小物クズ領主の勘違い英雄譚 ~極悪非道な悪徳貴族……に勘違いされた小物貴族の成り上がり~

田島はる

文字の大きさ
12 / 51

第12話 新卒採用の裏

しおりを挟む
 その日の仕事を終え、宿舎に戻ったシェフィは通信魔道具を起動させた。

 帝国で最も広大な領地を持つだけのことはあり、バルタザール家の領地は広く、まともに手紙を送っていてはそれだけで機を逃してしまう。

 そこで、シェフィの元に希少な通信魔道具が配備されたのだ。

 魔道具の水晶の奥から、国王、イヴァン13世の声が聞こえてくる。

「シェフィよ……あれから二週間経った。バルタザールにはうまく潜入できたか?」

「はい。無事に街の役人に取り立てられ、行政官に昇進しました」

「!?」

 シェフィの報告に、イヴァン13世は動揺を隠せずにいた。

 元々、酒場なり冒険者ギルドでうまいこと情報を集めてくれればよかったのだ。

 それなのに、ただ情報を集めるどころか、この短期間にバルタザール家の中枢にも潜り込んだというのか。

(騎士学校の成績で選んだつもりだったが、よもやこんな才能が眠っていようとは……)

 見送った当初は頭の悪そうな顔立ちをしているように見えたが、今ではどこか知的な印象さえ受けてしまう。

 と、水晶越しに覗いたシェフィの顔色がおかしいことに気がついた。

「……時に、顔色が優れないようだが……」

「すみません。私の昇進祝いにと、たくさんごちそうになったもので……うっ……」

「……………………」

 こいつ、向こうに馴染むのが早すぎやしないか。

「あ、すみません。明日は早いので、手短にお願いします」

 シェフィが友達に頼むような気軽さで頭を下げる。

 国王に対する態度としてはありえないくらい不遜ではあるが、向こうは敵陣に潜入する代えの効かない存在だ。

 怒りを堪え、イヴァン13世が尋ねる。

「……何かあるのか?」

「カチュアが……ライゼル様おつきのメイドがよい服を見繕ってくれるとのことで、明日は早起きしなければいけないのです」

 ライゼル、様?

 違和感を感じつつ、続きを促す。

「ライゼルの側近とうまく接近したようだな。……して、どうだ。お前から見て……」

「はい。よく気がつく方です。日頃から私たちの様子に気を配っているのでしょう。よそ者の私をよく気にかけてくださりますし、私の服が少ないのを見て、買い物に付き合ってくれると申し出てくださいました」

「メイドの話はどうでもいい。ライゼルのことを聞かせろ」

「あっ、申し訳ありません! ライゼル様のことは……正直なところ、よくわかりません」

「……なに?」

「どうも避けられているようで、一向にお顔を拝見できないのです」

「むぅ……」

 ただでさえ開拓地で人口が少なく、ましてやシェフィは役人に起用されたのだ。

 そのシェフィと顔を合わせたことがないとなれば、たしかに避けられていると見るのが妥当だ。

「噂や伝聞でならいろいろお話は聞けるんですけどね。領民に重税を課しているとか、商人を脅してお金を出させたとか……」

「……………………」

 イヴァン13世の中で点と点が結びついていく。

 役人に登用されたスパイ。おいそれと会えない当主。極悪非道な悪徳貴族。

 まさか、これは……

「泳がされているな……」

「!? どういうことですか!?」

「考えてもみろ。普通、国の役人にはコネやツテがなければなれぬもの……。だというのに、他国から来た者が何のコネもなく取り立てられるなど、おかしいとは思わぬか? ましてやろくに身元を調べられず役人になろうなど、どう考えてもおかしいだろう」

「それは……」

 シェフィが言い淀む。

 見ず知らずの人間を役人に登用するなど、たしかに不自然な人事だ。

 上からよほどの圧力がかかったと見て間違いないだろう。

 考えられるとすれば、ただ一つ。

「やつら、わかった上で招き入れたのよ。獅子身中の虫を……」

「……! では、この状況……。すべてライゼル様の手の上で踊らされていると……?」

「うむ。……おおかた、お前を通してこちらに都合のいい情報を流そうという魂胆なのだろう。だからこそ、極力お前との接触を避け、伝聞情報しか伝わらないようにした」

 イヴァン13世の推察に、シェフィが息を呑んだ。

 これが事実だとしたら、なんと食えない男か。

「で、では、私がライゼル様に会えないのは……」

「万に一つがあってはならないからな……。仮に、そのスパイにライゼル暗殺の密命が下っては、対処が難しくなる……。なにより、狙い澄ませたようにお前だけに会わないとなれば、こちらの狙いに気づいているとみて間違いないだろう」

「な、なるほど……」

 シェフィが納得した様子で頷く。

「そして、間者とわかってて中に招き入れたのなら、別の見方もできる」

「……別の見方?」

「意思表示よ。……『我らと争う気はない』というな……。こちらと争う意志がなく、探られて困る腹がない。……ゆえに間者は泳がせてやっているのだ、とな」

「ではっ……! それを伝えるためにわざと私を引き入れたというのですか!?」

 シェフィが驚愕するのも無理はない。

 もし仮に、こんなことを本気で実行するのだとしたら、なんと大胆不敵、剛腕緻密な戦略なのだろう。

「そして、こちらにいくら情報を渡しても怖くないということは、裏を返せば自信の現れでもある。……『たとえすべての情報を渡したとしても、戦で負けることはない』そんな自信が見えてくるようだ」

「なっ……」

 なんという胆力……。これほどの傑物が今まで牙を出さずに身を潜めていたというのか……。

 近隣諸国から謀神と恐れられたイヴァン13世でなければ、この答えにはたどり着けなかっただろう。

「これほどの策を平然とやってのける男、というわけだ……ライゼルは……」

 そして、噂通り極悪非道で、目的のためなら手段を選ばない男だとしたら、当然向こうも・・・・暗殺や騙し討ちくらいはやってのけるだろう。

「ただの愚かな三代目かと思ったが……。よりにもよって謀《はかりごと》で儂に挑むか……。フフ……なかなかどうして楽しませてくれる……」

 若き策略家に思いを馳せ、イヴァン13世の口元が僅かに緩むのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

雪奈 水無月
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

処理中です...