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恋とレシーブと6
しおりを挟む「……どうした?」
私の無言を、恭介君が気にしてくれる。
恭介君の手に、私から触れたのはぎりぎりだった。私ができるぎりぎりだった。それ以上はし過ぎだと思ったし、それ以上は破廉恥だと思った。言うのは出来る。でも行動は正直怖いのだ。嫌われたくないのだ。嫌がられたくないのだ。
教室では押せ押せになれた。
でも二人きりになると不安になる。嫌われたくないと思う自分が居る。私は真面目で、ヘタレなのだ。
彼がどう思うか、それを考えるだけで恐ろしくて動けなくなるのが、悲しいかな今の私である。
だからいつも最後の決断は彼に決めてもらうのだ。私はきっと、臆病で卑怯な女の子だ。
「……きょーくん?」
「いや……うん」
私も、恭介君の言葉も極端に少ない。制服姿の彼と二人並んでテレビを見ている。開始してまだ五分と経っていない。
しゅる。恭介君は私の方に体を寄せてくる。私は逃げるように身を逸らす、ふりをする。恭介君が少し寄って、私がまた逃げるようにして床の上に寝そべる。
「……きょーくん」
恭介君は真剣で、真顔だった。私はもちろん嫌がってはいない。その逆です。そうしてゆっくりと、恭介君の瞳が私の傍に寄ってくる。視界が暗くなり、甘い唇の味がする。
恭介君の唇は、マシュマロのように柔らかい。腕や肩が筋肉質なだけに、唇の柔らかさが際立っている。この唇だったら、何度でもキスされていいと思う。
舌はまだ、入ってこない。優しい、甘いキス。
「するの?」
「……する」
私の主語のない問いに、恭介君は真顔で、笑顔で、優しく呟いた。
「……ふぅ」
恭介君の息が熱かった。照明は雰囲気が出るようにと薄暗くした。
学校を出た私と恭介君は、他愛ない会話をしながらバスに乗って家に来た。その間もさりげなく体に触れる事は怠っていない。腕やお腹にさりげなく触れた。あえて触れた。人目は気にして少しだけ触れた。嫌がっていないのを何度も確かめた。付き合って二か月以上は経っているけれど、毎日顔を合わせていても、彼が家に来たのはそう多くない。
彼がここに来るのは勉強をする時で、それ以外は土日でも会わないことが多い。だって彼は、土日でもバレーの練習をしているくらいだから。
そして土日も連絡してくる彼女はうっとおしいかもしれないと、思う自分が居るから、滅多な事では連絡をしない。本当は、毎日だって話したいのに。
それだけに今日のこの時間は貴重だった。私が勉強を見ていた時間のお礼だと思ってくれているに違いない。それでいい。何でもいい。今日はバレーをしないでいてくれる。恭介君は部活がないくらいで練習しない人ではない。それでもここに居てくれる。私を優先してくれる、今の時間は大事にしたい。
邪魔しないって言ったのにな。
自分の言葉の無責任さが虚しい。
今この瞬間が待ち遠しくて、何度テスト勉強の手を止めた事か。そんな風に思って何が悪いのか。いいえ、悪くないはずです。私たちはお付き合いをしているので、平気なはずなのです。
でも、やっぱりどこか後ろめたい。恭介君をバレーから遠ざける行為は、何度やっても申し訳ない。でもそれでも、やっぱり今だけは一緒で居たかった。恭介君の気持ちがバレー以外に向いてくれる今、その時間を、私は感じたい。その為に、私は全身全霊で立てた計画を遂行する。
「映画観ないの?」
「……少し、休憩」
恭介君の体がゆっくりと私の体に倒れてくる。テレビはすでに恭介君の体で見えなくなっている。骨ばった指が私の首筋を撫でる。ぴりと電気が走る。
じゅんと、下着の中に熱。胸元に手を置かれ、恭介君の体重が私に乗ってくる。服越しに恭介君の体温を感じる。安心する。安堵する。不安が消えていく。厚い胸板にほっとする。恭介君の腕が私の体を抱きしめてきてくれて、私は抱き返そうとするのを必死に堪えた。
まだダメ、でももう少し。
「わたし、汗掻いているから、あのっ……」
「それは俺も同じ」
ふわりと漂う恭介君の、汗の匂いに包まれる。触れるようなハグから強烈な抱擁に変わる。胸が押し潰れて肺が締め付けらえる。今だ。すっと自然に腕を回して、恭介君の背中を抱きしめる。唇に熱が入る。お互いに、舌を伸ばして絡め合う。甘い味がする。帰りに買った甘味料飲料水の味。温かい背中の手を添わせて、ベッドの端に背中を預ける。唇が柔らかい。マシュマロ級。ぐいと、恭介君の腕が私を抱き上げてベッドの上に押し上げてくれる。
心地よい重みが私の体の上に来る。もう一度キスされる。彼の指先が私の首筋から頬に伸びてきて、幸せで泣きそうになる。大好きな人が私を抱きしめてくれるのが本当に嬉しくて、好きだから彼じゃなく彼が好きで逞しい背中とかしっかりとした首が目の前にあって、彼の唇がもう一度私を塞ぐ瞬間、心と体がふにゃふにゃに溶け落ちていく思考が意味不明になっていく。溶けていく。私たちが溶けていく。
私の理性は、そこで途切れた。
……。
……。
「ぁっ」
彼が動く度に私が動く。力強い彼の動きに私が揺らぐ。私の視界が何度も動く。痙攣する思考を、歯を食いしばって耐える。ぐいと揺れる度に、刺激が下半身を駆け抜ける。
性行為のやり方は勉強もしたけれど、未だに彼との行為は少し痛い。保健体育の教科書に行為のやり方なんて載っていない。隅々まで勉強したけれど、まだ痛い。けれど幸せの方が遥かに多いので、私は決してこれを嫌いではない。痛いのが好きとか変態だけれど、苦しいのに辛いのに、もっとと思う私は淫乱なのだろうか。
もっともっと、痛くしていいよ。
だからもっと、その気持ちよさそうな顔、私に見せて。
「っ、くぅ」
付き合って傍に居て、私はさらに彼を知った。彼の体温を肌と心で理解した。思っていたよりも、恭介君はずぼらで、けれど想像以上に優しかった。案外体温が低くて、わかっていたけれど恰好良かった。
日が過ぎるごとに、捨てられたくないなと思うようになった。彼の時間を邪魔したくない自分と、邪魔したくてしょうがない自分の存在を知った。
私は、自分で思っていたよりも我儘で、嫌な女なのだと、彼と付き合うことで知ってしまった。
彼の動きに合わせて腰を動かして、繋がった部分を強く感じながら、私は歯を食いしばる。彼の肩に爪を立てて、今にも零れそうな苦痛を喘ぎに変える。
「あっ、ぁ」
甘く甘く、彼を愛するからこそ、私は少しでも、彼と同じ温度を感じ続ける。
《続く》
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