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蒼の部隊の執務室
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蒼の部隊が使用しているという扉の前で、ディルカは立ちつくしている。
オーリアの言いつけを守って執務室に入らない訳ではない。
蒼の部隊の執務室という特殊な部隊が使用している部屋なので、なにかしらの仕掛けがあるのではないかと警戒しているのだ。
彼らは暗部で、いわゆる隠密部隊だ。だから拷問器具など仕事で必要となる。そんな作業を考えただけでディルカは震え上がってしまった。
震えながらも、あるかもわからない仕掛けを探してキョロキョロしていたディルカは、途中で我に返り少しだけ恥ずかしくなった。ないものを必死に探すのははたから見れば滑稽なことだろう。
気を取り直したディルカは遠慮ぎみにノックしてから扉の取っ手に手を置き前へと押しだす。
鍵でもかかっていれば室内に入れなかったとオーリアに説明すればいい。そう考えていたが、抵抗もなく扉は開き室内へと入ることができた。
「お邪魔します」
室内の窓という窓はカーテンが引かれ薄暗く陰気な気配が漂よっている。
重厚感のある執務机が部屋の中央にあり、その後ろにある灯りとりの小窓から細い陽射しが埃をキラキラと反射させている。
そして、その左側に簡素だが茶色いソファのセットが置かれており、執務机の右側には背の高い書棚が壁に沿って設置されていた。
机の上には、インク瓶のひとつも出されていない。
蒼の部隊の仕事場のはずだが書類仕事はないのかと疑問に思う。
ディルカは静まり返った室内で、巾着に入れていた蜘蛛型の魔導具を取り出す。見れば見るほど、気持ちの悪い魔導具だ。
「これを置いて帰るわけにはいかないよねぇ」
拷問器具だと聞いているので、早いところ手放したかった。
執務机を目指して一歩を踏みだすと、ピリピリと肌が痺れた気がした。
だが、特に痛みはない。静電気だろうかと首を捻る。
改めて部屋を見回す。
机の上に魔導具を置いて帰ったとして、あとから賊に入られ盗まれないとは言い切れない。管理と責任問題にもつながるだろう。
これは特殊な魔導具であるし、なにより上長のオーリアから預かった大事な魔導具だ。
「やっぱり待つしかないかなぁ」
蒼の部隊といえば、朝に廊下ですれ違う男も蒼の部隊に所属しているはずだ。ディルカにとって気になる相手ではあるが、どういう立ち位置の人物なのかわからないし、わざわざ呼び出してお願いするほど仲がいいわけでもない。
それに彼の名前も知らない。今度すれ違った時にでも、自己紹介を試みてもいいかもしれない。
そんなことをディルカが考えていると──、
「何をしている」
背後から静かに響く低い声に、ディルカは肩をぴょこんと跳ね上げ驚いた。
手に持っていた魔導具は、ディルカが飛び上がったと同時に手の上を跳ねる。
落ちそうになる魔導具を持ちなおすが、ウィンと微かな起動音が手の隙間から聞こえた。
蜘蛛型の魔導具の足がしゅるりと伸びて、ディルカの細い腰回りを一瞬にして拘束してしまった。
ひっ、と喉から出そうになる悲鳴を飲み込みんで、直立したまま身体を動かさないようにする。それが功を奏しているのか腹にとりついた魔導具は動きを止めている。
ディルカは背中に冷や汗が流れるのを感じた。
「何をしていると聞いている」
そこに再び咎めるような凍てついた声音が響く。
ディルカが返事をしないので痺れを切らしたのだろう。しかも男は勝手に室内へ侵入してきたディルカを警戒しているようだ。
そう考えれば蒼の部隊の隊員なのかもしれない。
どちらにしても、魔導具に殺されるか、蒼の部隊に始末されるか、という二択は嫌なのでディルカは声をかけてきた相手に助けを求めるように返した。
「怪しいものではありません! 魔導研究員のディルカです! 室内に勝手に入って申し訳ないのですが、お届け物である蜘蛛型の魔導具が起動してしまいまして止めてもらうことはできないでしょうか?!」
そう一気に話してから、ゆっくりと振り返えろうとした。
ディルカが振り返るよりも早く、相手の方が驚いた声をあげた。
オーリアの言いつけを守って執務室に入らない訳ではない。
蒼の部隊の執務室という特殊な部隊が使用している部屋なので、なにかしらの仕掛けがあるのではないかと警戒しているのだ。
彼らは暗部で、いわゆる隠密部隊だ。だから拷問器具など仕事で必要となる。そんな作業を考えただけでディルカは震え上がってしまった。
震えながらも、あるかもわからない仕掛けを探してキョロキョロしていたディルカは、途中で我に返り少しだけ恥ずかしくなった。ないものを必死に探すのははたから見れば滑稽なことだろう。
気を取り直したディルカは遠慮ぎみにノックしてから扉の取っ手に手を置き前へと押しだす。
鍵でもかかっていれば室内に入れなかったとオーリアに説明すればいい。そう考えていたが、抵抗もなく扉は開き室内へと入ることができた。
「お邪魔します」
室内の窓という窓はカーテンが引かれ薄暗く陰気な気配が漂よっている。
重厚感のある執務机が部屋の中央にあり、その後ろにある灯りとりの小窓から細い陽射しが埃をキラキラと反射させている。
そして、その左側に簡素だが茶色いソファのセットが置かれており、執務机の右側には背の高い書棚が壁に沿って設置されていた。
机の上には、インク瓶のひとつも出されていない。
蒼の部隊の仕事場のはずだが書類仕事はないのかと疑問に思う。
ディルカは静まり返った室内で、巾着に入れていた蜘蛛型の魔導具を取り出す。見れば見るほど、気持ちの悪い魔導具だ。
「これを置いて帰るわけにはいかないよねぇ」
拷問器具だと聞いているので、早いところ手放したかった。
執務机を目指して一歩を踏みだすと、ピリピリと肌が痺れた気がした。
だが、特に痛みはない。静電気だろうかと首を捻る。
改めて部屋を見回す。
机の上に魔導具を置いて帰ったとして、あとから賊に入られ盗まれないとは言い切れない。管理と責任問題にもつながるだろう。
これは特殊な魔導具であるし、なにより上長のオーリアから預かった大事な魔導具だ。
「やっぱり待つしかないかなぁ」
蒼の部隊といえば、朝に廊下ですれ違う男も蒼の部隊に所属しているはずだ。ディルカにとって気になる相手ではあるが、どういう立ち位置の人物なのかわからないし、わざわざ呼び出してお願いするほど仲がいいわけでもない。
それに彼の名前も知らない。今度すれ違った時にでも、自己紹介を試みてもいいかもしれない。
そんなことをディルカが考えていると──、
「何をしている」
背後から静かに響く低い声に、ディルカは肩をぴょこんと跳ね上げ驚いた。
手に持っていた魔導具は、ディルカが飛び上がったと同時に手の上を跳ねる。
落ちそうになる魔導具を持ちなおすが、ウィンと微かな起動音が手の隙間から聞こえた。
蜘蛛型の魔導具の足がしゅるりと伸びて、ディルカの細い腰回りを一瞬にして拘束してしまった。
ひっ、と喉から出そうになる悲鳴を飲み込みんで、直立したまま身体を動かさないようにする。それが功を奏しているのか腹にとりついた魔導具は動きを止めている。
ディルカは背中に冷や汗が流れるのを感じた。
「何をしていると聞いている」
そこに再び咎めるような凍てついた声音が響く。
ディルカが返事をしないので痺れを切らしたのだろう。しかも男は勝手に室内へ侵入してきたディルカを警戒しているようだ。
そう考えれば蒼の部隊の隊員なのかもしれない。
どちらにしても、魔導具に殺されるか、蒼の部隊に始末されるか、という二択は嫌なのでディルカは声をかけてきた相手に助けを求めるように返した。
「怪しいものではありません! 魔導研究員のディルカです! 室内に勝手に入って申し訳ないのですが、お届け物である蜘蛛型の魔導具が起動してしまいまして止めてもらうことはできないでしょうか?!」
そう一気に話してから、ゆっくりと振り返えろうとした。
ディルカが振り返るよりも早く、相手の方が驚いた声をあげた。
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