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らぶてぃ11
しおりを挟む「よし、帰ろう」
声を出したら決心がついた。
先生はたぶん忙しい。あたしが残っていても、きっと一緒には帰れない。どうせ会えても、一言二言、話して終わる。
それでもいいと待っていたんだけれど、今更に迷惑だと決めつけた。
あたしだって、もう子供じゃないんだ。
先生も大人なんだ。
わかってあげなきゃって思う。昔のあたしなら分かってあげられたと思う。けれど図に乗っている今のあたしは、甘えている。
これじゃ、駄目だ。
あたしは決断して、鞄から取り出したノートを下敷きで切り、机の上にメモを残した。誰とは書かずに、
『お疲れ様、先に帰るね』
と書いた。先生にはそれでわかる。あたしはメモにキスをして、鞄に勉強道具を仕舞い込んだ。
あえて携帯メールは遠慮した。会議中だと悪いし。あたしって気遣いのできるいい女だなあ、なんて思って苦笑う。
別に、返事が返ってこないのが嫌だからメールしないわけじゃない。先生を待って、会った瞬間に帰るのが辛いわけじゃない。
片付けをして、準備室を出る。
待ってようとしたんだけど。
やっぱり待とうかなと思い直す自分が居る。後ろ髪を引かれつつ、駄目だよあたしと活を入れて、美術室を出る。上履きをきゅっと鳴らして廊下に出る。
そしてあたしは一人、ぽつんと廊下に躍り出た。
誰も居ない廊下に、寂しさが込み上げてくる。
先生が戻ってきていたら……せめてこの廊下くらいは先生と一緒だよね。
ふいに寂しさが胸を締め付ける。
い、いかん。
「さて、帰りにどこか寄ろうかなぁ」
気持ちを紛らわせるように、あたしは独り言を呟いた。
自分でもわかるくらいに、テンションが低い。なんかこう、暗い。
散々待っててあげたのになとか、思ってない。
明日でテスト最後なのに、家に帰りたくないと思った。
テストの点数なんてどうでもいいしと思いながら、あたしは廊下を歩いて行く。足取りも重くて、気も重くて、あたしは重い足で階段を降りていく。
「途中で先生に会えないかな」
そう呟きながら、一歩一歩を噛み締める。
けれど誰にも会わず、あたしは階段を降りきってしまう。何となく、そのまま帰るのが嫌で、三回ほど階段を往復する。
ええい、何をやっているんだあたしは。
一度戻した足を、あたしは堪えてまた進める。
先生にはもう会えないからと思って、廊下の曲がり角まで来て、
「まだ残ってたのか?」
先生の、声がして、あたしの胸が小躍りした。
あたしは、やった! と先生の前に飛び出そうとして、
「はいっ」
先生とは違う、もう一つの声に身を強張らせた。
うぉっ。女子生徒の声に、あたしは足を止めて身を隠す。あたしの反射神経は、先生よりも早い。
「遅くまで精が出るな」
先生が笑っていた。相手は、あたしじゃない。
呼吸が、止まった。
……え?
あたしは咄嗟に壁の影に隠れていた。危なかった、もうちょっとで無用心に飛び出すところだった。
曲がり角でそっとその声の元を見る。
やっぱり先生が居た。
そしてもう一人、美術部の後輩、石川が居た。あたしよりも絵が上手くて、声も可愛い。見た目も可愛らしい、女子が居た。
うわ。
何であいつが、ここに。
盗み見るあたしの心臓が、どきどきと煩く鳴り響く。石川が何かを言う。先生が何かを言っている。聞こえない。
微かにしか、聞こえない。
煩い心臓っ。静かにしてよッ。
声、聞こえないじゃん!
あたしは必死に、二人の会話に耳を澄ます。
「今度のコンクール、津田先生も出されるんですよね?」
「まあな」
あたしが盗み見、盗み聞く中、石川が柔らかい笑みを浮かばせていた。仔猫みたいな笑顔が可愛い。
なんて言うか、ちまっこい。
先生は何気にちまっこいのが好きなんだよなー、実はロリコンだし。ちなみにあたしは、ちまっこくない。全然、小さくない。
何か、胸が痛い。
「津田先生、いつも美術室で絵を描いてるんですか?」
「どうだろうな。たまに、かな」
先生がはぐらかす。本当は結構な率で部屋に居るくせに。あたしは必死に聞き耳を立てる。
「そうなんですね。前に、部活ない時に行ったら先生、居なかったから」
「何かと忙しいんでな」
石川が嬉しげに笑い、先生もまんざらでもない感じで返事を返す。何だろう、この苛立ちは。部活中ならまだしも、こんな時間にわざわざ、何で教室のないこの技術棟に石川が居るんだ。
あたしの乙女心がめらめらと燃え上がる。
あたしの乙女センサーが警告音を掻き鳴らす。
わんわんと煩く鳴り響くものだから、あたしの姿が、ガラス越しに写っている事に、それを見た先生が、唇の端を持ち上げた事にも気づかなかった。
《続く》
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