祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄

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祝典の始まりと過保護の始まり

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 青い空に白い煙がポンポンと打ち上がっている。
 祝典が始まった合図だ。

 この祝典は、慈愛の女神様の祭祀はもちろんのこと、国を作り上げてきた国王や列なる歴代の英雄たちへの感謝する形式的なものも含まれている。

 その一方で、国の政治的、軍事的な優位性を他国に見せるという側面もあり毎年開催されている。

「ディルカさん、ちょっといいかしら?」

 ディルカの上長であるオーリアが銀縁の眼鏡を押し上げながら声をかけてきた。

「なんでしょう?」
「これから大通りへ花びらを撒きに行くのよね?」
「はい、前回は花びらでしたが、今回は魔導具を使用して花を空高く舞わせようという案が出まして、花が降りそそいだあと、花びらが舞い上がるのを想定しているので、前回よりも派手になりそうです」

 コストを抑えながらも見栄え良く実現できる案を採用することになったのだ。

「あなたが魔導研究員たちの要望を抽出して重複する内容をまとめあげてくれたから、角も立たなかったのよね。助かっているわ」

 魔導研究員が集まると、各員のこだわりが強すぎてまとまらないことがよくある。それをまとめるのは面倒だが納得したうえで承諾がもらえるのは嬉しい。

「お役に立ててよかったです。それに前回の祝典でも好評だったと聞いています」
「えぇ、前回も街の人から好評だったと聞いているから皆楽しみにしていると思うの。お願いね。それで別のお願いなんだけれど、その作業が終わったあと蒼の部隊に届け物をして欲しいの」

 オーリアは茶色い髪を揺らして机にあった魔導具をおもむろに投げて寄こした。

 それは緩やかな放物線をえがいてディルカの手へと収まる。小さな蜘蛛の形をしていることに気づき、驚いて取り落としそうになるものの、なんとか落とさずにすんだ。

 大量生産している魔導具は買いなおしても、修理に出しても費用はほとんど変わらない。だから、修理に出されるものとなると高価な魔導具が多いのだ。

 もっと丁寧に魔導具を扱ってほしいとディルカは思う。

「修理済みなんですよね?」
「えぇ、その通りよ。やっと終わったの」
「今回は何を修理したんです?」
「拷問器具よ」
「?!」

 蜘蛛のような形をしているそれを、まじまじと見る。ディルカの顔から血の気が面白いくらい引いていった。

 この魔導具を使ってどのような拷問が繰り広げられるのかディルカには想像すらできない。

「身体の一部の動きを停止させたり、自白したくなるくらい恐ろしい目にあうそうよ」
「!!」

 そんな物騒な魔導具など運びたくないとディルカの顔に出ていたのだろう。クスクスと笑うオーリアを見てからかわれたのだと気づく。

「うふふ、この魔導具はね、対象の脇腹をくすぐり続けるの。息継ぎもままならないなんて、恐ろしいわね」
「…………そうですね」

 そんな話を聞いても、ディルカはまったく笑えなかった。拷問器具には違いないのだからと、腰に吊るしてある巾着へと慎重に入れる。

「変なところを押さないように気を付けて? 笑い死ぬわよ」
「?! イヤなこと言わないでくださいよ!」
「うふふ、知っていると思うけど、蒼の部隊の執務室には入らないようにね」

 ニヤニヤしながら手をふるオーリアに、執務室に入らないでどうやって蒼の部隊の人へ渡せばいいのだと、こっそりとため息をついて退室した。



 街では心が弾むような音楽がどこからともなく聞こえてくる。通りを行く人々の顔はいちように明るく楽しそうだ。

 流れる音楽を耳にしながら人混みを縫うようにディルカは大通りへと歩みを進める。

 到着した先で魔導具を設置してからの状態を確認する。

 問題ないことを確認している間に、大通りにはさらにたくさんの人の波ができあがっていた。

 祝典の間は設置した魔導具で日中の3日間、花が降り注ぎ、花びらが舞い上がるようにする予定だ。その加減が難しいので魔導具を使い微妙な調整をする。

 交代制なので、ディルカは設置して花を舞わせればひとまず終了で、次の担当者が予定の時間になれば調整と魔力供給のためにやってくるだろう。

 空の魔石にディルカの魔力を込めていくのだが、研究員によって作り出す花びらの色や形はずいぶんと違う。

 ディルカの花は色とりどりで目にも楽しく、優しい花の香がすると前回評判だった。ミハエルもその時は一緒にいてくれてすごいと喜んでくれたのを記憶している。



 そろそろディルカの設置した魔導具の出番だろう。

 合図の花火が打ち上がり、各通りで待機していた魔導研究員たちが一斉に魔導具を起動させる。

「わぁ、空から花が降ってきた!」
「なんて素敵な光景かしら」
「この花びら、ほのかに香ってない?」
「本当だわ! 優しい香りね」
「あら? 本物の花ではないのね。触れようとした瞬間消えてしまったわ」

 これは魔力で作った花を魔導具によって拡散しているに過ぎないので触れることはできない。

 ディルカはひと通り街を行く人の感想を耳にしながら魔導具の出力などを調整していく。

 すぐそばで一組の男女が緊張の面持ちで向き合っていることに気づいた。

「好きです! 付き合ってください!」

 いきなり高揚した声が雑踏に響く。その後ひときわ大きな歓声が周囲から上がった。ひとつのカップルが誕生したらしい。微笑ましいことだとディルカは作業をしながら聞き流す。

 今度は歳を重ねた夫婦が、ディルカの前をゆっくりと横切っていく。

「この歳になってもおまえさんと祝典の日を過ごすことができて幸せだ。慈愛の女神様は愛も司るというから、ワシたちのような老夫婦にも祝福してくれているのかもしれんな」
「えぇ、そうね」

 そんな言葉が聞こえてきた。長い時を好きな相手と一緒に過ごせるなんて羨ましいと心から思う。

 耳を傾ければ老若男女イチャイチャする声があちらこちらから聞こえてくる。

 今日は愛を告げたり、確かめ合うようなそんな日だったっけ? とディルカは羨ましすぎて少し泣きそうになった。

 ディルカも好きな相手とイチャイチャしたいし、ベタベタしたい。キスもしたいし、その先だって興味がある。

 そんなことを考れば幼なじみであるミハエルの顔が浮んだ。いつも一緒にいる弟のような身近な存在だ。
 彼の笑顔が思い浮かんだことにディルカは苦笑する。

 今の大通りはディルカが見ても花びらが舞う景色となり華やかで美しい。夜も稼働させスポットライトを照らしたらさぞや幻想的なことだろう。

 しかし、夜の実施許可は下りなかった。防犯面と魔力の供給を誰がするのかという問題があったからだ。

 ミハエルがこの大通りを巡回するなら、ディルカの魔力で満たされた光景をちらりとでも見てくれたらと心の内で思った。
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