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流言

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 織田軍に混ざると、そそくさと雑兵の群れに紛れ込む。

 辺りを警戒しながら、しれっと鍋を囲む雑兵たちの輪に交じった。

 昌幸がふぅ、と息をつく。

「こうもあっさりと織田軍の懐に潜り込むとは……。大したものじゃ……」

 関心する昌幸を見て、秀吉がギョッとした。

「真田殿、それは……」

「ああ、雑兵たちに糧食を配っていたのでな。ご相伴に預かることにした」

 呆気にとられる秀吉をよそに、昌幸が雑炊を掻き込む。

「ううむ……美味いな。武田軍ほどではないが、織田の飯も悪くない……」

「敵地で飯を馳走になるとは……。なんと肝の太い……!」

 秀吉も雑炊をもらうべく、配給の列に並ぶのだった。





 秀吉が戻ってくると、いつの間にか秀吉の周りには雑兵たちがついてきていた。

「なんじゃ、そいつらは」

「武田の方が金払いがいいと言ったら、寝返るときた。……どうやら連中、親父殿……柴田勝家が討たれたことを知らぬらしい」

「まあ、当たり前の話よな……」

 織田軍で名のある武将が討たれたとなれば、兵たちが動揺してしまう。

 最悪の場合、兵たちが逃亡する危険性もあった。

 そのため、織田軍では箝口令が敷かれていた。

「なあ、今の……柴田様が討たれたというのは、まことなのか?」

 秀吉と昌幸の話を聞きつけて、雑兵たちが集まり始める。

 二人は顔を見合わせると、静かに頷いた。

「まこともまこと! あの柴田様が討ち死にされ申した!」

「武田の赤備えに包囲され、柴田様の軍は壊滅。儂らだけは、どうにか逃げおおせたが……。いや武田の兵は強いのなんの……」

「あの柴田様が……」

「やっぱり武田には勝てないのかなぁ……」

 織田軍で弱気な声が吹き上がる。

 そろそろ頃合いか。

 秀吉がふと思い出したような顔をした。

「……そういえば、武田の者にこちらにつかぬかと誘われておったな……」

「うむ。先着100名限定らしいのだが、はてさて、どうしたものかなぁ……」

 悩むふりをする昌幸。

 二人の元に、わらわらと雑兵たちが集まってきた。

「なぁ、寝返りの話、まことか!?」

「まだ空きはあるか?」

「是非紹介してくれ! わしも勝ち戦に乗りたい!」

 前のめりになる雑兵たちを前に、秀吉と昌幸がほくそ笑むのだった。





 部下から報告を聞き、家康が首を傾げた。

「なに、兵たちが動揺している?」

「はっ、それがどうも不穏な動きをしているようで……」

「……………………」

 家康がじっと考え込む。

 十中八九、今日の戦で武田軍が勢いづいたことが原因だろう。

「どれ、兵たちをなだめてくるか」



あとがき
木村吉清の時もでしたが、どうやら私は敵陣に潜入して無銭飲食する真田昌幸が書きたいのかもしれません
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