(3章完結)今なら素直に気持ちを伝えられるのに

在原正太朗

文字の大きさ
12 / 81
エピソード.1 funny

1-12 人ならざるもの

しおりを挟む
 普通神様の住まう場所と言えば、神社とか神聖な場所を想像すると思う。万次郎の仲介で知り合うことになるまでは、自分もそう思っていたから。
 だけど、自分が知っている神様というのは庶民的と言うか住む場所にこだわりがないらしく、この学校の科学準備室に居る。

「…………」

 科学準備室の入り口の扉。他の教室と変わらないはずなのに、何十倍にも重く感じる扉をこじ開けるように引いた。

「いらっしゃい。元気そうやね、受験生」

 一歩科学準備室に足を踏み入れた瞬間、氷柱つららのように冷たく鋭い声が自分の耳に届く。その瞬間背筋に冷や汗が走り、重心が下がった。しかし、自分にここから離れてはいけない。と心の中で言い聞かせ、椅子に座り自分を待つ声の主をにらみつけた。
 縁の細いオパール型の眼鏡。膝裏ひざうらまで届きそうな純白の白衣。その白衣にも負けない真っ白な髪の毛をうなじ辺りで縛っている色白で線の細い、科学を担当する先生。
 この人。いや、この方が正真正銘の、神様だ。
 正直、何をもって神様というのか定義するのは難しいけれど、目の前に立つ神様は到底人には出来ないであろうことをしてみせた。だから少なくとも自分と万次郎は神様だと認め、信じている。
 神様がいつからこの学校に居たのか、何故この学校に居るのか、そもそも神紙しんしとは何なのか。疑問は正直たくさん出るだろう。しかし、一つ一つ疑問に答えてくれるほど神様はやさしくない。いや、気分が乗らないというべきだろうか。
 ただ、一つだけはっきりとしていることは、この神様は人の後悔を消そうとしていて、その役割をこの学校の生徒に任せているということだ。
 本来は万次郎がその役を請け負っていた。しかし、二年前の夏を境に万次郎のすすめもあって自分がその役目を請け負うことになった。それ以来の付き合いとなるのだが、どうしても馴れないと言うか、距離を置いてしまう。

「さてさて。私の大切な生徒はいったいどんな後悔を持ってきたのかねえ」
「おれがわざわざ説明しなくたって、もう大体の事情は察しているでしょ」

 警戒の意味が込められた低い声と強い口調。
 本来は良くないことだと分かっていても、強い口調でしか話すことができないのだが、神様は寛大なのか見下しているためなのか、気にするそぶりは見せない。
 結局はどこまでも相容れない存在なのだろう。

「まあ、正直に言えば最初はいただけんねえ。とは思ったよ。実験なんかで使って良い力じゃないからねえ」
「そうですよね」

 と同意してみるが、実験をすることが仕事の一つである科学の先生を、一応やっている神様が言って良いのか? と心の中でツッコミが浮かぶ。しかし、簡単に使って良い力ではないのは確かなので今は何も言うまい。

「でも、まあ、君の表情を見れば相当な覚悟を持ってここに来たって言うことは分かるからねえ。先生としてもゴーサイン出しちゃおうかあ」

 と言うと神様は雪よりも白い掌を差し出す。自分は近づくその掌の上に自分は土居原先生から受け取っていた神紙を乗せた。

「うむ。確かに受け取ったよ」

 神様はなまめかしく一本一本指を閉じ神紙を受け取ると、椅子から立ち上がり白衣の左側の内ポケットから封筒を取り出した。神紙はその封筒の中へとしまわれ、過去へ送る手紙へと姿を変える。
 次に右ポケットから封蝋ふうろうとマッチ。そしてちょうの模様が入ったスタンプを右側の内ポケットから取り出した。
 神様はマッチで蝋に火を点けると、手紙に溶けた蝋が落ちていく。十分な量の蝋が手紙にたまると蝋の火を消し、机に置いていたスタンプを押す。柔らかな蝋は蝶の形に変わり、手紙は過去へ向かう準備を終えた。

「ほんと、よくこんだけで飛んでいくもんですね」
「あはは。まあ、人ならざる者の特権ってやつやねえ」

 神様は自分の前に手紙を差し出す。自分は失くさないようズボンのポケットに手紙をしまい込んだ。

「今日はよく晴れるみたいやねえ。絶好の投函日和とうかんびよりだ」

 まるで自分事のように喜びながら言う神様。
 だけどその内心は決して穏やかとは言えないようで、つややかなくちびるをほんの少しだけ上げ、わざとらしくこちらに向けた。

「同僚の後悔を解決してやるのも必要やと思うけど、あくまでは生徒の悩みを一番に解決してあげたいから、ねえ」
「分かっています」
「……よろしく」

 神様は納得してくれたのか、後ろを向くとひらひらと白い手を振ってみせた。
 対して自分は悪態でもついてから出ていこうかと思ったが、時間もないので黙って準備室を後にした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

処理中です...