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らぶてぃ7
しおりを挟む「別にあたしだってそこまで馬鹿じゃないし」
「でも数学は苦手なんだろう?」
先生がしれっと言ってきて、あたしの頬が勝手に膨らんでしまう。いやもう、そりゃね、あたしも一生賢明勉強するんだよするんですが、頭に数式が入らないんです。少しも全然頭に入らないから、点数悪いんですって思うんだ。
「先生の好き嫌いで点数変わるのはなぁ」
「うー。せんせの意地悪」
「ちなみにそこ、テストに出るぞ」
あたしの苛立ちを無視して、先生が問題を指差して教えてくれた。一瞬、何の事かわからない。
問題を見て、
「これ?」
「それ」
と会話する。納得して、幻滅。難しいのに。
「えー、これでるの?」
「五回は解け。それで、答えと解き方を暗記しろ」
先生に言われて、うそだーと思った。でも、先生が言うからそうなんだろうと信じた。 五回解いたってわかんないし。覚えるだけなら、できるけど。
そう思いながら、でもそのまま出るわけないしとか言おうとして、うだうだ言い続けると先生に怒られるので押し黙る事にした。
とにかく問題を解こうとして、ふいに気付く。
何だか、心にずんと重いものが浮かんだ。
「もしかしてせんせ、数学のテストの問題、あたしの為にこっそり見てくれたの? うわ、職権乱用? えこひいき?」
あたしの問いに、照れるか怒る、と思った先生はすまし顔だった。
え、まじで、図星?
あたしは驚き、
「うわ、どうしよう」
と声を上げた。
さすがにまずい。先生が悪だ。悪い人だ。職権乱用は駄目だー。これで先生が処罰を受けて先生じゃくなったら……それもいいなと思ったあたしは最悪の馬鹿生徒。
さすがにこれは胸に秘めておく。
「せんせ、あたし誰にも言わないからね」
「あん?」
けれど先生は特に気にする様子もなく、手も止めず絵を描いている。あたしの顔を見もせずに、先生は小さく溜息を吐いた。
うわ、馬鹿にされている。
そんな溜息だった。
「え、問題見たんじゃないの?」
「まさか。別に木山さんと仲がいいわけでもないし、そもそも俺は美術教師だぞ。数学の問題なんて、見せてもらう理由がない」
「じゃあ何でわかるの?」
「ちょっと考えりゃ、出る問題くらいわかるだろ?」
「全然?」
「じゃあ何でお前は他の点数がいいんだよ」
「だって授業で出た問題全部覚えるだけだもん」
「なるほど、努力で乗り越えていたんだな? ってことはお前、やっぱり馬鹿か」
先生が失礼だ。図星路線がなおさら失礼だ。
あたしは不貞腐れ、問題暗記に取りかかる。もういいや、覚えちゃえ。
「出るのかー。えー」
先生を信じて、問題を眺める。
黙ったまま、数学の問題を見て、ふと窓から吹き込んでくる風に瞼を閉じる。寝てない、寝てないから。
そう思いながら、部屋の中を通っていく涼しさに、頬が緩む。
ふと顔を向ければ、先生も気持ち良さそうに笑んでいた。
何か、役得だなぁとつくづく思う。
狭い準備室に、あたしと、先生が二人だけなのは心地が良かった。
あたしの独占欲が満腹感でいっぱいになる。
美術室の鍵は、たぶん閉まっている。前に一度、他の先生が来た時、準備室に入ってろと言われた事がある。それからは、美術室よりも準備室に居る事の方が多い。
そう思うと、何か釈然としない。
今って、あたしを隠しているんだよね。
ふいにあたしは、現実を感じた。
生徒であるあたしは、先生の彼女と言えない制約を受けている。
先生も、あたしを彼女だと言えない制約がある。
秘密と言えば聞こえはいいけれど、秘密にしなきゃいけない本人からすると、苦しいだけだったりする。
誰にも言えない。
それがもどかしいと、思った事はたくさんある。けれどそれは、言ってはいけないことなんだ。
そんな事を先生に言ってしまったら、あたしはたぶん、捨てられる。きっと「邪魔でうざい」と切り捨てられ、さっさとゴミ箱にぽいだ。焼却炉に放り込まれて、あたしは燃え尽きて凍え死ぬ。
そう思った途端、目頭が熱くなった。
やばい、泣きそう。
指で目頭を押さえ、震える唇を噛み締める。目頭を指で押さえる。欠伸して誤魔化す。
涙が目尻に浮いた。
ええい、あたしよ、泣き止めっ。
深呼吸して、咳払いをする。
声は案外、震えていない。よし。
「せんせ。美術の今度の課題、おまけしてよ」
「駄目だ」
泣き声を誤魔化すあたしのお願いを、先生は頑なに拒否した。泣きそうな自分への活を入れるように、「えー、いいじゃん」と先生に子供ぶる。
「馬鹿」
二文字。たったの一言で、あたしの我侭はなぎ倒される。いつもの事だけれど、まずい、更に泣きそう。
「せーんーせー」
「甘えんな。俺は、お前にえこひいきなんてしない。さっさと問題解け」
「けち」
あたしの呟きに、先生が冷たい目で睨んでくる。その目は石化効果を持っていて、見つめられると、あたしの反論心は粉々に砕け散ってしまう。
先生はだから、意地悪だ。
「さっさと覚えろ」
「でも数学って、答え覚えたって意味ないよ」
「現国と同じだ。お前は記憶力悪くないんだから。書いて、その問題を基準に考えりゃ解ける。俺と付き合ったからって成績下げられてたまるか」
先生が嘲笑う。
その態度に反する優しさが憎かった。
「せんせ、責任感じてる?」
「感じていないわけがないだろうが」
先生が吐き捨てる。あたしは何だか、照れてしまう。
「俺のせいで人生棒に振らせてたまるか」
先生の吐き出した言葉は現実味を帯びていた。あたしは唇を噛み締める。
確かに映画とか、好きな事だと台詞とかシチュエーションとか覚えてる。
先生に窘められ、あたしは俯き、勉強へと舞い戻る。
何か、何か悔しい。
先生は大人で、子供のあたしなんか、手のひらで転がされている。
「頑張れ」
「……はぁい」
でも、転がされているのが嫌わなけじゃない。あたしは、そんな先生の全てが……好きなのだ。
先生の声も行動も、考えも何もかもが好き。
あたしは、好きだ。
「せんせ、好き」
「黙って覚えろ」
冷たくても、好き。
《続く》
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