運命の番はお尋ね者

志熊みゅう

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 狼獣人の子を育てるのは、大変だった。まず猫獣人とは習性が違う。猫獣人は一人時間も好きだけど、狼獣人は寂しがり屋だ。五歳になっても一緒のベッドで寝たがるし、ちょっとの時間も一人でお留守番できない。

 一番困ったのは、満月の夜だ。満月の度に狼獣人は完全に狼の姿に戻る。初めは色々なものを噛んで暴れるので、地下室に鍵をかけて突っ込んでいたが、狼になった後もどうやら意識はあるらしく、閉じ込めてしまうと、翌日どうしても情緒が不安定になってしまう。最近は番阻害薬を応用した薬で、獣化の後の興奮を抑えている。

「ママ、このお薬いやだ。まずいもん。」

「飲まないなら、また地下室に入ってもらうしかないけど。」

 地下室という言葉を出すと、ミロの顔が一気に青ざめた。

「ち、地下室はいや。絶対いや。」

「じゃあ、お薬を飲んで。」

「う、うん。……まずい。満月嫌い。」

「はい。いい子ね。もうすぐ日が暮れるわ。先にベッドに潜ってなさい。」

「お薬飲んだから、ママと一緒がいい。」

「仕方ないわね。」

 日が暮れると、ミロが遠吠えを一鳴きして、狼の姿になった。膝の丸くなると、ふわふわのクッションみたいだ。この子を育て始めて、一つ疑問に思っていることがある。この子の父親であるレーヴィのことだ。切り裂きウルフの事件は、必ず満月の夜に起こったとあった。若い娼婦を狙って刃物で殺害していると。もし彼もこの子と同じ特性を持っているなら、満月の日に『刃物』を持って人に襲い掛かるなんてできるだろうか?

 もしかして、あの事件は冤罪なのか?ならば、なぜ彼は無罪の証明をせずに逃げていたのか?色々と疑問は残る。

「くぅーん。」

 膝の上で、ミロが鳴いた。親に甘えているのだろう。背中を撫でてあげると、安心したのか、眠り始めた。

「じゃあ、ママはまだ仕事が残っているから、先に寝ていて頂戴ね。」

 ミロを起こさないように小声で告げて、寝室に連れていった。ミロをベッドに入れると、目が覚めてしまったらしい。また「くぅーん。」と鳴いた。

「あら、起きちゃったの?」

 絵本を取り出して、いくつか読んでやることにした。うちの絵本は貰い物ばかりだ。最近も隣の虎獣人の一家からいらなくなった絵本を頂いた。ふと『パパとボクのにちようび』という本が目に入った。

 最近、ミロは自分に父親という存在がいないことに気づき始めた。兄さんはミロとよく一緒に遊んでくれるが、猫獣人らしく勝手気ままだ。到底父親代わりにはなりえない。自分ひとり、満月の夜に狼になることも不思議に思っている。私は当たり障りのない勇者の冒険譚を手に取り、読み聞かせた。
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