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らぶてぃ6
しおりを挟む「貸せ、消してやる」
「やーだよ」
先生から遠退き、あたしは保存した画像を見る。しっかりと、先生の真顔が写っていた。少しきょとんとしていて、可愛かった。
先生が手を伸ばしている。それをあたしは黙って見つめる。
互いに見詰め合う。
先生は怒り顔。
あたしはにへら顔。
しばらくして、負けてくれたのは先生だった。
「他の奴に見せんなよ。あと、眼鏡返せ」
「へーい」
敬礼しつつ、やったーと心でガッツポーズ。そこでふと思い立って、反対の手にあった眼鏡を掛けてみた。
「うお」
そしたら世界が歪んで見えた。不思議な光景に、別世界が到来。
というか気分が悪くなる。
うげ。
「う、こっちのほうがくらくらする」
「馬鹿、目がいい奴がするな」
先生が怒り、あたしの顔から眼鏡を奪った。慌てて取り替えそうとするけれど、距離感が掴めなくて逃げ切れなかった。ちぇ。
あたしを睨みながら、先生は鳥返した眼鏡を付け直す。
その仕草が、地味に好きだ。
「せんせ、目悪いんだね」
「頭いい分、目が悪いんだよ」
「なるほど」
「納得するなよ」
あたしの返事に、先生が呆れて肩を揺らす。どちらかといえば見下した感じで、大人な男のひとが、あたしのような子供を嗜める。
その視線が、誰でもないあたしだけに向いているのが心地良かった。あたしの独占欲が、満足感に満たされる。
「そろそろ帰れ。真面目に、帰って勉強しろ」
「へーい」
先生の忠告に、あたしはまた敬礼を施す。
適当返事に先生が呆れた顔をする。
あたしはそんな先生に笑いかける。先生が呆れるのも好き。先生が怒るのも好き。舌打ちするのも、少し嫌だけど好き。
「帰り、誰かに襲われちゃったりして」
「そう思うなら、人気の多い所を歩いて帰れ」
あたしの馬鹿っぷりに、先生はいつも遠慮しない。
冷たい唇から零れる言葉はやっぱり冷たくて、大人でしっかりしていて、あたしを見下していて、丁寧で。
そんな先生に、あたしは惚れた。
昔も、今も、これからも。
だからあたしは、好きでいられた。
「もうちょっとだけ、居てもいい?」
「……勉強、するならな」
あたしの恋事情。大人になるまで待つなんてありえない。
命短し、恋せよ乙女。
○○○
「むー」
先生の冷たい目が、石膏の美人を見ている。
それをあたしは見つめている。
絵を描く先生の視線の先に、なってみたいと思ったことが何度もある。見られたら、先生の魔力で石化して動けなくなるんだけど。
二人きりになれるチャンス期間、別名テスト期間は、あっという間に過ぎていった。
あたしは美術室の隣にある準備室で、明日のテスト最終日にある、数学試験に向けて猛勉強中だった。
数学は少し不得意だった。
他の教科は問題ないけれど、数学だけは、どうしても先生が嫌いなせいで理解が悪い。点数は上位だけれど、一位は取れていない。
「大丈夫か?」
「うん。へいき」
先生の視線と声が、たまにあたしに活を入れてくれる。その度に、あたしは背を伸ばしてノートにシャープペンを走らせる。少しうたた寝していたのかもしれない。
先生の冷たい声が、いい気付け薬になるんだよね。
とか言って自分を励まして笑う。
そんなあたしを見る先生の目は、冷やかな感じだった。
うー、寝たくて寝てるんじゃないんだよう。
この数日間、あたしはこの準備室でテスト勉強に精を出していた。優等生と言われるけれど、天才ではなく努力家なだけなのです。
あたしとしては、もう充分じゃないかなと思う。勉強が好きか嫌いかで言うと嫌い。どこかの大学に行ければいいと思っているので、塾にも通っていない。
数学は特に嫌いだから、今日の勉強は今ひとつ乗り気じゃない。
それでも先生の監視の下、あたしは何とか解こうとして問題を読む。黙って、問題文を読み上げていく。声に出して、ぶつぶつと。
対して先生の手は、紙に線を描いていた。
ぶつ、ぶつ。
読んで数字を書く。全然分からない。
先生の手が止まったのを横目に、あたしは「はい!」と、手を上げた。
「何だ」
「せんせ、わかんない」
「またかよ」
あたしの降参に先生が嘲笑う。
先生の瞳が、石膏美人から生きた女子高生に移る。
あたしは手をあげたまま、先生を待った。呼ばれた先生が椅子から立ち、歩み寄ってきてくれる。じっと、黙って待つ。
先生は気だるげに、机に広げた問題やらテキストやらを眺めて、首を捻る。あたしの顔の位置に、先生の顔が来る。
うわ、緊張する。
「どれだ?」
「三の、四。これ」
その横顔を、あたしはちら見する。役得だなーと思う。この人と一緒に居ると、なんか大人になった気になる。もちろん、気がするだけであたしは断然、子供なんだけど。
そしてこの勉強を美術室隣の準備室でしているのは、あたしの我侭じゃない。
そう、そこだけは言いたい。
この部屋で勉強しろと言ったのは、あたしではなく先生だ。
「明日から美術室で勉強? 何で?」
「お前、家で一人だと悶々とするだろ」
そう笑ってあたしの頭を撫でてくれたのは、テスト初日のえっち後。
ひさびさに先生と一緒になって、むちゃくちゃ嬉しくて喜んでいたあたしに、幸せの追い討ちをくれたのは先生だった。
願ったり叶ったりだった。
「やるやるっ!」
あたしは二つ返事で頷いた。
テスト勉強とはいえ、先生と一緒に居られる口実が出来たと言ってもいい。
あたしはそれから期間中、テストを終えるとココ、美術室隣の準備室に来ていた。
当然、こっそりと来ている。
親や友達には、図書館とかで勉強していると嘘を付いた。
真っ赤な嘘は付いていない。
テスト自体も昼で終わるから、お昼は学食とか、お弁当を食べて来る。そして昼から、美術室であたしは勉強している優等生さんだ。
先生の為になら、あたしは真面目にもなれるんだ。そんな事を言ったら、
「お前は俺の為に勉強してるのか? 馬鹿か?」
なんて笑われた。
先生を独占できる期間……とは言っても、先生はいつもここにいるわけじゃない。今は居るけれど。
授業がなくても先生にはやる事があるらしくて、美術室よりも職員室に入り浸っている事が多い。
だけどたまにあたしがサボっていないかを見に来てくれるから、あたしもつい、頑張るという結果になっている。
それも今日で最後だった。
とりあえず、今日からまたしばらくは二人きりになれなくなる。そう思うと辛い。
少し寂しいなんてものじゃない。
もんっの凄く、寂しい。
ノートに先生の名前をフルネームで書いてしまうくらいに寂しい。ついでに先生の苗字にあたしの名前を書いてしまうくらいに寂しい。
「……ってなる。わかるか?」
「せんせ、数学の教師になったら?」
「馬鹿。俺は美術教師」
先生が吐き捨てて、あたしの元から自席へと戻っていく。もうちょっと居てくれてもいいのになと思いながら、あたしはその背中に、いつものようにべーっと舌を出した。
もちろん、嫌いの裏返し。
先生が椅子に座り、あたしを横目に失笑を零す。
それからまた、先生は絵を描き始める。
そういえば今度、コンクールに出すとか言っていたっけ。
美術の先生もいろいろ忙しいのに、大変だなーと思う。と、教えてもらった問題を解きながら、ふと思った疑問に首を捻る。
「そういえば何で、美術の先生なのに数学がわかるの?」
「頭がいいから」
酷く冷たい回答が来た。
《続く》
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