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エピソード.1 funny
1-14 ありがとう
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自分と蕪木の荷物は図書準備室に置いてあり、土居原先生は図書室を閉める必要があるため、自分たちは準備室へと戻ってきた。
戻ってきてすぐに図書室の扉の前に丸いメガネを掛けた見知らぬ生徒が立っているのを見つけた。ポロシャツの襟に赤いピンが刺さっているところを見ると、どうやら一年生のようだ。
小脇に本を抱えているところを見ると、図書室の利用客と見て間違いないだろう。
「あー、良かった。今日はもう帰っちゃったのかと思いました」
一年生の子はまるでうさぎが跳ねているかのように、土居原先生を目がけて駆けてくる。
「すみません。少し所用があったので、席を外していました。しかし珍しいですね。放課後に来られるのは」
「あはは。どうしてもこの本の続きが気になって、部活が休みだったのもあって来ちゃいました……って、うわ、蕪木先輩じゃないですか! すごい、本物だ」
持っていた本を胸に抱き、目を輝かせ蕪木を見つめる一年生の子。そんな後輩からのミーハーな反応に蕪木の纏う空気が一気に冷える。
まずい、こいつ絶対に余計なことを口走るぞ。
何も知らない後輩相手に毒を吐かせるわけにいかないため、自分は無理矢理話題を変えにかかった。
「もう図書室を閉める時間が迫っているんだ、さっさと本を借りたらどうなんだ」
「あ。そ、そうですね」
わざと声のトーンを落とし語気を強めて言ったことが功を奏したのか、一年生の子は少し重心を引きながら反応した。
その反応に自分は心の中で傷ついていたのだが、蕪木は感謝するどころか余計なことを。と鼻を鳴らしてこちらに背を向ける。勢いよく振り向くものだから長い髪が自分の肩に当たったのだが、今文句を言ったところで悪態を吐かれるばかりなので我慢した。
話を一年生の子の方に戻そう。一年生の子はさっき言った通り借りたい本があったらしく手にしていた本を返却すると、小走りで目的の本が置いてある本棚の元へ向かい一冊の本を手にした。そしてその本をカウンターに立つ土居原先生の元へと持ってくる。
ハードカバーの小説のようだ。タイトルや作者の名前に自分は見覚えがなかったのだが、土居原先生にはあったらしく、冷たい冬の空気のような表情から春の陽気のような表情へと変わった。
「あらあら、どうしても読みたい本と言うのは、その本のことだったんですか」
「はい! もしかして、土居原先生も読んでくれたんですか?」
「ええ。とても面白かったので、何度も読み返したくらいですよ」
「それは良かったですー。親戚の一員として鼻が高いですよ」
まるで自分事のように胸を張り喜ぶ一年生の子。だけど、すぐにその表情はどこか遠くを見るような、寂しさを帯びる。
「多分、今の話を天国で聞いて喜んでいますよ」
「天国?」
「亡くなったということね」
「あ」
あまりの察しの悪さに自分でもひどいと思ったため、一年生の子に頭を下げる。一年生の子は気にしていない。と大袈裟に手を振って応えた。
「元々体が強くなかったみたいで、一昨年に亡くなっちゃったんです」
「そうなのですか。それは、残念ですね」
「ほんとですよ……遂には一番のファンを見つけられないまま天国に」
「一番のファン?」
それって。
「一番のファンと言っても、昔一言だけ面白かったですって言ってくれた人らしいんですけどね。ただ、その一言がずっと支えになって眠る直前まで本を書き続けたらしいんですよ」
「え、それって」
土居原先生のことじゃないのか。
「名前とか言ってなかったのか?」
「名前ですか? うーん、聞いたことがあったような、なかったような」
「はっきり言いなさい」
「す、すいません! えっと……思い出せないです」
真顔ですごむ蕪木のあまりの迫力に、少し涙目になり指を絡ませながら答える一年生の子。
助け舟を出そうか悩んでいたところ、自分の口よりも先に一年生の子の口が動いた。
「で、でも、そのことをいつもあとがきの最後に書いているって言っていました。一番のファンの方に会えずじまいだったとかで」
「あとがきに?」
「はい。この本にも書いていると思いますよ」
と言って差し出された本を土居原先生は受け取ると、あとかぎのページを開く。自分と蕪木はそれぞれ土居原先生の両脇に立ち、本の中を覗き込んだ。
あとがき最後の段落に、以下のことが書かれていた。
『最後に、この本を出版するにあたってお世話になった、編集者の―さん。そして、毎回書かせてもらっているが、まだ私が小さな学校の図書室で司書をやっていた頃に出会ったあの人に、お礼を言いたいと思います』
『いつも私の隣で私の作品を読み、たった一言、「面白かったです」。と言ってくれた君へ』
「ありがとう」
あとがきに末尾に書かれた感謝の文字には、雫が落ち滲んでいた。
戻ってきてすぐに図書室の扉の前に丸いメガネを掛けた見知らぬ生徒が立っているのを見つけた。ポロシャツの襟に赤いピンが刺さっているところを見ると、どうやら一年生のようだ。
小脇に本を抱えているところを見ると、図書室の利用客と見て間違いないだろう。
「あー、良かった。今日はもう帰っちゃったのかと思いました」
一年生の子はまるでうさぎが跳ねているかのように、土居原先生を目がけて駆けてくる。
「すみません。少し所用があったので、席を外していました。しかし珍しいですね。放課後に来られるのは」
「あはは。どうしてもこの本の続きが気になって、部活が休みだったのもあって来ちゃいました……って、うわ、蕪木先輩じゃないですか! すごい、本物だ」
持っていた本を胸に抱き、目を輝かせ蕪木を見つめる一年生の子。そんな後輩からのミーハーな反応に蕪木の纏う空気が一気に冷える。
まずい、こいつ絶対に余計なことを口走るぞ。
何も知らない後輩相手に毒を吐かせるわけにいかないため、自分は無理矢理話題を変えにかかった。
「もう図書室を閉める時間が迫っているんだ、さっさと本を借りたらどうなんだ」
「あ。そ、そうですね」
わざと声のトーンを落とし語気を強めて言ったことが功を奏したのか、一年生の子は少し重心を引きながら反応した。
その反応に自分は心の中で傷ついていたのだが、蕪木は感謝するどころか余計なことを。と鼻を鳴らしてこちらに背を向ける。勢いよく振り向くものだから長い髪が自分の肩に当たったのだが、今文句を言ったところで悪態を吐かれるばかりなので我慢した。
話を一年生の子の方に戻そう。一年生の子はさっき言った通り借りたい本があったらしく手にしていた本を返却すると、小走りで目的の本が置いてある本棚の元へ向かい一冊の本を手にした。そしてその本をカウンターに立つ土居原先生の元へと持ってくる。
ハードカバーの小説のようだ。タイトルや作者の名前に自分は見覚えがなかったのだが、土居原先生にはあったらしく、冷たい冬の空気のような表情から春の陽気のような表情へと変わった。
「あらあら、どうしても読みたい本と言うのは、その本のことだったんですか」
「はい! もしかして、土居原先生も読んでくれたんですか?」
「ええ。とても面白かったので、何度も読み返したくらいですよ」
「それは良かったですー。親戚の一員として鼻が高いですよ」
まるで自分事のように胸を張り喜ぶ一年生の子。だけど、すぐにその表情はどこか遠くを見るような、寂しさを帯びる。
「多分、今の話を天国で聞いて喜んでいますよ」
「天国?」
「亡くなったということね」
「あ」
あまりの察しの悪さに自分でもひどいと思ったため、一年生の子に頭を下げる。一年生の子は気にしていない。と大袈裟に手を振って応えた。
「元々体が強くなかったみたいで、一昨年に亡くなっちゃったんです」
「そうなのですか。それは、残念ですね」
「ほんとですよ……遂には一番のファンを見つけられないまま天国に」
「一番のファン?」
それって。
「一番のファンと言っても、昔一言だけ面白かったですって言ってくれた人らしいんですけどね。ただ、その一言がずっと支えになって眠る直前まで本を書き続けたらしいんですよ」
「え、それって」
土居原先生のことじゃないのか。
「名前とか言ってなかったのか?」
「名前ですか? うーん、聞いたことがあったような、なかったような」
「はっきり言いなさい」
「す、すいません! えっと……思い出せないです」
真顔ですごむ蕪木のあまりの迫力に、少し涙目になり指を絡ませながら答える一年生の子。
助け舟を出そうか悩んでいたところ、自分の口よりも先に一年生の子の口が動いた。
「で、でも、そのことをいつもあとがきの最後に書いているって言っていました。一番のファンの方に会えずじまいだったとかで」
「あとがきに?」
「はい。この本にも書いていると思いますよ」
と言って差し出された本を土居原先生は受け取ると、あとかぎのページを開く。自分と蕪木はそれぞれ土居原先生の両脇に立ち、本の中を覗き込んだ。
あとがき最後の段落に、以下のことが書かれていた。
『最後に、この本を出版するにあたってお世話になった、編集者の―さん。そして、毎回書かせてもらっているが、まだ私が小さな学校の図書室で司書をやっていた頃に出会ったあの人に、お礼を言いたいと思います』
『いつも私の隣で私の作品を読み、たった一言、「面白かったです」。と言ってくれた君へ』
「ありがとう」
あとがきに末尾に書かれた感謝の文字には、雫が落ち滲んでいた。
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