(3章完結)今なら素直に気持ちを伝えられるのに

在原正太朗

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エピソード・3 injury

3-18 不意

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 翌日、放課後を迎えた自分はいの一番に図書室へ向かうと、いつも蕪木が座っている窓際の席の左隣に座り、ここでは初めてかもしれないシャープペンシルを手に取った。
 目の前の机の上に置かれているのは、真っ白な紙。そう、神紙だ。
 もし神紙へ想いを綴る日が来るのだとしたら、この場所しかないと思っていたため、今こうして目の前に神紙を広げているというわけだ。

 幸いと言うべきか、蕪木の姿はまだない。
 蕪木に見られないうちに書き上げてしまおう。と自分は字を書く手を加速させる。
 ただ、こういう時に限って神様は悪戯を仕掛けるのだろうか。

「珍しいこともあるものね」

 蕪木が自分の後ろに立ち右肩の方から、自分の手元を覗き込むようにしながら声を掛けてきたのだ。

「なっ!?」

 反射的に自分は左側へと体を逸らした。と同時に心臓の鼓動は車のキーが回されたかのように高まり、顔が沸騰したやかんのように熱くなる。

 あのギリシャ彫刻にも負けない蕪木の顔が、お互いの吐息が肌に触れあうほどの距離にあったこと。そして、今書いているものを蕪木に見られてしまったこと。その両方が自分の心臓に限りない負担を強いる。
 自分は慌てて神紙を左隣の椅子に置いていたリュックに突っ込むと、一度息を吐いてから蕪木に抗議の言葉をかけた。

「お、驚かせるなよ、蕪木!」
「驚かせていないわ。あなたが勝手に驚いただけよ」
「いやいや、普通誰に声を掛けられたって、あの距離じゃ驚くわ」
「そう。善処するわ」

 まるで善処するつもりはないのだろう、蕪木の声は限りなく平坦だった。いや、むしろ自分の反応に対して不満を持っているのか、どこか脅迫された時のようなピリピリとした空気を纏っている。

「しかし、あなたが勉強とは殊勝な心掛けね」
「別に、勉強していたわけじゃねえよ。というかお前こそ、もうテストは終わったっていうのにまた勉強か?」
「そうよ」
「よくやるな」
「そうね。まあ、わたしの場合テスト以外にも目的があるもの」

 そう言うと蕪木は何の前置きもなく自分の右隣に座る。
 自分はその目的が何か気になったけれど、どうせ質問したところでまともな答えは期待できないので黙っておく。

 それよりも驚きなのは、蕪木の方から自分へ話しかけに来たこと。
 先日のようなわざわざ教室まで自分を呼びに来た時などの例外を除けば、蕪木から話しかけることは少ない。何よりこの図書室においては、自らの勉強をよほど邪魔されたくないのだろう、九割九分自分から話しかけない限りしゃべってくれないのである。
 その蕪木が、だ、わざわざ自分へ話しかけたということは、よほどの要件があるのだろう。ピリピリとした空気が今も変わっていないのが、何よりの証拠だった。
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