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エピソード・3 injury
3-15 居てくれるだけで
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「それで、一人でこんなとこいるところ見ると、恋人にでも振られたのかな?」
「残念。恋人はそもそもいないよ。って、前も話しただろ」
「あはは。そうだったね」
部長は自分の真面目な反応を面白がっていたずらっ子のような笑顔を見せる。
「でも、見る目がない人が多いんだね」
「そう言ってくれると助かる」
「まあ、多いだけであって全員じゃないと思うけど」
「…………」
部長の何気ない言葉に、自分は黙ってしまう。嘘とも真ともとれる発言は、今の自分では判断がつけられないからだ。
「わたちゃんがね、梅ちゃんのこといっぱい話してくれたよ。しょっちゅう図書室でけんかしているってことも」
弱っていることを察したのであろう部長は、自分が話しやすい内容だと思ったのか、再び蕪木の話題を出した。
「あれは、けんかっていうより、一方的にいじられているだけだと思うぞ」
「あはは。でも、それを付き合ってくれるからわたちゃんは嬉しんだと思うよ」
目線を伏せ真っ直ぐな声で言う部長。その言葉にはどうやら嘘は無いようで、自分は緩みそうになる頬をひきしめるためにコーヒーを口にした。
「まあ、一応友だちだしな」
「なんで一応をつけるんだよー」
「この前(仮)が外れたばかりなんだ」
「あらー、それじゃあ仕方ないね」
本当に納得したのか部長は腕を組んでうんうん。と何度も頷いている。なんだかその姿がかわいらしく思えて、少しコーヒーの苦みが弱くなったように思えた。
「それに、ちゃんと話をする前から気になっていたようだよ、梅ちゃんのこと」
「え、蕪木が?」
「うん。わたし以外に学校の図書室を、ちゃんと図書室として利用している奇特な学生だって」
「あいつの中でのおれの評価って、そんなんなのな」
別に期待はしてなかったけれど、真面目な学生くらいには思ってほしかった。
「それに、ずっとわたちゃんと一緒に居てくれたから」
「ん?」
「わたちゃんはね、あんまり素直になれない性格だから、下心なく接してくれる人とでもさ、摩擦を少なく接することができないんだよね」
「そういう性格だもんな」
あと、容姿も。
あの容姿を持って生まれたからには、下心なしに寄ってくる人間なんて砂丘の中の一粒の砂を探すくらいに難しいのかもしれない。だから、蕪木なりに摩擦を少なく接しようとしていたら、本音を伝えられなくなってしまったんだろうって、ようやくこの悪い頭で分かってきた。
「だからね、嬉しかったんだよ、わたちゃんは。何の下心もなくずっと一緒に居てくれたことに」
「…………」
何の下心もない。は嘘だ。自分だって甘い花の香りに誘われたミツバチのように、その花も恥じらう容姿に惹かれたおろかな一人にすぎないのだから。
ただ、自分の場合は少しだけひねくれていたから、近くで眺めているだけに留まっていたのだ。
「まともに話したことも、殆どないっていうのにか?」
「うん。まともに話したことがなくたって良いんだよ。そこに居てくれたことが大事なの。梅ちゃんだったら分かるんじゃない?」
と部長は言うと、まるでしてやったり。と言わんばかりに得意げに笑い、その顔を見た自分は苦笑いを浮かべる。
残念ながら部長が思っている以上に、自分は物分かりが悪い。部長の言った言葉の半分も理解をできていない。だけれど、今この状況を言うんじゃないかってことは分かる。
ただ、この時間が終わってしまうような気がして自分は何も言わずじまいだった。
「残念。恋人はそもそもいないよ。って、前も話しただろ」
「あはは。そうだったね」
部長は自分の真面目な反応を面白がっていたずらっ子のような笑顔を見せる。
「でも、見る目がない人が多いんだね」
「そう言ってくれると助かる」
「まあ、多いだけであって全員じゃないと思うけど」
「…………」
部長の何気ない言葉に、自分は黙ってしまう。嘘とも真ともとれる発言は、今の自分では判断がつけられないからだ。
「わたちゃんがね、梅ちゃんのこといっぱい話してくれたよ。しょっちゅう図書室でけんかしているってことも」
弱っていることを察したのであろう部長は、自分が話しやすい内容だと思ったのか、再び蕪木の話題を出した。
「あれは、けんかっていうより、一方的にいじられているだけだと思うぞ」
「あはは。でも、それを付き合ってくれるからわたちゃんは嬉しんだと思うよ」
目線を伏せ真っ直ぐな声で言う部長。その言葉にはどうやら嘘は無いようで、自分は緩みそうになる頬をひきしめるためにコーヒーを口にした。
「まあ、一応友だちだしな」
「なんで一応をつけるんだよー」
「この前(仮)が外れたばかりなんだ」
「あらー、それじゃあ仕方ないね」
本当に納得したのか部長は腕を組んでうんうん。と何度も頷いている。なんだかその姿がかわいらしく思えて、少しコーヒーの苦みが弱くなったように思えた。
「それに、ちゃんと話をする前から気になっていたようだよ、梅ちゃんのこと」
「え、蕪木が?」
「うん。わたし以外に学校の図書室を、ちゃんと図書室として利用している奇特な学生だって」
「あいつの中でのおれの評価って、そんなんなのな」
別に期待はしてなかったけれど、真面目な学生くらいには思ってほしかった。
「それに、ずっとわたちゃんと一緒に居てくれたから」
「ん?」
「わたちゃんはね、あんまり素直になれない性格だから、下心なく接してくれる人とでもさ、摩擦を少なく接することができないんだよね」
「そういう性格だもんな」
あと、容姿も。
あの容姿を持って生まれたからには、下心なしに寄ってくる人間なんて砂丘の中の一粒の砂を探すくらいに難しいのかもしれない。だから、蕪木なりに摩擦を少なく接しようとしていたら、本音を伝えられなくなってしまったんだろうって、ようやくこの悪い頭で分かってきた。
「だからね、嬉しかったんだよ、わたちゃんは。何の下心もなくずっと一緒に居てくれたことに」
「…………」
何の下心もない。は嘘だ。自分だって甘い花の香りに誘われたミツバチのように、その花も恥じらう容姿に惹かれたおろかな一人にすぎないのだから。
ただ、自分の場合は少しだけひねくれていたから、近くで眺めているだけに留まっていたのだ。
「まともに話したことも、殆どないっていうのにか?」
「うん。まともに話したことがなくたって良いんだよ。そこに居てくれたことが大事なの。梅ちゃんだったら分かるんじゃない?」
と部長は言うと、まるでしてやったり。と言わんばかりに得意げに笑い、その顔を見た自分は苦笑いを浮かべる。
残念ながら部長が思っている以上に、自分は物分かりが悪い。部長の言った言葉の半分も理解をできていない。だけれど、今この状況を言うんじゃないかってことは分かる。
ただ、この時間が終わってしまうような気がして自分は何も言わずじまいだった。
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