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エピソード・3 injury
3-19 蕪木さん、むかむかする
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「今日はあなたに聞いておきたいことがあったの」
「嫌な予感がするから帰っても良いか?」
「あら、わたしに対して後ろめたいことでもあるのかしら?」
「お前にここで質問されることに良い思い出がないだけだよ」
そう言って自分は椅子を引いて警戒のため体を蕪木の方へと向けた。
一応初めてまともに? 蕪木と会話をしたあの日。自分は蕪木から脅迫まがいのことをされたこと、今も鮮明に記憶されている。
今となっては蕪木の性格を熟知しているので、ああする他なかったのだろうと納得はしているけれど、嫌な汗をかくほどの経験だったのは間違いないのだから、警戒したって当然だろう。
「そんな身構えなくても良いわよ。もう、カッターを持ち出したりしないから」
「なるほどな。ちなみに黙秘権はありますか?」
「そうね。自分の胸に手を当てて、日頃の行いが良いと思うのなら行使すれば良いわ」
「わーい。手を当てるまでもないわ」
黙秘権がないこと理解した自分は、両手を上げて蕪木に示して見せる。しかし、蕪木の機嫌は斜めを向いたままのようで、無抵抗を示してもこちらを見る視線は痛い。
いったい自分は何をしてしまったんだ。と少ない想像力をフルに働かせる。
働かせた結果出てきた答えは、昨晩部長と話したこと。
数少ない親友を取られたとあっては不機嫌になるのも納得はいくが、二年前から一緒にオカルト研究部をやってきたわけで、今更目くじら立てるようなことでもないと思う。
それに蕪木の耳に入るには流石に早い気が。
「大ちゃんと何やら親しげに話していたそうじゃない」
「……なんでお前の耳に入るまで、こんなに早いのかな」
自分は胸に手を当てず額に手を添えた。
大方部長がしゃべったのだろう。
自分への心配が故か、それとも親友が故の礼儀なのか分からないが、ちょっとタイミングが悪いぜ、部長。
「別に同じオカルト研究部に所属している大ちゃんとあなたが親しく話そうとも、わたしには関係のないことなのだけれど、なぜかむかむかするわ」
「むかむかするのか」
「ええ。胸がむかむかして、あなたの顔をひっぱたきたいわ」
「それは断らせてもらうわ」
自らの右掌を眺めて言う蕪木に対して、自分は首をぶんぶんと横に振って断りを入れる。
蕪木さんにひっぱたかれるなんてたまったものじゃないし、自分をひっぱたいたことでその百合の葉のようなきれいな手が赤くなるのは嫌だ。
「やっぱ、部長を独り占めすんのはまずいか」
「そうね。それもあるわ」
それも?
ということは、他にもあるのか。
「何よりむかむかするのは、わたしじゃなくて大ちゃんに甘えているということ」
「え?」
「ジョンになら多分、仕方ないで済むのでしょうけど、大ちゃんってなるとどうしてもむかむかするのよ」
と予想外の発言をした蕪木さん。
単に部長が取られるのを嫌っているのかと思っていたのだけれど、万次郎が引き合いに出てくるということは自分のことを指して言っているのだろう。
それを理解すると余計に困惑してしまうのだが、どうやら困惑しているのは蕪木も同じようで、珍しく右手で自身の額を抑えている。
「それでおれをひっぱたいてやりたいと?」
「本多。あなた結構根に持つタイプよね」
「性根が曲がってしまっているもので」
それもかなりぐにゃぐにゃしているときた。
「……はあ。本多、別に本気であなたをひっぱたきたいと思っていないわよ」
「そうなのか?」
「ええ」
自分の問いにしっかりと頷いて応える蕪木。
それならあんなこと言わないでおけばいいのに。
「残念ながらわたしはオブラートに包んで遠回しに話そうとしたら、気持ちとは反対の言葉を言ってしまうの」
「なんとも厄介な病気だな」
「ええ。物心ついた時から苦労しているわ」
本当に苦労しているのかため息を吐く蕪木。
人のことを言えない自分は苦笑いするしかないのだが、今は蕪木の話を聞くことが何よりも優先すべきことだった。
「嫌な予感がするから帰っても良いか?」
「あら、わたしに対して後ろめたいことでもあるのかしら?」
「お前にここで質問されることに良い思い出がないだけだよ」
そう言って自分は椅子を引いて警戒のため体を蕪木の方へと向けた。
一応初めてまともに? 蕪木と会話をしたあの日。自分は蕪木から脅迫まがいのことをされたこと、今も鮮明に記憶されている。
今となっては蕪木の性格を熟知しているので、ああする他なかったのだろうと納得はしているけれど、嫌な汗をかくほどの経験だったのは間違いないのだから、警戒したって当然だろう。
「そんな身構えなくても良いわよ。もう、カッターを持ち出したりしないから」
「なるほどな。ちなみに黙秘権はありますか?」
「そうね。自分の胸に手を当てて、日頃の行いが良いと思うのなら行使すれば良いわ」
「わーい。手を当てるまでもないわ」
黙秘権がないこと理解した自分は、両手を上げて蕪木に示して見せる。しかし、蕪木の機嫌は斜めを向いたままのようで、無抵抗を示してもこちらを見る視線は痛い。
いったい自分は何をしてしまったんだ。と少ない想像力をフルに働かせる。
働かせた結果出てきた答えは、昨晩部長と話したこと。
数少ない親友を取られたとあっては不機嫌になるのも納得はいくが、二年前から一緒にオカルト研究部をやってきたわけで、今更目くじら立てるようなことでもないと思う。
それに蕪木の耳に入るには流石に早い気が。
「大ちゃんと何やら親しげに話していたそうじゃない」
「……なんでお前の耳に入るまで、こんなに早いのかな」
自分は胸に手を当てず額に手を添えた。
大方部長がしゃべったのだろう。
自分への心配が故か、それとも親友が故の礼儀なのか分からないが、ちょっとタイミングが悪いぜ、部長。
「別に同じオカルト研究部に所属している大ちゃんとあなたが親しく話そうとも、わたしには関係のないことなのだけれど、なぜかむかむかするわ」
「むかむかするのか」
「ええ。胸がむかむかして、あなたの顔をひっぱたきたいわ」
「それは断らせてもらうわ」
自らの右掌を眺めて言う蕪木に対して、自分は首をぶんぶんと横に振って断りを入れる。
蕪木さんにひっぱたかれるなんてたまったものじゃないし、自分をひっぱたいたことでその百合の葉のようなきれいな手が赤くなるのは嫌だ。
「やっぱ、部長を独り占めすんのはまずいか」
「そうね。それもあるわ」
それも?
ということは、他にもあるのか。
「何よりむかむかするのは、わたしじゃなくて大ちゃんに甘えているということ」
「え?」
「ジョンになら多分、仕方ないで済むのでしょうけど、大ちゃんってなるとどうしてもむかむかするのよ」
と予想外の発言をした蕪木さん。
単に部長が取られるのを嫌っているのかと思っていたのだけれど、万次郎が引き合いに出てくるということは自分のことを指して言っているのだろう。
それを理解すると余計に困惑してしまうのだが、どうやら困惑しているのは蕪木も同じようで、珍しく右手で自身の額を抑えている。
「それでおれをひっぱたいてやりたいと?」
「本多。あなた結構根に持つタイプよね」
「性根が曲がってしまっているもので」
それもかなりぐにゃぐにゃしているときた。
「……はあ。本多、別に本気であなたをひっぱたきたいと思っていないわよ」
「そうなのか?」
「ええ」
自分の問いにしっかりと頷いて応える蕪木。
それならあんなこと言わないでおけばいいのに。
「残念ながらわたしはオブラートに包んで遠回しに話そうとしたら、気持ちとは反対の言葉を言ってしまうの」
「なんとも厄介な病気だな」
「ええ。物心ついた時から苦労しているわ」
本当に苦労しているのかため息を吐く蕪木。
人のことを言えない自分は苦笑いするしかないのだが、今は蕪木の話を聞くことが何よりも優先すべきことだった。
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