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第11話 極悪非道の噂
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シェフィが役人となってから、数日が経過した。
モノマフ王立騎士学校に通っていただけあり、頭の回転も速く、教養もある。突如現れた即戦力の人材に、家臣たちからの評判も上々だ。
おかげで、そんな彼女を発掘したライゼルの評価もまた上昇している。
優秀な人材を獲得し、さらには自身の評判も上々。まさに一石二鳥である。
そんな中、上機嫌で町を歩いてると、見覚えのある人影を見つけた。
(あれは……)
シェフィだ。
どうやら何かを探しているらしく、辺りをキョロキョロと見回している。
「よう」
「あっ、あの時の……」
こちらが挨拶をすると、シェフィがペコリと頭を下げる。
「仕事には慣れたか?」
「はい! おかげさまで、ライゼル様の元で役人になることができました! あなたには本当にお世話になりっぱなしで……一度お礼が言いたかったんですよ! 本当にありがとうございます!」
シェフィの言い方がどうも引っかかる。
と、そこであることに気がついた。
そういえば、まだ自分がライゼルだと名乗っていなかった。
雇う際は書類選考で通した上、下っ端のシェフィとライゼルとでは、用がなければ直接話すこともない。
そう考えれば、自分こそがライゼルなのだと知らないのも無理はない。
(……言っちゃおうかな。ちやほやされたいし……)
ライゼルがごほんと咳ばらいをする。
「そうそう、名乗り遅れたが……」
「そういえば、聞きました? ライゼル様の評判……」
「評判?」
「はい。なんでも、放蕩三昧で豪奢な生活をするために民に重税を課しているとか」
「それは……」
ライゼルが前世の記憶を思い出す前の話だ。
一応今は税率も軽くし、不要な物は売り払って資金繰りをした。
とはいえ、耳の痛い話に違いないが。
「ほかにも、資金不足を解消するため、商人を脅してお金を出させているとか……!」
「いや……いやいやいや。そんなことはないだろ」
これに関しては本当に心当たりがない。
ポンドンとは友人となり円満に資金を融資してもらったし、他の商人に対しても似たような扱いをしている。
多少こちらに有利な内容を提示したものの、それは向こうも承知の上での契約で、第一こちらの将来性を買ってくれているものだと思っていた。
「いったい、誰がそんなことを……」
◇
バルタザール家の本拠地、グランバルトの一角に構えた支店で、とある噂を流すべくポンドンは部下を差配していた。
「よろしかったのですか? あのような噂を流して……」
「かまわん。これくらいしなくては、私の虫が収まらんしな」
一度ならず二度までもライゼルの脅しに屈し、不利な契約を飲まされてしまった。
ライゼルの評判を貶めるべく、悪評を流していた。
「それに、当商会の評判に関わることだ」
「評判、ですか……?」
「あのような不利な契約……。ワケあって吞まざるを得なかったのだとしておかなくては、同業者にナメられるからな……」
一度あのような不利な契約を許してしまえば、つけあがった連中が同じような条件を出さないとも限らない。
そこで、ポンドンは一計を案じた。
“交渉の結果不利な契約を結んでしまった”ではなく、“脅された結果不利な契約を結ばざるを得なかった”としたのだ。
そうすれば、自分は不利な契約を結んだ愚か者ではなく、脅されて契約を結ばされた被害者になれる。
それでも同業者からは幾分か軽んじられるかもしれないが、同情も買うことができ、結果的には傷が浅くすむと考えたのだ。
「しかし、大丈夫なのでしょうか。もし、このことがライゼル様の耳に入れば……」
「心配するな。ライゼルは遠く開拓地に出張っている。……よほどこちらに密な情報網でも持っていない限り、やつの耳に入るのはずっと先だろう」
◇
言葉に窮するライゼルに、シェフィが鼻息を荒くする。
「ライゼル・アシュテント・バルタザール……。領民の生活を省みない悪徳領主と聞いていましたが、ここまで極悪非道とは……」
「……………………」
「そういえば、まだあなたのお名前を聞いていませんでしたね。何という方なんですか?」
先ほどまでの悪評を聞かされ、いったいどんな顔で名乗れというのか。
考えた末、ライゼルは声を絞り出した。
「俺は……ライ」
「そうでしたか! あらためてお礼を言わせてください。本当にありがとうございます、ライさん!」
笑顔で手を振りその場を後にするシェフィに、ライゼルは乾いた笑みを浮かべることしかできないのだった。
モノマフ王立騎士学校に通っていただけあり、頭の回転も速く、教養もある。突如現れた即戦力の人材に、家臣たちからの評判も上々だ。
おかげで、そんな彼女を発掘したライゼルの評価もまた上昇している。
優秀な人材を獲得し、さらには自身の評判も上々。まさに一石二鳥である。
そんな中、上機嫌で町を歩いてると、見覚えのある人影を見つけた。
(あれは……)
シェフィだ。
どうやら何かを探しているらしく、辺りをキョロキョロと見回している。
「よう」
「あっ、あの時の……」
こちらが挨拶をすると、シェフィがペコリと頭を下げる。
「仕事には慣れたか?」
「はい! おかげさまで、ライゼル様の元で役人になることができました! あなたには本当にお世話になりっぱなしで……一度お礼が言いたかったんですよ! 本当にありがとうございます!」
シェフィの言い方がどうも引っかかる。
と、そこであることに気がついた。
そういえば、まだ自分がライゼルだと名乗っていなかった。
雇う際は書類選考で通した上、下っ端のシェフィとライゼルとでは、用がなければ直接話すこともない。
そう考えれば、自分こそがライゼルなのだと知らないのも無理はない。
(……言っちゃおうかな。ちやほやされたいし……)
ライゼルがごほんと咳ばらいをする。
「そうそう、名乗り遅れたが……」
「そういえば、聞きました? ライゼル様の評判……」
「評判?」
「はい。なんでも、放蕩三昧で豪奢な生活をするために民に重税を課しているとか」
「それは……」
ライゼルが前世の記憶を思い出す前の話だ。
一応今は税率も軽くし、不要な物は売り払って資金繰りをした。
とはいえ、耳の痛い話に違いないが。
「ほかにも、資金不足を解消するため、商人を脅してお金を出させているとか……!」
「いや……いやいやいや。そんなことはないだろ」
これに関しては本当に心当たりがない。
ポンドンとは友人となり円満に資金を融資してもらったし、他の商人に対しても似たような扱いをしている。
多少こちらに有利な内容を提示したものの、それは向こうも承知の上での契約で、第一こちらの将来性を買ってくれているものだと思っていた。
「いったい、誰がそんなことを……」
◇
バルタザール家の本拠地、グランバルトの一角に構えた支店で、とある噂を流すべくポンドンは部下を差配していた。
「よろしかったのですか? あのような噂を流して……」
「かまわん。これくらいしなくては、私の虫が収まらんしな」
一度ならず二度までもライゼルの脅しに屈し、不利な契約を飲まされてしまった。
ライゼルの評判を貶めるべく、悪評を流していた。
「それに、当商会の評判に関わることだ」
「評判、ですか……?」
「あのような不利な契約……。ワケあって吞まざるを得なかったのだとしておかなくては、同業者にナメられるからな……」
一度あのような不利な契約を許してしまえば、つけあがった連中が同じような条件を出さないとも限らない。
そこで、ポンドンは一計を案じた。
“交渉の結果不利な契約を結んでしまった”ではなく、“脅された結果不利な契約を結ばざるを得なかった”としたのだ。
そうすれば、自分は不利な契約を結んだ愚か者ではなく、脅されて契約を結ばされた被害者になれる。
それでも同業者からは幾分か軽んじられるかもしれないが、同情も買うことができ、結果的には傷が浅くすむと考えたのだ。
「しかし、大丈夫なのでしょうか。もし、このことがライゼル様の耳に入れば……」
「心配するな。ライゼルは遠く開拓地に出張っている。……よほどこちらに密な情報網でも持っていない限り、やつの耳に入るのはずっと先だろう」
◇
言葉に窮するライゼルに、シェフィが鼻息を荒くする。
「ライゼル・アシュテント・バルタザール……。領民の生活を省みない悪徳領主と聞いていましたが、ここまで極悪非道とは……」
「……………………」
「そういえば、まだあなたのお名前を聞いていませんでしたね。何という方なんですか?」
先ほどまでの悪評を聞かされ、いったいどんな顔で名乗れというのか。
考えた末、ライゼルは声を絞り出した。
「俺は……ライ」
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