(3章完結)今なら素直に気持ちを伝えられるのに

在原正太朗

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エピソード・3 injury

3-1 波乱

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 長く湿っぽい梅雨がようやく終わろうとしている今日、自分たちはテスト期間を迎えている。
 高校生である以上学力試験という通過儀礼は避けられないわけで、少ない知力と有り余る体力を主に部活に注げてきたクラスメイト達の多くは、うめき声を漏らしていた。

 かくいう自分はと言えば、小説好きがこうじて現代文で平均以下を取ったことはないし、工業系の科目を除けば赤点というものは取ったことはない。更に、今回は元々学年トップクラスの学力を誇る万次郎と学年トップの蕪木にみっちりと絞られた以上、平均点を下回ることはないだろう。正直、明後日には行われるであろう、テストの返却も楽しみなくらいだ。

 というわけで、かなり心に余裕をもって昼食に臨もうと購買で買ってきたパンを机に広げようとしたところで、その余裕は消してとんでしまった。

「本多、梅はいるかしら」

 普段クラスで響くはずのない声が、教室前方の扉から響く。自分を含めクラス中の視線が、その声の主へと集まった。

 三年電気科のクラスに、あの蕪木わたが居る。
 一斉にざわめき立つクラスメイト達に対して、自分だけが頭を抱えていた。

 花も恥じらう。と言う言葉を字にゆく蕪木。その蕪木を知らないやつはこの校舎に居ない。
 つまり、蕪木に友だちと言える人間が皆無に等しかったことも、学校中の人間が知っている。
 だから自身のクラス以外に現れることは移動教室を除くとかなりレアなわけで、クラス中が驚きの声で満たされることは不思議じゃない。

 問題は自分の名前をクラスメイトの前で口にしたことだ。
 ざわめき立つクラスメイト達の視線は、蕪木の方から自分の方へと移り変わる。普段は授業で黒板に回答を書く際も集まらないクラス中の視線が、自分に向けられているこの状況が居心地の良いものとは嘘でも言えず、自分はたまらず蕪木の元へ向かった。

「か、蕪木さん。何でこの電気科の教室に現れたんですかね?」
「昼ご飯を誘いに来てあげたの」
「あげたのって……とりあえずこっから離れるぞ」

 と言って自分は回れ右して自分の席からパンをつかみ取ると、急ぎ蕪木の元へ戻る。あらぬ噂が自分の背中に投げかけられるのを感じながら、以前万次郎と話をした別棟の踊り場まで駆け抜けた。
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