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エピソード.1 funny
1-1 蕪木わた
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語り手である自分、本多梅にとっての高校最後の夏は心が大きく揺れ動いた季節だった。もちろん、梅雨が始まった頃の自分はそんなことは思いもしなかっただろうし、あくまでも高校生活における三回目の夏として捉えていた。そのことを後になって悔やむことになるのだけれど、話をしていくうちに聡明な読者方はその理由を分かってくれると信じて、この話は一旦切り上げさせてもらう。
さて自分の通う高校だが、所謂工業高校である。全ての工業高校に当てはまることなのかそれは分かりかねるけれど、うちの高校の生徒たちはやんちゃな生徒が多い。そのためうちの学校の図書室では図書館における、沈黙と言う名の絶対にして暗黙のルールが守られていない。
特に昼休みになると図書室は似つかわしくない騒音に包まれる。工業高校生の有り余った若さは静けさという言葉と正反対の場所に位置するからだろう。
対して放課後はと言えば、昼休みの騒がしさはどこに消えたと言わんばかりに本来の静けさを取り戻す。学校の許可を得てバイトをするものや、教師の目を盗んで帰宅部に精を出すものもいるが、基本は部活動に入部することが義務付けられているためだ。そのため、よほどの用事がなければ、放課後に図書室を利用する生徒は、たったの二人だけである。
その一人が自分、本多梅。
そして、もう一人の名は、蕪木わた、だ。
蕪木は建築科に属しており、その学業成績は学年主席。更には校則を一度も破ったことがないなど、生活態度は品行方正の一言に尽きるという。つまりは、絵に描いたような優等生。決して学力のレベルが高くないこの学校においても、二桁点数を取ったことで教師に体調を心配されるのは歴代でもこの、蕪木わただけだろう。
そんな蕪木を一目見た人たちが口々に言うのは、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。つまり、万人の一人の逸材。相当の器量良しなのである。
夏の星空が染み込んだような腰まで伸びる長い髪。雪を被ったような白い肌と日本人形のような切れ長の目。スタイルは抜群に良いとは言えないが、代名詞が示すように姿勢が非常に良いため、立ち姿や座る姿、歩く姿のどれを収めても画面に映える。惜しむべきは工業高校のため、白いポロシャツと灰色のチェック柄のスカートという、良い意味でも悪い意味でもシンプルな制服姿しか見ることができないことだろうか。
本題はそんな蕪木と自分は放課後図書室で共に過ごしているということにある。
用事がある時や所属しているオカルト研究部の活動がある日は、自分が図書室へ行くことはない。だが、何も用事がない日。時間を持て余した日は日没まで図書室で過ごす。
もちろん図書室に行けばあの蕪木わたが居る。視界に映すだけでも価値がある存在だ、興味が引かれるのは当然だろう。
だけど当の蕪木は、全てを拒むように勉強に集中していて話しかける隙を与えてはくれない。対して自分はと言えば、中学の時に得たひねくれものの性格が災いし会話をする。という発想に至らないのだ。そのため、いつだって黙々と小説を読みながら夕暮れを待っていた。
そんな日々を二年以上も繰り返してきたものだから、自分と蕪木わたの間にはまともな会話など一度も交わされたことなどなく、お互いに図書室の風景の一部とすら捉えている。今日この日も変わらずに。
だから驚いてしまうのは仕方がないことなのだ。
「本多梅」
ビー玉のように透き通った蕪木の声で、自分の名前が呼ばれたことに。
さて自分の通う高校だが、所謂工業高校である。全ての工業高校に当てはまることなのかそれは分かりかねるけれど、うちの高校の生徒たちはやんちゃな生徒が多い。そのためうちの学校の図書室では図書館における、沈黙と言う名の絶対にして暗黙のルールが守られていない。
特に昼休みになると図書室は似つかわしくない騒音に包まれる。工業高校生の有り余った若さは静けさという言葉と正反対の場所に位置するからだろう。
対して放課後はと言えば、昼休みの騒がしさはどこに消えたと言わんばかりに本来の静けさを取り戻す。学校の許可を得てバイトをするものや、教師の目を盗んで帰宅部に精を出すものもいるが、基本は部活動に入部することが義務付けられているためだ。そのため、よほどの用事がなければ、放課後に図書室を利用する生徒は、たったの二人だけである。
その一人が自分、本多梅。
そして、もう一人の名は、蕪木わた、だ。
蕪木は建築科に属しており、その学業成績は学年主席。更には校則を一度も破ったことがないなど、生活態度は品行方正の一言に尽きるという。つまりは、絵に描いたような優等生。決して学力のレベルが高くないこの学校においても、二桁点数を取ったことで教師に体調を心配されるのは歴代でもこの、蕪木わただけだろう。
そんな蕪木を一目見た人たちが口々に言うのは、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。つまり、万人の一人の逸材。相当の器量良しなのである。
夏の星空が染み込んだような腰まで伸びる長い髪。雪を被ったような白い肌と日本人形のような切れ長の目。スタイルは抜群に良いとは言えないが、代名詞が示すように姿勢が非常に良いため、立ち姿や座る姿、歩く姿のどれを収めても画面に映える。惜しむべきは工業高校のため、白いポロシャツと灰色のチェック柄のスカートという、良い意味でも悪い意味でもシンプルな制服姿しか見ることができないことだろうか。
本題はそんな蕪木と自分は放課後図書室で共に過ごしているということにある。
用事がある時や所属しているオカルト研究部の活動がある日は、自分が図書室へ行くことはない。だが、何も用事がない日。時間を持て余した日は日没まで図書室で過ごす。
もちろん図書室に行けばあの蕪木わたが居る。視界に映すだけでも価値がある存在だ、興味が引かれるのは当然だろう。
だけど当の蕪木は、全てを拒むように勉強に集中していて話しかける隙を与えてはくれない。対して自分はと言えば、中学の時に得たひねくれものの性格が災いし会話をする。という発想に至らないのだ。そのため、いつだって黙々と小説を読みながら夕暮れを待っていた。
そんな日々を二年以上も繰り返してきたものだから、自分と蕪木わたの間にはまともな会話など一度も交わされたことなどなく、お互いに図書室の風景の一部とすら捉えている。今日この日も変わらずに。
だから驚いてしまうのは仕方がないことなのだ。
「本多梅」
ビー玉のように透き通った蕪木の声で、自分の名前が呼ばれたことに。
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