嘘告されたので、理想の恋人を演じてみました

志熊みゅう

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 観劇デート当日は、事前に心を読んで、彼の好みに合わせた清楚な白いAラインのワンピースを選んだ。

「……ブリジット、じゃあ行こうか。手を。」
(嘘だろう。ほんとにかわいい。かわいい。ブリジット嬢がこんなにかわいいなんて聞いていない!)

 顔を赤らめながら、心の中でかわいいを連発するアルセーヌに、思わずこちらが動揺してしまう。これでは、"罰ゲーム"や"恋人ごっこ"じゃなくて、本物のデートみたいだ。

 劇場前は、既に着飾った平民たちであふれかえっていた。私たちは貴族席の特等席に通された。案内係は丁寧に案内してくれたが、心の中では私の瞳を怖がっていた。

 本日の舞台『勇者と魔王』は二部構成。はじめは魔王の悪政で、人々が苦しむところから始まる。魔王や魔物たちには、心がない。だから自分の欲に忠実で、思いやりや助け合いという概念もない。こういう創作物のせいで、魔眼持ちも、一般人には魔物のように扱われている。私たちにだって心があるのに。実は一般には伏せられているが、その能力や差別に苦しみ、心を病む者、自死を選ぶ者も少なくない。私はそんな彼らの苦悩をたくさん見てきた。

 二部は魔王は、勇者一行と契約を結んだ魔物たちの裏切りにあう。魔物たちは勇者一行が優勢だとだまされたのだ。魔王は最期、一人で戦い、一人で死んだ。――今の私みたいだ。勇者一行は、魔王を倒した後、契約を破り、味方になった魔物たちを全員討伐した。魔眼持ちの私からすると、どっちが、本当の悪だか分からない話だ。

 ふと、涙が一筋流れた。自分でもよく分からなかった。史実として知っている話だ。今更どうという話でもない。

「ブリジット、大丈夫?」
(魔眼持ちの彼女からしたら、やはりショッキング内容だったのか。)

 心配そうな顔をして、アルセーヌがハンカチを渡してくれた。

「大丈夫。自分でも何で涙がでているのか分からないの。」

「――でも本当の正義ってなんなんだろうね。だまし討ちなんて。」
(ブリジットに嘘告をした俺が言うのもなんだけど、よく考えると酷い話だよな。)

「ありがとう。あなたがそう言ってくれるだけでうれしいわ。」

「無理はしないで。俺には、俺にだけは本心を打ち明けてくれるとうれしい。」
(こうして見ていると魔眼持ちって言っても、彼女も普通の年頃の女の子なんだよな。)

 普通か。魔眼持ちだって人間なのに。私たちにはその普通が許されていない。

「今度はさ、もっと楽しい劇を観に行こう。また誘うよ。」
(次はブリジットが笑っているところがみたい。きっとかわいいから。)

「そうね、楽しみにしているわ。」 
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