隊員の内部事情

元次三蔵

文字の大きさ
2 / 5

PP1 配属の前夜

しおりを挟む
「ようやく終わったぁー!」
 同期の細川が大声で叫んでいた。
「マジで長かったわ。これでようやく1人前かぁ」
 もう1人の同期、太田も細川につられて声を大にしていた。

 この2人は高校からの同級生でいつもつるんでいる。

 細川は名前と反してゴリゴリの筋肉質。アダ名は「ゴリ川」。太田はぺらっぺらのぺら男。アダ名は・・・・・・特にない。二人合わせて「マッキー」と呼ばれている。いわゆるマッキーペンが由来だ。よく自衛隊では自分のものにマッキーで名前を書く。その際班長が「お前ら太いと細いからマッキーだな」で今に至る。

 今まさに新隊員教育という半年間のシゴキを終えて部隊配属を明日に控え、最後の同期会(と言っても茶話会)を行っている最中である。班長達は最後だからと気をつかい同期だけで楽しめと言っていたが、私服を来ていたため外で宴会するんだなとすぐ察した。

「マッキー達は同じ中隊でいいなぁ」
「マッキーって呼ぶな!!」
 細川の声に皆の笑いが響く。
「ほんとだよね。俺なんて同じ区隊の奴いないよ」
「俺は松木と一緒だけどなんせ5中隊配属だぜ・・・・・・」
「マジっ!? 5中!? 俺先輩からあそこは殴る蹴る当たり前の中隊だって聞いたぜ」
「俺んとこの1中もパワハラやばいって・・・・・・」

 根も葉も無いような話が飛び交う。そんなことより早く部隊配属したいな。と思いながら俺はこの半年を振り返った。そしてため息をついた。

 正直新隊員教育はガッカリした。別に俺はミリオタではないが、それでも自衛隊に入るからと思い、戦争映画を何作か見て胸が熱くなるところはあった。特に「アメリカンスナイパー」を見たときは、シールズを目指す隊員達が過酷な訓練の中、教官から水と罵声を浴びせられながらも士気の高い仲間たちと共に苦しみを乗り越える!そして卒業と共に戦場へ行き・・・・・・。はぁ、長くなるから以下略。
 とにかく、もっとこれが軍隊か!!みたいなものが欲しかったのだ。シールズの訓練に比べれば新隊員教育は戦争ごっこみたいに感じた。そしてまたため息がでた。

「おいっ!! 禿、何ため息ついてんだよ! 明日から同じ中隊だから頑張ろうぜ!」
 太田が絡んできた。
「ハゲじゃない!! カムロだ!!」
 
 「禿 尊」と書いて「カムロタカシ」という名前だ。珍しい苗字のため誰しもが最初は間違える・・・・・・てか読めない。読めるけど、絶対違うという本能的なものが働き読めない。だからほとんどは自分から言う。唯一まともに呼ばれたのは高校の時の古文の先生だけだ。あの時は初めてちゃんと呼ばれたため、「カムロ」と呼ばれたのに「カムロです」と言い返し変な空気になったことは今でも忘れない。

「いやいや、カムロって呼んだじゃん」
 細川もでてきた。
「今お前の心の声が聴こえたんだよ! マッキーと一緒だからため息ついただけだ」
「マッキーじゃぁねぇよ! ハゲ!」
 細川と太田のハモりツッコミに皆笑った。

 ようやく明日から始まる俺の自衛隊人生。高鳴る気持ちを胸に俺はベットに入った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...