みなもの鏡界

東樹

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第六話

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 次の朝、私はいつもより少し早く起きた。
「珍しいわね。チリ」
 そう言うお母さんに挨拶をし、朝御飯を食べて、制服に着替えて、手早く準備を済ませて家を出る。
 しかし今日だけは私の足が向く方向は間逆だった。
 向かった先はすぐ近で、三軒向こうの家。
 チャイムを押すと出てきたのは細身の中年女性だった。
「チリちゃんじゃない。どうしたのこんな早くに」
「朝早くからすいません。シオネにお線香をあげたくて」
「えっ!?」
 一瞬目を大きくし明らかに驚く女性。
 そう、シオネお母さんだ。
 シオネのお母さんはすぐに納得したのか、柔らかい表情を見せて、快く私を家に上げ仏間に通してくれた。
 遺影に写っているのは小学生くらいの幼い女の子。無邪気だけど永遠に変わらない笑顔を私に向けていた。
 本来シオネの時間は八年前で止まる筈だった。
 それが神様の悪戯だったのか、それとも本人の意思だったのかわからないけど、シオネの意識だけは私と共に成長し、一緒に遊んで、学び、私の側に留まり続けていた。
 それも昨晩で終わった。
 じっと黙り合掌を続ける。
”シオネありがとう、そしてさようなら”
 それはシオネと決別し、新たな気持ちで一歩踏み出す為の決意の表明であり、初めてシオネに行う弔いでもある。
 仏間に線香の香りが充満し始めた頃、気持ちが少し楽になってきたので合掌を解く。
「シオネは今、何をしているの?」
 ずっと傍らで見守ってくれていた、シオネのお母さんが尋ねてきた。
「旅立ったみたいです」
「そう………ようやく」
「ごめんなさい。私の身代わりに」
「いいのよ。誰も悪くないんだから。でも……親の私にさよならくらい言ってほしかったな」
シオネのお母さんの瞳から一筋の涙がこぼれた。
 シオネの家を後にする際、シオネのお母さんは「またいつでも来て、あの子の話聞かせてね」と言ってくれた。
 頭上の空は青く遠くには入道雲が見える。
 朝早いとはいえちょっと歩いただけで、額に汗が滲むくらい気温は既に高くなっていた。
 しかし脇腹あたりを隙間風が通り抜けていくかのように、冷たくてなんだかスースーする。
 早く家を出たが通学時間は、いつもと同じになっていた。しかし昨日までと大きく違うのはシオネがいない事。
 たった一人の通学路、そしてこれからもずっと………シオネはもう遠くへ行ったのだから。
 涙も出ないし悲しくもないのに、心臓が潰されそうなほど切ない。
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みんなの感想(2件)

生津直
2019.01.22 生津直

青春時代の夏という独特な空気が香ってくるような、趣のある文章でした。

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2018.12.17 ユーザー名の登録がありません

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