運命の番はお尋ね者

志熊みゅう

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「スタンピードだ!!」

 ある日、村が騒然とした。村近くのダンジョンは、魔物の生態系が安定していて、初回踏破後は初心者から中級者用のダンジョンとして親しまれてきた。もちろんスタンピードなんて初めてだ。

 魔物討伐のために近くの町や村から上級冒険者たちが集められた。ポーションも飛ぶように売れた。そんな忙しさの中、私は体調を壊した。

「ケホケホ。」

「ママ、大丈夫?」

「多分大丈夫。ただの風邪だから。」

 自分で調合した風邪薬を飲む。『安らぎ茸』と間違って『笑い茸』を入れるなんて凡ミスはもうしない。

「おい、ソニヤ元気か?」

「ちょっと熱っぽいわ。熱が下がるまでは外に出ない方がよさそう。」

「じゃあ、俺が日中店番をして、夕方に薬草を集めてくる。お前は家でゆっくり休んでろ。」

「ありがとう、兄さん。」

 『安らぎ茸』の副作用は眠気。私はそのままうとうと夢の世界にいざなわれた。

「わおーん!」

 狼の遠吠えで目を覚ます。うっかり寝すぎてしまった。外はすっかり暗くなっている。月明かりが窓辺から差し込む。今日は満月だ。まずい。ミロに薬を飲ませるのを忘れていた。

 ――がちゃーん。どんどん。

「ミロ、ミロ。落ち着いて。」

 ミロは居間で興奮して暴れていた。ああ、まずい、まずい。今から薬を飲ませるのは無理だから、早く地下室に閉じ込めないと。兄さんはまだ帰っていない。今のミロは小さくても狼だ。噛みつかれたら、大けがをしてしまう。ミロを促す形で地下室に誘導していく。

 その時だった。

「ただいま!ソニヤ起きてて……。ぎゃあ。」

「兄さん!ミロが!」

 一瞬の隙をついて、ミロがヘンリ兄さんに飛び掛かった。そして開いた扉の隙間から外に出て行った。薬を飲んでいない状態のミロが誰かに危害を加えるかもしれない。頭が真っ白になった。それに狼といっても、まだ子どもだ。スタンピードが起きているダンジョンも近い。外でどんな危険な目に遭うか分からない。

 私たちは、村のギルドに行き、ありのままを報告した。

「明日の朝には元の姿に戻るのだろう?この暗闇で無理に捜索すれば、捜索に当たった者が怪我をする危険性がある。今日は一旦村の人には家から出ないように指示する。いいな?」

「……はい。」

「わおーん!」

 遠くから、ミロの鳴き声がする。どこか心細そう鳴き声に、今すぐ彼のもとに行って抱き寄せたいと思った。でもそんなことをしたら、こっちの命がないかもしれない。私は兄さんに、励まされながら私たちの家に戻った。

「何かあるといけないから、俺は一晩起きている。ソニヤは寝ていろ。風邪が悪化する。」

「で、でも。」

「ほら、遠くから遠吠えが聞こえるよ。ミロは元気だ。何かあったら起こすから、俺に任せて。」

「……分かったわ。」

 私は、遠くで狼が吠える声を聞きながら、結局ほとんど眠れなかった。
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