らぶてぃ

古葉レイ

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らぶてぃ9

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「どうして? せんせ、教師でしょ。恋愛もあたしに、生徒に教えてくれたっていいじゃない」
「馬鹿。そうじゃないだろ。それは教えちゃいけないんだ。頭いいんだからわかるだろ」

 先生がさも当然とばかりに言ってきて、あたしの気持ちがぷちんと切れた。

「馬鹿だからあたし、わかんないっ。だったら誰か、馬鹿みたいな男子に教えてもらえってこと? それで変な事教えられたらどうするの? 誰かに傷つけられていいの? どうせ傷つくならあたし、せんせに傷付けられたいッ!」
「……」

 あたしは馬鹿なくらいに気持ちを告げた。
 先生は答えてくれない。ううん、迷っていた。

 今、先生はあたしのために何かを悩んでくれていた。それが何かはわからなかった。でも、先生になら届くと思った。
 あたしの気持ちは、先生に届いて居る。

「嫌なら、せんせ、お前なんかに興味ないとか、言ってフってよ。なんで駄目だとか、無理だとか、そんなことばっかり言うの?」

 あたしが喚く。声は小さくて、けれどお腹に力を入れて叫ぶ。
 あたしが進み、先生の目の前で立ち止まる。座るままの先生に、あたしは立ち向かい、静かに頭を下げた。

「お願いします。何でもしますから。あたしの気持ちを否定しないで下さい」
「分かれって。お前は生徒なんだよ」
「分かりたくないよ。分わかれないんだもん」

 あたしは先生の腕を掴む。先生が振りほどこうとして、けれどそれを放さない。先生と繋がった一部が、振り解かれるなんて嫌だった。
 あたしは必死に先生を捕まえる。

「お願い、だから」

 上から覆いかぶさるようにして、あたしは先生の身体に崩れ落ちた。

「っ、おい」

 先生が身体を強張らせてあたしを受け止めてくれる。
 反射的な行動だったと、後に先生は教えてくれた。あたしなりの強行だった。

 自分で言うのも恥ずかしい、乙女の唇が、純潔の唇が。
 教師の唇を熱く塞いだ。

 猪突猛進だった。

「っん」
「……ッ」

 あたしの唇が覆い被さる。頭の中は真っ白で、あたしの初キスは数秒で終えた。先生を突き飛ばすようにしてあたしは離れる。

「おま、っ」

 先生が狼狽えていた。さらに何かを言おうとして、あたしはやばいと思った。だから、言わせないようにあたしはセカンドキスも先生にあげた。
 先生に抱き付く形で、二人の呼吸がしばらく止まる。

「んふぅ、んっ」
「っ、ん」

 頬に、つうと熱い何かが伝う。もがいていた先生の瞳が、そんなあたしの涙に気付く。キスが、止む。

「っ、えええっ、ぃっ、ぅえぇ……」

 あたしはマジ泣きした。
 先生の前で子供みたいに、あたしは泣き、顔をくしゃくしゃにして、

「ごめん、なさい。でもっ、好きなのぉ……」

 謝って、告白した。何度も謝り、何度も、何度も好きを告げた。
 先生の手が、そんなあたしの頭に、ぽんと置かれた。
 柔らかい手だった。

「っ、ぅっ……ぇっ、ひっく……」
「ガキ」
「っ、ガキだもん」

 先生が苦しげに吐き捨てた。それからあたしの身体が、ぐいと抱きしめられる。先生の呼吸があたしの呼吸に混ざって落ちていく。

 先に、落ちたのはどちらだったのか。
 先に決意したのは、どちらだったのか。

「……言っておくが、お前にえこひいきなんてしないからな」
「して欲しくない、そんなもの」

 先生がそう呟き、あたしの頬が親指で拭われる。
 あたしが笑い、泣きながら、必死に頷いて、言葉を零す。

「泣くなよ、馬鹿」
「う、だってぇ」

 それから囁かれた言葉は、互いの唇が塞がれたせいで中断した。

 しばらくの間は、声にならなくて……。

 先生との初めては、もの凄く痛かった。

 〇〇〇

「おい、あき」
「っ、ほえ?」

 ふいに名前を呼ばれて、あたしは顔を上げた。


 先生に名前を呼ばれた?
 あたしは顔を上げて、自分が何をしていたのかを思い返す。はて、何だっけ?

「よだれ」
「おおうっ」

 先生の顔が間近にあった。あたしは指摘された口元をタオルで拭う。
 やっばい、涎ってつまり寝てた?
 何度か瞬きして、自分が居眠っていた事に気付く。やっべー、頭の中ちょうちょ飛んでたし。

「せんせ、呼んだ?」
「もう帰れって言ってるんだ」

 昔の事を思い出していたら、先生に顔を覗き込まれていたらしい。あたしは慌てる。先生は少し不機嫌で、あたしの頭をわしわしと掻きむしってくる。

「うがっ、乙女の髪をむちゃくちゃにするでないぃ」
「寝癖頭が何を言う。お前が勉強に集中して涎を垂らす馬鹿だってだけならそれでもいいんだがな。まあ、寝る前に五回は解いたみたいだから、許してやる」
「へい」

 先生が落胆し薄ら笑い、あたしは頷いた。けれど首を振り、遅れて言い訳をする。

「寝てないし」
「意識が飛んでいたら寝ているのと同じだ」

 なんて言われた。あたしは言い返せなかった。
 いつもとは逆に、あたしが舌打ちをする。先生は踵を返し、準備室を抜け、美術室のドアへと向かっていく。
 その後姿に、妙な喪失感があった。

「どこ行くの?」

 あたしの呟きに、先生が立ち止まる。後ろを振り向いて笑った。

「二十分くらい前の放送も聞いてなかったのか? 鍵はそのままでいいから、帰っておけと言ったんだ。いつから寝てたんだ、お前」

 馬鹿が、と先生が告げて来る。
 うーん、先生が言うと本当にあたしって馬鹿なのかなって思う。先生があたしを睨み、返事を待っていた。

「帰りたくなったら帰れよ」

 少し焦っているあたり、時間がないのかもしれない。
 ぎりぎりまで、待っていてくれたんだ。

《続く》
 
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