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らぶてぃ8
しおりを挟む「聞いてくれるだけでいいんです。せんせ」
女子生徒は言った。
拳を握り鼻息荒く思いの丈を彼女は、
「好きです」
きっぱりと言い放った。
恋する乙女の愛の告白は短く簡単だった。
ごく普通の恋する女子高生なら、誰だって一度はやるだろう体当たりの告白に、フラレたらどうしようとか、噂が立ったらどうしようとか、ましてや諦めようなんて選択肢はなかった。
彼女の恋は、そんな形の恋事情だった。
ただし彼女の場合、告げる相手が悪かった。
「馬鹿か?」
「はい。馬鹿です」
美術室隣の準備室に押しかけた生徒が、先生の背中に向かって告白をした。
先生は口数少なく、冷たい言葉に磨きが掛かっていた。
生徒の緊張は更に増した。そのせいで彼女は、数多の恋する台詞をすっ飛ばして、気持ちだけを告げる事になってしまった。
先生は一拍の間を置いて振り向いた。
その瞳は真剣で、笑ってなどはいなかった。
真面目な顔で、真面目な瞳で、女子生徒を睨んでいた。先生は女子生徒の独白に驚いてはいなかった。
だから彼女は図に乗った。
聞いてくれるからと調子に乗った。
「付き合って下さい、せんせッ!」
彼女は決めた。今しかないと覚悟を決めた。
女子生徒は、先生の言葉を待たずして声を荒らげ捲くし立てる。
「先生が好き。前から、先生が、好きっ」
「やめとけ。ガキはガキらしく、同級生を好きになる方が楽だ」
「そんなの、いや」
彼女を見る先生の目の冷やかさは、少しも揺るがなかった。
女子生徒は構わずに、先生に「好きなんです」と気持ちを告げ続ける。さすがの先生も呆れ、顔が下がった。直球の連続だった。
先生がまた、彼女に背を向けた。
「聞き分けろ」
「いやですっ」
先生は何かの作業をし始めて、彼女は先生に歩み寄る。邪魔をしているのは女子生徒にもわかっていた。でも彼女には今しかなかった。
たまたま部長が早退した日だった。他の部員もそれに便乗し早めに帰宅して、彼女は先生に片付けを手伝うなんてありきたりな提案をした。
先生は、「じゃあ、手伝え」と偉そうに笑った。
女子生徒は、それに従った。
先生に手伝わされる間、女子生徒は隙をうかがった。先生に告白するチャンスを狙った。でも先生のガードは妙に固くて、なかなか言葉をかけられなかった。
そして片付けを終えた女子生徒は、お礼を言われて、美術室を出された。
「お疲れさん」
なんてさらっと言われて外に出された。
そして女子生徒は失敗した。憤慨した。苛立ち、上履きを鳴らした。思い立ったら吉日だった。恋する乙女は全開だった。
彼女は踵を返して部屋のとびらに手を掛けた。
鍵が掛かっていた。
指が痛かった。
手首が痛かった。
だから、彼女は自棄になった。
「だいたい、なんで窓から入ってくるんだ」
「追い出されたから」
先生の呆れ声に、彼女は胸を張った。
美術室を追い出されたせいで、女子生徒の気持ちに拍車が掛かった。
彼女は美術室の隣の教室から、ベランダ伝いに美術室を抜け、先生の居る準備室へと忍び込んだのだ。
さすがの先生も驚いていた。
けれど怒鳴るでもなく嗜めるでもなく、「どうした?」と、素朴に声をかけてくれた。
物凄く丁寧な一言だった。
泣き出しそうなくらいに、丁寧だった。
「っ……ひっ、く」
第一声から、声を震わせて嗚咽を押し殺す生徒に、先生は何も言わなかった。言葉を要求してこなかった。黙ったまま俯く彼女を、先生は急かさなかった。
だから彼女は、話し出すまでの十分間、先生の優しさを噛み締めた。
好きという気持ちを確かめた。
ここで否定されて、捨てられるのが怖いとか、そんな予想で女子生徒が引くわけがなかった。
乙女の恋は猪突猛進なのだ。
「好きなんですッ!」
「気持ちセール中かお前は。だいたいな、生徒が教師に抱くその気持ちはな、大概がはしかみたいなもんだ。安心しろ。すぐ冷める」
女子生徒の気持ちを、先生は受け止めてくれなかった。それが彼女には歯がゆかった。嫌いだと、お前なんて恋愛対象外だと言われたら、彼女は諦めただろう。
「せんせ、こっち向いて」
「聞くだけでいいって言ったのは誰だよ」
先生が失笑混じりで、また振り返ってくる。そこにあるのは笑顔だった。しょうがない奴だなあ、とでも言わんばかりの苦笑顔だった。
「戯言ならよそでやれ」
「本気だもん」
「馬鹿。誰も本気じゃないとは言ってないだろ。お前の気持ちはわかった。でも、駄目だと言っているんだ」
先生の声がいつもより荒かった。
女子生徒の知る先生とはまた違う一面に、彼女は苦しげに顔を歪めた。この人を好きで居続けたい。そんな気持ちで、彼女は先生を睨みつける。
その視線を、先生は受け止めている。ただし嘲笑っていた。
「病気は治るか、酷くなるかのどっちかだ」
先生は大人な言葉で、女子生徒に教え込むように告げていく。女子生徒は首を振った。黙ったまま、彼女は拒絶した。
「だったら、治らなくていい」
先生の呆れる様が、彼女の心を締め付けた。
「お前はだから、悪化する前に終わっとけ。猪突猛進がモットーのお前が教師と恋愛なんて、熱出してぶっ倒れるのがオチだ」
先生が呟く。
その言葉に、彼女の胸の奥のハートが吠えた。
「冷めない恋なんて、ないから」
彼女なりに悩んだ末の、言葉を吐いた。先生の眉間に皺が寄る。彼女の唇が怯えて震える。時が一瞬、止まった。
「ああ?」
女子生徒の反論に、先生が不機嫌な顔をした。大人らしくない言葉遣いに、彼女の肩が震えた。怖かった。
先生に否定される恐怖で身が竦む。それでも彼女は逃げなかった。
「好きで居続けられないから好きになるな、なんて変だよ」
「……はぁ。正論を言うな」
「言ってるのはせんせ、だし」
女子生徒が必死に抵抗する。半ば忍び込むような準備室への押し入りに、彼女の気持ちも高ぶっていた。
彼女は今にも飛びかかりそうなくらいの勢いで先生に近付く。歩み寄る。
「せんせが好き。誰よりも」
「お前の気持ちがどうとかじゃない」
先生が俯き、視線を生徒から窓の外へと向いた。
先生が小さく舌打ちをした。
「お前が前から、そういう目で俺を見ているのは、何となく気付いてはいた。でもな、駄目なんだ。お前の気持ちを、俺は受け入れてやりたい気持ちが、ないわけじゃない」
「……え?」
先生が何かを吐露していた。
曰く、彼女が成したような告白の一つ。
女子生徒の胸が鳴った。
ずきゅんと何かが射抜いていった。
「お前、楽しいしな」
先生が、言ってくれた。
その言葉だけで、女子生徒の……あたしの乙女心が全開になった。
だけどなと、先生は首を振った。
「でもな。駄目なんだよ、恋愛は」
先生は静かに首を振り、あたしの気持ちを否定した。
《続く》
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