44 / 51
第44話 ライゼルの真意
しおりを挟む
ライゼルがバラギットの財産を漁り、配下への恩賞とする傍ら、シェフィは本国への連絡を送っていた。
本当ならもっと早く連絡するつもりだったのだが、政務や移動時間が長く一人の時間が取れなかったため、連絡が遅れてしまったわけだが。
通信魔道具を起動させると、挨拶もそこそこに本題に入った。
「陛下、ライゼル様が勝利しました」
『まあ、そうだろうな』
驚くでもなく、イヴァン13世が応える。
あれほどの兵力差があったとはいえ、ライゼルは頭の回転の速い男だ。
内戦で勝利を収めたとて、不思議なことではない。
『……まあ、こちらもライゼルに貸しを作れたのだ。此度の戦役、我らにも利するところろがあった。……フフフ、さて、どうしてくれようかな……』
この「貸し」を武器に、ライゼルとどう交渉しようか思案するイヴァン13世。
こちらの農作物を高く買ってもらおうか、あるいは向こうの鉱物資源を安く売ってもらおうか。
どちらにせよ、こちらに利益のある話だ。
「それにしても、少し意外でした」
『……何がだ?』
「ライゼル様にお味方したことです。てっきり、漁夫の利を狙うものかとばかり思っていたので……」
『……………………』
一瞬、シェフィの言葉が理解できなかった。
内乱の隙を突いて漁夫の利を獲りに行くのは悪い選択ではない。
事実、ライゼルの策を知らなければ、獲りに行っていたかもしれない。
しかし、それをしなかったのは、シェフィの存在をライゼルに利用されるのを防ぎ、さらにこちらに利するように行動しようとしたからこそ起きたこと。
あくまで、漁夫の利を獲りに行く以外に最適解があったからそうしたに過ぎないんだ。
と、そこまで考えて気がついた。
本当にそうか? あのライゼルが、こんな単純なことに気がついてないなんてことがありえるのか?
おそらく、すべてわかった上でシェフィを配置したのだろう。
ちょうどモノマフ王国がライゼルに対して恩を売れる形を作り、実際に恩を売らせるよう仕向けている。
では、なんのためにそんなことをする必要がある。
こんなことをして、ライゼルに何のメリットがある。
(こちらに貸しを作らせる。その結果、ライゼルはどこかで借りを払うことになる――)
「……陛下?」
やられた、と思った。
こちらが嬉々としてライゼルに貸しを作るのも見越して、ライゼルは策を練ったのではないだろうか。
「あの、どうかしたんですか?」
『……シェフィ、仮にお前が友人に金を借りていたとする』
「あの、陛下?」
『黙って聞け。シェフィ、お前が友人から金を借りているとして、その友人はお前に危害を加えると思うか?』
「うーん……。そういうことはしないんじゃないですかね。仲が悪くなってしまったらお金を返してもらえなくなるかもしれないですし……」
『そう。お前が機嫌を損ねれば、その友人は貸した金をとりっぱぐれる恐れがある。……力づくで金を返させようとしては、それこそ踏み倒されるであろう』
「あの、それが今回の件と何か……」
『今、貸しを作ろうとしている――作っているのは我々モノマフ王国だ。借りているのはライゼル。……この意味がわかるか? こちらが貸しを作った気になって喜んでいる限り、バルタザールに侵攻できない、ということだ』
「あっ!」
ここに来て、ようやくシェフィも状況を理解したらしい。
『なまじ「貸し」というカードを手に入れてしまったばかりに、我々はライゼルに貸しを踏み倒されるリスクを背負ってしまったのだ』
今回の内乱でモノマフ王国はライゼルに対して貸しを作ってしまった。
その結果、バルタザール領に侵攻するということは、せっかく作った貸しを無に帰す行為ということになり、今回の作戦計画がすべて無為なものとなることを意味している。
さしずめ、今回の一件で強引にライゼルとの協調路線に立たされてしまったと言っても過言ではない。
『これだけではない。対外的に見て、今回の戦いはどうだ。バルタザールの内乱に、我らモノマフが援軍に出した形となる。……すなわち、ここで我らがバルタザールに牙を剥こうものなら、「盟友に手を出す不義な国」とそしりを受けることとなろう』
「あっ……」
ことの重大さに気がついたのか、シェフィが声を挙げる。
『……さしずめ、沈む船に無理やり乗せられたようなもの。まったく……船が沈まぬよう、ライゼルのために水汲みをさせられる羽目になったわ』
ライゼルに利用され己の浅はかさを悔やむイヴァン13世に、シェフィが言った。
「それって悪いことなんですか?」
『……なに?』
「わたしがこちらに派遣されたのは、バルタザール家にモノマフ王国侵攻の意図があったのか探るためだったはずですよね? でも今回の件でライゼル様がうちと仲良くしたいって意思表示をしたのなら、そのまま仲良くしちゃえばいいんじゃないですか?」
『……………………』
シェフィの言うことも一理ある。
ライゼルが進んで借りを作るということは、逆に言えばこちらに対して協調路線を取ろうとしているか、初めから借りを踏み倒す前提で借りているかのどちらかしかありえない。
後者はバルタザール家が内乱に見舞われたことを鑑みると考えにくく、そうなると、ライゼルの真意は前者ということになる。
『……儂は決めたぞ』
◇
バラギットの屋敷で謎の地図を見つけたライゼルは、その意味を探るべく調査にあたっていた。
とはいえ、その手の知識がないライゼルが見たところで、結果はたかが知れている。
こういう場合は専門家に任せるのが適任だろう。
屋敷の空き部屋で何やら作業をしていたシェフィを見つけると、ライゼルが声をかけた。
「シェフィか。ちょうどいい。お前に見せたいものがあるんだが……」
「ライさん……いえ、ライゼル様。これから会って欲しい方がいるのですが、よろしいですか?」
本当ならもっと早く連絡するつもりだったのだが、政務や移動時間が長く一人の時間が取れなかったため、連絡が遅れてしまったわけだが。
通信魔道具を起動させると、挨拶もそこそこに本題に入った。
「陛下、ライゼル様が勝利しました」
『まあ、そうだろうな』
驚くでもなく、イヴァン13世が応える。
あれほどの兵力差があったとはいえ、ライゼルは頭の回転の速い男だ。
内戦で勝利を収めたとて、不思議なことではない。
『……まあ、こちらもライゼルに貸しを作れたのだ。此度の戦役、我らにも利するところろがあった。……フフフ、さて、どうしてくれようかな……』
この「貸し」を武器に、ライゼルとどう交渉しようか思案するイヴァン13世。
こちらの農作物を高く買ってもらおうか、あるいは向こうの鉱物資源を安く売ってもらおうか。
どちらにせよ、こちらに利益のある話だ。
「それにしても、少し意外でした」
『……何がだ?』
「ライゼル様にお味方したことです。てっきり、漁夫の利を狙うものかとばかり思っていたので……」
『……………………』
一瞬、シェフィの言葉が理解できなかった。
内乱の隙を突いて漁夫の利を獲りに行くのは悪い選択ではない。
事実、ライゼルの策を知らなければ、獲りに行っていたかもしれない。
しかし、それをしなかったのは、シェフィの存在をライゼルに利用されるのを防ぎ、さらにこちらに利するように行動しようとしたからこそ起きたこと。
あくまで、漁夫の利を獲りに行く以外に最適解があったからそうしたに過ぎないんだ。
と、そこまで考えて気がついた。
本当にそうか? あのライゼルが、こんな単純なことに気がついてないなんてことがありえるのか?
おそらく、すべてわかった上でシェフィを配置したのだろう。
ちょうどモノマフ王国がライゼルに対して恩を売れる形を作り、実際に恩を売らせるよう仕向けている。
では、なんのためにそんなことをする必要がある。
こんなことをして、ライゼルに何のメリットがある。
(こちらに貸しを作らせる。その結果、ライゼルはどこかで借りを払うことになる――)
「……陛下?」
やられた、と思った。
こちらが嬉々としてライゼルに貸しを作るのも見越して、ライゼルは策を練ったのではないだろうか。
「あの、どうかしたんですか?」
『……シェフィ、仮にお前が友人に金を借りていたとする』
「あの、陛下?」
『黙って聞け。シェフィ、お前が友人から金を借りているとして、その友人はお前に危害を加えると思うか?』
「うーん……。そういうことはしないんじゃないですかね。仲が悪くなってしまったらお金を返してもらえなくなるかもしれないですし……」
『そう。お前が機嫌を損ねれば、その友人は貸した金をとりっぱぐれる恐れがある。……力づくで金を返させようとしては、それこそ踏み倒されるであろう』
「あの、それが今回の件と何か……」
『今、貸しを作ろうとしている――作っているのは我々モノマフ王国だ。借りているのはライゼル。……この意味がわかるか? こちらが貸しを作った気になって喜んでいる限り、バルタザールに侵攻できない、ということだ』
「あっ!」
ここに来て、ようやくシェフィも状況を理解したらしい。
『なまじ「貸し」というカードを手に入れてしまったばかりに、我々はライゼルに貸しを踏み倒されるリスクを背負ってしまったのだ』
今回の内乱でモノマフ王国はライゼルに対して貸しを作ってしまった。
その結果、バルタザール領に侵攻するということは、せっかく作った貸しを無に帰す行為ということになり、今回の作戦計画がすべて無為なものとなることを意味している。
さしずめ、今回の一件で強引にライゼルとの協調路線に立たされてしまったと言っても過言ではない。
『これだけではない。対外的に見て、今回の戦いはどうだ。バルタザールの内乱に、我らモノマフが援軍に出した形となる。……すなわち、ここで我らがバルタザールに牙を剥こうものなら、「盟友に手を出す不義な国」とそしりを受けることとなろう』
「あっ……」
ことの重大さに気がついたのか、シェフィが声を挙げる。
『……さしずめ、沈む船に無理やり乗せられたようなもの。まったく……船が沈まぬよう、ライゼルのために水汲みをさせられる羽目になったわ』
ライゼルに利用され己の浅はかさを悔やむイヴァン13世に、シェフィが言った。
「それって悪いことなんですか?」
『……なに?』
「わたしがこちらに派遣されたのは、バルタザール家にモノマフ王国侵攻の意図があったのか探るためだったはずですよね? でも今回の件でライゼル様がうちと仲良くしたいって意思表示をしたのなら、そのまま仲良くしちゃえばいいんじゃないですか?」
『……………………』
シェフィの言うことも一理ある。
ライゼルが進んで借りを作るということは、逆に言えばこちらに対して協調路線を取ろうとしているか、初めから借りを踏み倒す前提で借りているかのどちらかしかありえない。
後者はバルタザール家が内乱に見舞われたことを鑑みると考えにくく、そうなると、ライゼルの真意は前者ということになる。
『……儂は決めたぞ』
◇
バラギットの屋敷で謎の地図を見つけたライゼルは、その意味を探るべく調査にあたっていた。
とはいえ、その手の知識がないライゼルが見たところで、結果はたかが知れている。
こういう場合は専門家に任せるのが適任だろう。
屋敷の空き部屋で何やら作業をしていたシェフィを見つけると、ライゼルが声をかけた。
「シェフィか。ちょうどいい。お前に見せたいものがあるんだが……」
「ライさん……いえ、ライゼル様。これから会って欲しい方がいるのですが、よろしいですか?」
0
あなたにおすすめの小説
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。
音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、
幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。
魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。
そして再び出会う幼馴染。
彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。
もういい。
密かにやってた支援も打ち切る。
俺以外にも魔道具職人はいるさ。
落ちぶれて行く追放したパーティ。
俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。
帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
雪奈 水無月
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる