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エピソード・3 injury

3-16 部長の恩返し

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 素直に気持ちを口にしない自分が癪に障ったのか部長は幽かに頬を膨らませた後、荷台から飛び降りるように立ち上がりこちらに背を向ける。自分は転ばないように何とかバランスを取った後部長を見た。

「ま、ともかくさ、椿としたら大切な友だちであるわたちゃんをさ、守り続けてくれた梅ちゃんに恩返しがしたいわけさ」
「きれいな反物たんものも、豪華な食材や米俵こめだわらも要らないぞ」
「椿は人だから、ちょっと難しいかな」
「想像力、足りないんじゃないのか?」
「想像して無理だったから言ったの」

 本当に駄目だったのだろう、眉毛をくの字に曲げ応える部長に、自分は思わず笑みをこぼす。

「それで、具体的に何をしてくれるとか聞いて良いの?」
「んー。抱き締めるくらいだったらわたちゃんに黙っといてあげる」

 と言って本当に受け入れるつもりなのか、部長は両腕を開き自分を受け止める仕草をした。
 自分はそのあまりにも魅力的な仕草に誘われてしまおうかと思ったけれど、蕪木の狼よりも怖い顔がちらついたため断りを入れる。

「何で黙っとく必要があるか分からないけど、それは良いや」
「あらら。振られちったか」

 部長はどこか本気で残念そうに唇を尖らせると、拗ねてしまったのかコンクリートの地面を蹴った後自分に背を向け立ち去ろうとするそぶりを見せた。
 これが釣りだということは弱っている自分でも充分に分かった。それでも、今は側に居てほしくて自分は引き留めるように言う。

「でも、ちょっとだけ、弱音を受け止めてほしいかな」
「……うん、良いよ」

 獲物が引っ掛かり機嫌が戻ったのか、部長は踵を返すとさっきよりも拳一つ分だけ自分に近くに部長は座った。
 自転車の揺れが収まるのを待ってから自分はゆっくりと放しを始めた。
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