刀袋に触れようとしない。
「えっとね、盾也くん、きみの手首って確か掴まれたんだよね……」
ーーは?……掴まれた?……あ、ああ、御前崎 瑞乃のことか?
「なんだか強い香りがするよ」
「香り……」
そんなにどぎつい臭いはしないけど……たしかに、ほのかに良い香りはする。
成人女性なんだから香水くらいは付けていても不思議は無いだろうし。
俺はそう考えながら再び目の前に座ったままの少女に言葉をかける。
「少しするかも知れないけど……俺は良いかおり……」
「わたし、きらいだなぁ、それ」
うわっ……なんだか、凄いかぶり気味に言ってきた……
ていうか、やっぱり怒ってる?なにを?
そもそも、それよりなにより、終始笑顔なのがすごく怖い。
「そ、そうか……じゃあ、洗ってくるよ」
ーー逆らわない方が無難だ
咄嗟にそう考えた俺は、彼女にそう言って立ち上がった。
「ごめんね、ちょっと気になっちゃって」
申し訳なさそうに謝る羽咲。
あれ?なんだか機嫌が悪いのかと緊張したけど俺の思い過ごしか?
「いや、どうってことない、ちょっと待っててくれ」
そう言ってレストルームに移動しようとする俺に、彼女はさらに声をかけてくる。
「ちゃんとムーズで洗うんだよ」
ーーって、薬用石鹸ご指命かよ!!
俺は多分情けない顔で振り返っていただろう。
だって、普通無いだろ!、ファミレスのレストルームに薬用石鹸!?
「……う、羽咲さん……えっと、さすがに此所には……」
「それもそうだね」
「だよな……じゃあ普通の石鹸……」
ーーニッコリ♯
「?」
「買って来れば良いじゃ無い」
プラチナブロンドの美少女はニッコリと微笑んでそう判決を下したのだった。
第十六話「薬用石鹸(ムーズ)買ってきたら?」END
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