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エピソード・3 injury
3-6 青い春は電車の中で
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「じゃあ、金沢に行こっか」
「金沢?」
予想もしていなかった土地名が部長の口から飛び出し、自分は首を傾げた。
北陸でも指折りの観光地、金沢。前田の殿様の時代に花開いた城下町であり、小京都とも呼ばれるその街には歴史と風情を感じさせる武家屋敷や兼六園。近未来と独創性を感じさせる二十一世紀美術館など、見どころのある場所は多い。
しかし、今の時間は午後の四時半。小松から金沢に着くまで約三十分掛かるとして、二、三時間で見て回るとなると、行ける場所はかなり限られてくるのだが。
「良いじゃん。丁度駅に集まっているわけだしさ。ね、わたちゃん」
「そうね。何より、わたしはそこの物分かりの悪い人間と違って付いていくだけだから」
「悪うございましたな、物分かりが悪くて」
普通に返事をするだけで良いのに、いちいち自分をけなさないといけないのかお前は。
なんて心の中で思ったけれど、いちいち口に出していたら話も進まないので自分たちは部長の進言に従って金沢にいくことにした。
小松の駅から目的地の金沢までは普通電車で約三十分。特急を使えばもっと早く辿り着くけれど、高校生の財布に特急料金は中々に厳しい。そのため、普通電車で三十分かけ金沢へ向かう。
列車の座席は二席一組。それが左右に列となって並んでいる。自分たちは丁度空いていた四人掛けのボックス席に座った。
「大ちゃんと電車に乗るのはいつぶりかしらね」
「二人で福井までソースカツ丼食べに行った時以来じゃないかな。その時の店員さんの顔と言ったら」
「大ちゃん」
蕪木にとっては恥ずかしい思い出だったのだろう、慌てて部長の口を手で塞ぐ。その様子をニヤニヤと眺める万次郎に対し、自分は肘をつき呆れていた。
大方その店員は口元にソースをつける蕪木の姿を見て惚けていたのだろう。正直、そこまで恥ずかしがる内容でもないと思うが、蕪木には恥ずかしい思い出だったのだろう。
ともかく蕪木と部長は自分と万次郎が目の前にいるというのに、二人には視界の隅にすら映っていないのか、二人の世界に入ってしまっている。
自分は頭を掻いてわざとらしく息を吐き、万次郎は自分を宥めるようにわざとらしく笑っている。
「まあまあ、梅。相当楽しみだったみたいだからさ。蕪木さんが取られて面白くないかもしれないけど」
「誰もそんな気分になってねえよ」
ことあるごとに自分に蕪木を独占させたがる万次郎に、自分は腕を組み抗議をする。
「しかし、決めたその日が吉日なんて言うけどさ、蕪木さんの行動力には驚かされるよね。多少強引なところはあるけど」
「多少ではないだろ」
少なくとも前回の時といい、自分の都合は一切聞かずに集められたのだが。
「まあ、蕪木さんの場合は強引にならざるを得ないのかもしれないけどね」
「? そうのか?」
「うん。何て言うかね、僕は梅に聞かせてもらった範囲でしか知らないけどさ、多分、蕪木さんは取り戻そうとしているんじゃないかな」
「取り戻そうとしている?」
「大領中さんとの時間だよ」
「……そういうことか」
大学に進学すれば県内に留まるかも分からない。そのことを考えれば、同じ土地に居られる高校時代というのはとても希少なものになる。ただ、その希少な時間のうち残酷にも二年以上が過ぎている。だから、残り少ないこの時間、共に過ごせなかった分を取り戻すかのように動こうと思えば、多少強引になるのも仕方のないことなのかもしれない。
こういうことに気づくところが憎たらしくも、万次郎のすごいところだと素直に感心する。まあ、たまに感づいてほしくないところまで気づいてしまうこともあるが。
「しかし、それならおれがいなくても良かったんじゃねえのか。やっぱ二人きりの方が話せることも多いだろ」
「……梅のそういうところは美徳でもあるのかもしれないけれど、厄介でもあるよね」
万次郎は分かりやすく苦笑いをしてみせると、やれやれと首を横に振って言う。
「何も蕪木さんの友だちは大領中さんだけじゃないだろ?」
「? まあ、そりゃ」
自分も蕪木と友だちである。
蕪木が部長と和解した時、間違いなく蕪木は自分のことを友だちと言った。そして、前回も友だちだから蕪木に呼び出された。
だけど、今それは関係があるのか?
「あんまり答えを言ってやるのも面白くないしね。いっぱい悩んだらいいよ、梅は」
「そういうところが可愛くねえよな、万次郎は」
「知っているよ」
自分の悪態もまるで誉め言葉のように笑って受け止める万次郎。それを見て自分は拗ねて見せるのだけれど、万次郎の笑みは増すばかり。
その笑みが気になったのか、部長は蕪木との会話を止め、こちらに話しかけてきた。
「何二人で盛り上がっているの?」
「あはは。梅が鈍感だねという話をしていただけさ」
「そうなの。つまらなそうな話題で盛り上がれるのね」
「悪かったな、つまらなくて」
自分がじとー。と冷たい目線で応えると、蕪木は鼻を鳴らして腕を組む。そんな自分たちを見て部長と万次郎は視線を合わせて笑い合う。
その光景をはたから見れば初めて集まった四人だとは思えないだろうし、自分たちずっと前からの友だちのように自然体に居られた。それくらい、自分たちの中には心地の良い空気が流れているのだった。
「金沢?」
予想もしていなかった土地名が部長の口から飛び出し、自分は首を傾げた。
北陸でも指折りの観光地、金沢。前田の殿様の時代に花開いた城下町であり、小京都とも呼ばれるその街には歴史と風情を感じさせる武家屋敷や兼六園。近未来と独創性を感じさせる二十一世紀美術館など、見どころのある場所は多い。
しかし、今の時間は午後の四時半。小松から金沢に着くまで約三十分掛かるとして、二、三時間で見て回るとなると、行ける場所はかなり限られてくるのだが。
「良いじゃん。丁度駅に集まっているわけだしさ。ね、わたちゃん」
「そうね。何より、わたしはそこの物分かりの悪い人間と違って付いていくだけだから」
「悪うございましたな、物分かりが悪くて」
普通に返事をするだけで良いのに、いちいち自分をけなさないといけないのかお前は。
なんて心の中で思ったけれど、いちいち口に出していたら話も進まないので自分たちは部長の進言に従って金沢にいくことにした。
小松の駅から目的地の金沢までは普通電車で約三十分。特急を使えばもっと早く辿り着くけれど、高校生の財布に特急料金は中々に厳しい。そのため、普通電車で三十分かけ金沢へ向かう。
列車の座席は二席一組。それが左右に列となって並んでいる。自分たちは丁度空いていた四人掛けのボックス席に座った。
「大ちゃんと電車に乗るのはいつぶりかしらね」
「二人で福井までソースカツ丼食べに行った時以来じゃないかな。その時の店員さんの顔と言ったら」
「大ちゃん」
蕪木にとっては恥ずかしい思い出だったのだろう、慌てて部長の口を手で塞ぐ。その様子をニヤニヤと眺める万次郎に対し、自分は肘をつき呆れていた。
大方その店員は口元にソースをつける蕪木の姿を見て惚けていたのだろう。正直、そこまで恥ずかしがる内容でもないと思うが、蕪木には恥ずかしい思い出だったのだろう。
ともかく蕪木と部長は自分と万次郎が目の前にいるというのに、二人には視界の隅にすら映っていないのか、二人の世界に入ってしまっている。
自分は頭を掻いてわざとらしく息を吐き、万次郎は自分を宥めるようにわざとらしく笑っている。
「まあまあ、梅。相当楽しみだったみたいだからさ。蕪木さんが取られて面白くないかもしれないけど」
「誰もそんな気分になってねえよ」
ことあるごとに自分に蕪木を独占させたがる万次郎に、自分は腕を組み抗議をする。
「しかし、決めたその日が吉日なんて言うけどさ、蕪木さんの行動力には驚かされるよね。多少強引なところはあるけど」
「多少ではないだろ」
少なくとも前回の時といい、自分の都合は一切聞かずに集められたのだが。
「まあ、蕪木さんの場合は強引にならざるを得ないのかもしれないけどね」
「? そうのか?」
「うん。何て言うかね、僕は梅に聞かせてもらった範囲でしか知らないけどさ、多分、蕪木さんは取り戻そうとしているんじゃないかな」
「取り戻そうとしている?」
「大領中さんとの時間だよ」
「……そういうことか」
大学に進学すれば県内に留まるかも分からない。そのことを考えれば、同じ土地に居られる高校時代というのはとても希少なものになる。ただ、その希少な時間のうち残酷にも二年以上が過ぎている。だから、残り少ないこの時間、共に過ごせなかった分を取り戻すかのように動こうと思えば、多少強引になるのも仕方のないことなのかもしれない。
こういうことに気づくところが憎たらしくも、万次郎のすごいところだと素直に感心する。まあ、たまに感づいてほしくないところまで気づいてしまうこともあるが。
「しかし、それならおれがいなくても良かったんじゃねえのか。やっぱ二人きりの方が話せることも多いだろ」
「……梅のそういうところは美徳でもあるのかもしれないけれど、厄介でもあるよね」
万次郎は分かりやすく苦笑いをしてみせると、やれやれと首を横に振って言う。
「何も蕪木さんの友だちは大領中さんだけじゃないだろ?」
「? まあ、そりゃ」
自分も蕪木と友だちである。
蕪木が部長と和解した時、間違いなく蕪木は自分のことを友だちと言った。そして、前回も友だちだから蕪木に呼び出された。
だけど、今それは関係があるのか?
「あんまり答えを言ってやるのも面白くないしね。いっぱい悩んだらいいよ、梅は」
「そういうところが可愛くねえよな、万次郎は」
「知っているよ」
自分の悪態もまるで誉め言葉のように笑って受け止める万次郎。それを見て自分は拗ねて見せるのだけれど、万次郎の笑みは増すばかり。
その笑みが気になったのか、部長は蕪木との会話を止め、こちらに話しかけてきた。
「何二人で盛り上がっているの?」
「あはは。梅が鈍感だねという話をしていただけさ」
「そうなの。つまらなそうな話題で盛り上がれるのね」
「悪かったな、つまらなくて」
自分がじとー。と冷たい目線で応えると、蕪木は鼻を鳴らして腕を組む。そんな自分たちを見て部長と万次郎は視線を合わせて笑い合う。
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