ねえ殿下、私に堕ちてきて~ポンコツと噂の廃嫡王子を籠絡したい

志熊みゅう

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一筋縄にはいかない

10. ロジェ爺の独白

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慌ただしかった五日間はあっという間に過ぎ去った。姉たちは王都に戻ったら、婚姻届を出すらしい。結婚式は来年の春以降で考えているそう。

「この前話した通り、早ければ春頃かしらね。結婚式の日取りが決まったら、また連絡するわ。」

「また隣国が攻めてこなければいけると思うわ。海のある町に行くの初めてだから、楽しみにしている!」

姉一家はマール領に帰っていった。城内に静けさが戻った。明くる日、治癒魔導士が定期往診に来た。父の診察を終えて、もって一か月だと言われた。覚悟はしていたが、ついにか。

庭に出るとロジェ爺がいた。使役しているゴーレムたちに肥料とシャベルとハサミを持たせて、これから仕事だろうか。私が気になっていることを彼に尋ねてみることにした。

「ロジェ爺、精が出るわね。」

「これはこれは、エリカお嬢様。」

「知っていると思うけど、お姉様たちは昨日帰ったわよ。それから父の容態だけど、ひと月もったらいい方だと、さっき診察した治癒魔導士が言っていたわ。でも失踪していた娘と再会して、孫にも会えたんだから、まあまあいい最期よね。」

「そうですね。お嬢様。」

「……ねえ、ロジェ爺はいいの?最期に会わなくて。」

「わ、わしはただの庭師ですので。」

明らかにロジェ爺が動揺した。私は魔力は弱いし、貴族の常識やマナーとかに疎いけど、唯一誇るものがあるとすれば、直感が誰より優れている。学園時代は"野生の勘"と呼ばれて、他の貴族女子たちからも重宝されていたっけ。

「私がこの家に来るまで、この庭に興味を持つ人がいなかったのは知っているわよ。でも前から気になっていたの。ロジェ爺がルピナス様、ルピナス様っておばあ様の話をするの。だっておばあ様が死んでもう何十年も経つのに。」

「ルピナス様はわしにとてもよくしてくれた、だから…。」

「でもそれよりも、気になるのは、ロジェ爺のお父様に対する態度かな?誰よりも彼の非道を怒っていたわよね。本当にただの庭師なら領主の不倫なんて気になる?だってよくある話じゃない?」

彼は黙ってしまった。私の中の仮説を証明していく。

「お父様の鼻の形って、ロジェ爺に似ている気がするの。ただの気のせいかもしれないけど。」

「…………エリカお嬢様は鋭いですね。ここに何十年と勤めていて、そんなことを言われたのは初めてですよ。これから話すことは、ただ老人の戯言ととして全て聞き流してもらってよいですか?」

「ええ」

「ルピナス様は南方に領地がある名門侯爵家の出身で、政略結婚でこの土地にいらした。あの男、先代のブロワ侯爵には結婚当初から、何人も愛人がいて、ルピナス様は毎日この庭のガゼボで泣いておられた。」

先代のブロワ侯爵は、父に輪をかけて横暴で傲慢な人間だったと聞いている。

「なかなかルピナス様には子ができなくてな。結婚してもうすぐ三年というところで、愛人の一人が侯爵の子を身ごもったと言ってきた。」

「うん」

「それで愛人の子が男の子で魔法属性が氷か火だったら、ルピナス様とは離縁すると侯爵様が言い出したんじゃ。」

結婚から三年たつと跡継ぎができないことが離縁事由として認められる。でも、これで離縁されてしまうと、女性側は石女として貴族社会でろくな再婚が見込めない。老貴族の後妻か、はたまた修道院か。

「ルピナス様は実家には戻りたくない、修道院にも行きたくないっておっしゃってな。離縁したら、一緒に冒険者になってくれないかとわしに言ってきたんじゃ。」

「冒険者!?」

「彼女は氷魔法の使い手でなかなか強かったから。わしのゴーレムで彼女をサポートすれば、すぐにランクも上がってじきに生計を立てられるだろうとおっしゃってな。」

元貴族令嬢の冒険者とは。突然失踪した姉と一緒で結構突飛な人だったんだな、ルピナスおばあ様。

「あの頃のわしは今思うと考えなしじゃった。つい舞い上がってしまってな。一線を越えて彼女と子ができる行為を何度かしてしまったんじゃ。」

「…」

「ルピナス様が妊娠した。ただ同じ時期にあの男とも閨を共にしておったようでな。厳密にはどちらの子かは分からない。…………ただもし子どもが私に似た子だったら、一緒に逃げようと約束していた。」

「それで生まれたのがガストンお父様。」

ガストンお父様は氷属性、前侯爵は火属性、ロジェ爺が土属性だから、どちらの子だとしても属性はルピナス様に似たのだろう。

「愛人が妊娠したという子は、侯爵とも愛人とも似ても似つかない容姿の子でな。その愛人には他にも相手がいたらしいのじゃ。だから先代の侯爵様はガストン様の誕生をとても喜ばれた。」

先代の侯爵にはとてもたくさん愛人がいたが、愛人との間にできた子は結局一人もいない。ルピナスおばあ様との間の子も父だけだ。憶測だが、種なしだったのかもしれない。

「もう、父ガストンは誰が誰かもわからないと思います。最期だと思って"父親"として声をかけてあげて下さい。」

それから、ロジェ爺を父の寝室に案内し、二人きりにしてあげた。部屋を出てきたロジェ爺は憑き物がとれたような顔をしていた。

「……お気遣いありがとうございました。お嬢様。」

父が息を引き取ったのは、それから三日後だった。最期は苦しまず、安らかに永久の眠りについた。
父の棺にはロジェ爺が育てたバラを敷き詰めた、ルピナスおばあ様が最も愛したという白いバラを。
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