54 / 81
エピソード・3 injury
3-17 温かな君の側
しおりを挟む
「……親が来ているんだ、家に」
「親? あ、金沢に住んでいるんだよね」
「ああ。まあ、何て言うか、顔を見に来たんだろうな」
「え、それって、だめなこと?」
「いや、全然だめなことじゃない。むしろ、親としては立派な行為じゃないのかな、離れて暮らす子どもの心配をして、会いに来てくれているから」
「でも、梅ちゃんは逃げちゃったんだ」
「そこはオブラートに包んでほしかったな」
類は友を呼ぶのか、蕪木といい部長といい物言いがとても素直なようだ。
「色々あって、面と向かって話せないんだ」
「色々あってねー」
「気まずいんだわ、親と会うのが」
「反抗期ってやつ?」
「それもある……けど、大きな意味では違う」
反抗しているわけではない。負い目が自分にはあるのだ。
「……梅ちゃんの親がさ、梅ちゃんに酷いことしているなら椿は会わない方が良いと思うよ。でもさ、梅ちゃんが一方的に会いたくないって思っているんだったら、それはちょっとださいかな」
「ださいか?」
「うん、ちょーかっこわるい」
と言い切られてしまい自分の心はさらに落ち込むのだが、部長は自分を逃がさないようあえて言葉を続ける。
「椿の場合はさ、片親だからさ、一人しかいないんだもん、けんかしたって仲直りしないとさみしいじゃん? だからさ、できるだけ仲良くしてたいって思うし、気まずくなるくらいなら素直に話そうって思うけどね」
「…………」
「まあ、椿と梅ちゃんじゃあ事情が違うわけだしさ、そこんとこは梅ちゃん自身が決めなきゃいけないところなんだけど。想像してみなよ、ちゃんと親と向かい合って話している自分をさ」
「……想像できるかな」
「できるかじゃない。するの」
と言うと部長は両手を自分の頬へ添える。
いきなりのことに戸惑う自分は、まぬけにも口をぽかんと開けて部長を見る。部長はその姿がおかしかったの、それとも初めからそのつもりだったのか分からないけれど、少しだけ首を傾げ自分へ笑ってみせる。そして、
「梅ちゃん。想像力を高めなさい。そうしたら人生は豊かになるから」
大領中椿の代名詞ともいえる口癖を、自分へ言った。
「…………」
綿に水分が染み込むように、心に部長の言葉が染み込んでいく。
自分も蕪木も、何度この言葉に助けられてきただろうか。
そう思うと自分は素直に笑うことができて、その顔を見た部長も自分につられ更に笑った。
「ありがとう、部長。今度なんかお礼をするわ」
「いいよ。今回のはわたちゃんと仲直りさせてくれたお礼……それに椿は、部長、だから」
「?」
後半の方が上手く聞き取れなくて自分は首を傾げたのだけれど、部長は何でもないと言うように笑って首を横に振る。
「へへへ。ただ、次はお願い叶えてもらおっかな」
「反物も豪華な食材も渡せないけどな」
「おやおや、想像力が足りてないんじゃない?」
「違うよ。ユーモアが、足りないんだ」
「ユーモアかー」
仕方ないね。と言うように部長は笑った。
「じゃあ、帰ろっか。夏だからっていつまでも夜風にあたっていると風邪引いちゃうしね」
「そうだな。送っていくよ」
「わおー。やさしい」
「そんなんじゃないさ」
いたずらっ子のように笑って茶化す部長に、自分は苦笑いして答える。
今はただ、やさしさと厳しさをくれる部長の側に居たい。
ただ、それだけだ。
「親? あ、金沢に住んでいるんだよね」
「ああ。まあ、何て言うか、顔を見に来たんだろうな」
「え、それって、だめなこと?」
「いや、全然だめなことじゃない。むしろ、親としては立派な行為じゃないのかな、離れて暮らす子どもの心配をして、会いに来てくれているから」
「でも、梅ちゃんは逃げちゃったんだ」
「そこはオブラートに包んでほしかったな」
類は友を呼ぶのか、蕪木といい部長といい物言いがとても素直なようだ。
「色々あって、面と向かって話せないんだ」
「色々あってねー」
「気まずいんだわ、親と会うのが」
「反抗期ってやつ?」
「それもある……けど、大きな意味では違う」
反抗しているわけではない。負い目が自分にはあるのだ。
「……梅ちゃんの親がさ、梅ちゃんに酷いことしているなら椿は会わない方が良いと思うよ。でもさ、梅ちゃんが一方的に会いたくないって思っているんだったら、それはちょっとださいかな」
「ださいか?」
「うん、ちょーかっこわるい」
と言い切られてしまい自分の心はさらに落ち込むのだが、部長は自分を逃がさないようあえて言葉を続ける。
「椿の場合はさ、片親だからさ、一人しかいないんだもん、けんかしたって仲直りしないとさみしいじゃん? だからさ、できるだけ仲良くしてたいって思うし、気まずくなるくらいなら素直に話そうって思うけどね」
「…………」
「まあ、椿と梅ちゃんじゃあ事情が違うわけだしさ、そこんとこは梅ちゃん自身が決めなきゃいけないところなんだけど。想像してみなよ、ちゃんと親と向かい合って話している自分をさ」
「……想像できるかな」
「できるかじゃない。するの」
と言うと部長は両手を自分の頬へ添える。
いきなりのことに戸惑う自分は、まぬけにも口をぽかんと開けて部長を見る。部長はその姿がおかしかったの、それとも初めからそのつもりだったのか分からないけれど、少しだけ首を傾げ自分へ笑ってみせる。そして、
「梅ちゃん。想像力を高めなさい。そうしたら人生は豊かになるから」
大領中椿の代名詞ともいえる口癖を、自分へ言った。
「…………」
綿に水分が染み込むように、心に部長の言葉が染み込んでいく。
自分も蕪木も、何度この言葉に助けられてきただろうか。
そう思うと自分は素直に笑うことができて、その顔を見た部長も自分につられ更に笑った。
「ありがとう、部長。今度なんかお礼をするわ」
「いいよ。今回のはわたちゃんと仲直りさせてくれたお礼……それに椿は、部長、だから」
「?」
後半の方が上手く聞き取れなくて自分は首を傾げたのだけれど、部長は何でもないと言うように笑って首を横に振る。
「へへへ。ただ、次はお願い叶えてもらおっかな」
「反物も豪華な食材も渡せないけどな」
「おやおや、想像力が足りてないんじゃない?」
「違うよ。ユーモアが、足りないんだ」
「ユーモアかー」
仕方ないね。と言うように部長は笑った。
「じゃあ、帰ろっか。夏だからっていつまでも夜風にあたっていると風邪引いちゃうしね」
「そうだな。送っていくよ」
「わおー。やさしい」
「そんなんじゃないさ」
いたずらっ子のように笑って茶化す部長に、自分は苦笑いして答える。
今はただ、やさしさと厳しさをくれる部長の側に居たい。
ただ、それだけだ。
0
あなたにおすすめの小説
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる