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待ってくれと言うけれど
1. 婚礼の招待状
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父が死んでから私は正式に、ブロワ侯爵家を継承した。もともと父から嫡子に指定されているから、特に手続きに問題はなかった。もちろん異母姉からの了承も得ている。
「ついに、エリカがブロワ侯爵か。」
私の執務室の方に来ていた殿下が、少し感慨深げに言う。
「ええ。今までの領政は停戦後の処理に追われている部分がありましたが、これからはブロワ領がもっと未来に向けて発展していけるように邁進いたしますわ。」
「それは、それは。女領主様は頼もしいな。」
――こんこん
扉をたたく音がして、家令のフィリップが手紙をもって入ってきた。
「エリカ様、本日はお手紙が二通届いております。お母様のカサブランカ様よりと、もう一通は…」
「は、また!?」
フィリップが全て言い切る前に声が出てしまった。
「エリカ様、こめかみに青筋が立っております。そんなにお顔に出やすいようでは貴族社会でしてやられますぞ。」
フィリップに窘められる。
「でもまた金の無心でしょ。どんな貴族でも青筋の一本か二本くらい立てるわよ。で、もう一通は?」
「お姉様のリリアーヌ様からです。」
「あら、そう」
とりあえず、こういう時はバッドニュースから読もう。母からの手紙は、予想通りの内容だった。書き出しこそ侯爵就任への祝いの言葉が綴られていたが、その後は延々と侯爵家として、母のいる修道院に寄進せよと書き連ねてあった。実のところ、母のいる修道院には他の修道院と同程度の額を毎年寄進している。そしてこれまで一度も、そこの修道院長から増額の要請を受けたことはない。薄々気づいている。母がその窓口となって、寄進された金をかすめ取るつもりなのだろう。
「はいはい、無視。暖炉にくべておいてちょうだい。」
「かしこまりました。エリカ様。次はこちらです。」
「お姉様の方ね。」
姉の手紙は、帰ってからの近況の報告と結婚式の招待だった。姉はマール伯爵家の嫡子に指定されている。だがその前に今まで王家預かりになっていたアルトワ子爵位を継承したそうだ。亡くなった彼女の母が持っていた爵位だ。マール家の養子縁組はまだ手続きが完了していないらしく、サインがリリアーヌ アルトワになっていた。
アベル様との結婚式は、予定どおり来春だ。主賓はアレクサンドル王太子夫妻。ああ、姉は失踪前から王太子妃のアマリリス様と仲良かったんだよね。――問題はアマリリス様がヴィクトル殿下の元婚約者ってこと。殿下にエスコートを頼もうかと思ったけど、これはさすがにやめといた方がいいか。
「エスコートどうしよう。卒業パーティーみたいな惨事は避けたいわ。」
「……卒業パーティーか、私も大変だったな。エリカは何があったのだ?」
急に突っ込みづらい自虐を投下するな、殿下。
「卒業式直前に婚約者のデュカス騎士伯令息に逃げられた話はしたと思います。父は領地から離れられないというし、親戚筋に手頃な男性もいないし、仕方なく一人で向かったんですのよ。」
「おぉ…」
殿下がドン引きしている。
「普段より、お食事とお酒を楽しめましたわ。」
「今回も頼める人がいないのか?」
「半年前まで戦争していたんですよ?どっかの誰かさんが牽制して回っているのに、新しく相手ができるわけないでしょ?」
「それはそうだな。……もしエリカに頼む人がいないなら、私が引き受けようか?」
「ヴィクトル様ちゃんとお話、聞いていらっしゃいました??主賓、アレクサンドル王太子夫妻ですよ。よろしいんですか?」
「――別にブロワ侯爵としての君をエスコートするだけなら、何も問題ないはずだ。」
「じゃあ、姉の返事にもヴィクトル様を連れていくって書いちゃいますよ。」
「構わん」
「ついに、エリカがブロワ侯爵か。」
私の執務室の方に来ていた殿下が、少し感慨深げに言う。
「ええ。今までの領政は停戦後の処理に追われている部分がありましたが、これからはブロワ領がもっと未来に向けて発展していけるように邁進いたしますわ。」
「それは、それは。女領主様は頼もしいな。」
――こんこん
扉をたたく音がして、家令のフィリップが手紙をもって入ってきた。
「エリカ様、本日はお手紙が二通届いております。お母様のカサブランカ様よりと、もう一通は…」
「は、また!?」
フィリップが全て言い切る前に声が出てしまった。
「エリカ様、こめかみに青筋が立っております。そんなにお顔に出やすいようでは貴族社会でしてやられますぞ。」
フィリップに窘められる。
「でもまた金の無心でしょ。どんな貴族でも青筋の一本か二本くらい立てるわよ。で、もう一通は?」
「お姉様のリリアーヌ様からです。」
「あら、そう」
とりあえず、こういう時はバッドニュースから読もう。母からの手紙は、予想通りの内容だった。書き出しこそ侯爵就任への祝いの言葉が綴られていたが、その後は延々と侯爵家として、母のいる修道院に寄進せよと書き連ねてあった。実のところ、母のいる修道院には他の修道院と同程度の額を毎年寄進している。そしてこれまで一度も、そこの修道院長から増額の要請を受けたことはない。薄々気づいている。母がその窓口となって、寄進された金をかすめ取るつもりなのだろう。
「はいはい、無視。暖炉にくべておいてちょうだい。」
「かしこまりました。エリカ様。次はこちらです。」
「お姉様の方ね。」
姉の手紙は、帰ってからの近況の報告と結婚式の招待だった。姉はマール伯爵家の嫡子に指定されている。だがその前に今まで王家預かりになっていたアルトワ子爵位を継承したそうだ。亡くなった彼女の母が持っていた爵位だ。マール家の養子縁組はまだ手続きが完了していないらしく、サインがリリアーヌ アルトワになっていた。
アベル様との結婚式は、予定どおり来春だ。主賓はアレクサンドル王太子夫妻。ああ、姉は失踪前から王太子妃のアマリリス様と仲良かったんだよね。――問題はアマリリス様がヴィクトル殿下の元婚約者ってこと。殿下にエスコートを頼もうかと思ったけど、これはさすがにやめといた方がいいか。
「エスコートどうしよう。卒業パーティーみたいな惨事は避けたいわ。」
「……卒業パーティーか、私も大変だったな。エリカは何があったのだ?」
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「おぉ…」
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「――別にブロワ侯爵としての君をエスコートするだけなら、何も問題ないはずだ。」
「じゃあ、姉の返事にもヴィクトル様を連れていくって書いちゃいますよ。」
「構わん」
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