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らぶてぃ10
しおりを挟む「待っていい?」
「あ?」
あたしのお願いに、先生が声を荒らげる。何か怖い。あたしは黙って、先生の許しを待ち侘びる。先生が小さく溜息を零す。
「駄目だ」
「待つ。でなきゃ叫ぶ。先生が好きだーって!」
あたしが我儘を言った。「馬鹿が」と言われた。先生が顔を手のひらで覆い、「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ」なんて呻かれた。
失礼な。
本気なのに。
そう思って先生を睨んだら笑われた。先生が戻ってきて、あたしの頭をぽんと、撫でるような感じで叩かれた。
「待ってても意味ないぞ。時間掛かるし」
「へーき。もう少し勉強してたい」
「まあ、だったら好きにしろ」
あたしの我儘に、先生は少し困った顔をしながら許しをくれた。どことなくイラついた顔で、先生は颯爽とした足取りで準備室の扉を閉めた。
それはもう疾風の如く、先生の足音が美術室を出ていった。
それくらいに急いでいたんだろう。
「……はぁ」
消える時は一瞬だなと思う。
いつもながらの飄々とした態度に、あたしは素敵だなと思う。
それから今は居ない先生を眺めて、腕を組む。
先生を好きになって、好きになってもらっていろいろあった。
何度も怒られた。罵倒も浴びた。別れを持ち出されたことも数知れず。別れたいと思った。別れたくないと、好きになり続けたいと思った。
あたしは、思うんだ。
この恋の病は、不治の病だって。
○○○
「っ、はぁあ」
机に額を置いて、上履きを踏み締める。
じたばた、じたばた。
「うー」
何を隠そう、あたしは待ちくたびれていた。
時間は下校時間に近くなっていた。
先生が居なくなって、一時間半は経っている。さすがのあたしも、いい加減帰ろうかなと思い始めて、けれど待っていると言った以上、あたしは意地でここに居続けている。
忠実な犬だ。
「わん」
独り言を言う。当然、つっこみはない。
……正直、待つだけ無駄だったりする。
「むーうー」
呻き声が馬鹿っぽい。
むしろこんな遅くまで居たら、先生に怒られる気がした。笑われるかもしれない。だけど二人きりになれる日は、今日を逃すとしばらく来ない。
そう思うと、あたしは帰れなかった。
途中から、あたしのテスト勉強は止まっていた。
美術室隣にある準備室で、あたしは何をするでもなくうろついていた。先生の匂いを嗅ぐように、絵具の匂いを嗅ぎながら歩いていた。
ノートで折鶴を折るくらいに暇だった。
退屈を紛らわそうと、先生の絵の具を並べたり、先生の絵を描いたりもした。先生の席で、先生が描いている絵を眺めたりもした。
でも退屈は紛れなかった。
先生が居ないと、あたしの時間はとにかくつまらない。
あたしはふと、作業机に目を向けた。
そこは思い出の深い、場所だった。
「初めて、痛かったなあ」
つい独り事を呟いてしまう。
付き合いだしてからも先生とはいろいろあって、最初は、あたしから迫った。先生は駄目だと言い続けた。
けれどあたしの懇願と豪泣きに、先生は折れる形でしてくれた。
初めてなのに怖くなかった。
先生が優し過ぎたせいかもしれない。いつも冷たい先生の目は、心の裏返しなんだとその時知った。冷たいほど、愛されている気がした。
さすがに痛かったけれど、それと同じくらいに先生の気持ちを感じた。いやほんとあたし初めてだったし。
でも凄く、先生に愛されている気がした。
あたし、マゾなのかなって思う。
先生に罵られるのは嫌じゃない。
先生に馬鹿呼ばわりされるのも悪い気はしない。
だから、先生と初めてをする時、あたしはここがいいと願い出た。せめて先生の部屋でと言われたけれど、あたしは先生が一番居るこの場所でして欲しいと言った。
そうすれば、あたしが居なくても、先生があたしの事を思い出してくれるんじゃないかなと思ったんだ。
そう思った最初は、怖くはなくて、でも痛かった。
あの頃の気持ちを思い出す。
先生に負担を掛けたくない。先生の為に、きちんとしたい。
面倒を掛けないようにしたい。そう思っている。思っていると、思っている。
だとしたら、今のあたしはそれに反しているんじゃないのかな。
あたしの中で、何かがふつふつと湧きあがっていく。
それは一つの、好きと言う気持ち。
好きだから、何でもいいと思う覚悟の気持ち。
《続く》
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