(3章完結)今なら素直に気持ちを伝えられるのに

在原正太朗

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エピソード・3 injury

3-17 温かな君の側

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「……親が来ているんだ、家に」
「親? あ、金沢に住んでいるんだよね」
「ああ。まあ、何て言うか、顔を見に来たんだろうな」
「え、それって、だめなこと?」
「いや、全然だめなことじゃない。むしろ、親としては立派な行為じゃないのかな、離れて暮らす子どもの心配をして、会いに来てくれているから」
「でも、梅ちゃんは逃げちゃったんだ」
「そこはオブラートに包んでほしかったな」

 類は友を呼ぶのか、蕪木といい部長といい物言いがとても素直なようだ。

「色々あって、面と向かって話せないんだ」
「色々あってねー」
「気まずいんだわ、親と会うのが」
「反抗期ってやつ?」
「それもある……けど、大きな意味では違う」

 反抗しているわけではない。負い目が自分にはあるのだ。

「……梅ちゃんの親がさ、梅ちゃんに酷いことしているなら椿は会わない方が良いと思うよ。でもさ、梅ちゃんが一方的に会いたくないって思っているんだったら、それはちょっとださいかな」
「ださいか?」
「うん、ちょーかっこわるい」

 と言い切られてしまい自分の心はさらに落ち込むのだが、部長は自分を逃がさないようあえて言葉を続ける。

「椿の場合はさ、片親だからさ、一人しかいないんだもん、けんかしたって仲直りしないとさみしいじゃん? だからさ、できるだけ仲良くしてたいって思うし、気まずくなるくらいなら素直に話そうって思うけどね」
「…………」
「まあ、椿と梅ちゃんじゃあ事情が違うわけだしさ、そこんとこは梅ちゃん自身が決めなきゃいけないところなんだけど。想像してみなよ、ちゃんと親と向かい合って話している自分をさ」
「……想像できるかな」
「できるかじゃない。するの」

 と言うと部長は両手を自分の頬へ添える。
 いきなりのことに戸惑う自分は、まぬけにも口をぽかんと開けて部長を見る。部長はその姿がおかしかったの、それとも初めからそのつもりだったのか分からないけれど、少しだけ首を傾げ自分へ笑ってみせる。そして、

「梅ちゃん。想像力を高めなさい。そうしたら人生は豊かになるから」

 大領中椿の代名詞ともいえる口癖を、自分へ言った。

「…………」

 綿に水分が染み込むように、心に部長の言葉が染み込んでいく。

 自分も蕪木も、何度この言葉に助けられてきただろうか。
 そう思うと自分は素直に笑うことができて、その顔を見た部長も自分につられ更に笑った。

「ありがとう、部長。今度なんかお礼をするわ」
「いいよ。今回のはわたちゃんと仲直りさせてくれたお礼……それに椿は、部長、だから」
「?」

 後半の方が上手く聞き取れなくて自分は首を傾げたのだけれど、部長は何でもないと言うように笑って首を横に振る。

「へへへ。ただ、次はお願い叶えてもらおっかな」
「反物も豪華な食材も渡せないけどな」
「おやおや、想像力が足りてないんじゃない?」
「違うよ。ユーモアが、足りないんだ」
「ユーモアかー」

 仕方ないね。と言うように部長は笑った。

「じゃあ、帰ろっか。夏だからっていつまでも夜風にあたっていると風邪引いちゃうしね」
「そうだな。送っていくよ」
「わおー。やさしい」
「そんなんじゃないさ」

 いたずらっ子のように笑って茶化す部長に、自分は苦笑いして答える。
 今はただ、やさしさと厳しさをくれる部長の側に居たい。
 ただ、それだけだ。
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