(3章完結)今なら素直に気持ちを伝えられるのに

在原正太朗

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エピソード・3 injury

3-27 邂逅

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 誰ぞ彼。夕闇に包まれ相対する君の顔が分からない時間、黄昏時。世界も自分も全てが不安定で、会うべき人が見つからない時間。そんな時間に自分はずっと居続けていた。
 随分長い時間そこに留まっていたと思う。正直、ずっとこのままだとすら思ったこともあった。だけど、できたばかりの大切な友だちがその時間から自分を連れ出してくれて、今自分は居るべき場所に、会うべき人のところへと来ている。
 その場所の名は、金沢。数日前来たばかりの土地なのだけれど、一人で来た今日、まったく違う土地に映る。

 東茶屋街に向かったときとは反対の東口から出ると、自分はバスに乗る。後ろから二番目の席に座ると、車窓にもたれかかり外を見ながら言うべきことを頭の中で何度も反芻した。
 ニ十分ほどバスに揺られてようやく目的の場所に着くと、目と鼻の先にある灰色の外壁のマンションに入る。階段を上り二階の角部屋まで行くと、インターフォンへ指を添える。

 ここは、自分のかあさんの家。

「…………」

 自分が住んでこそいないもののかぞくの家であるはずなのに、まるで初めて訪れる他人の家のような緊張感が心を包む。

 正直、今すぐ小松にとって返したい気持ちが溢れている。だけど、自分の背中を押してくれた大切な友だちのためにも、自分はいかなければならない。

 指先の震えを抑えられないまま、インターフォンを押した。静寂に包まれた夜の森の中に響くフクロウの鳴き声のように、インターフォンのベルの音が家の中に響く。
 インターフォン押してから約三十秒、ドアの向こうからこちらに向かってくる足音が聞こえた。どんどん大きくなる足音に自分は背を向けたくなったけれど、大切な友だちが押してくれた背中は簡単に振り向いたりしない。

「……梅」

 扉が開いた。出てきたのはもちろん、自分のかあさん。
 そのかあさんにとってはまさかの来訪者だったのだろう、目を皿のように開け驚きを隠さない。玄関を開けた先に立っている子どもへの反応ではないだろうけれど、連絡の一つもせずに来たのだから、この反応は仕方のないことだ。

「……上がって、良いかな?」
「……もちろん」

 気まずさを隠せない自分とかあさんは、家に上がってから何分も黙っていた。黙ったままかあさんの背中について行った自分は、キッチン前の食卓テーブルまで案内される。
 冷蔵庫の前で立ち止まったかあさんはようやくこちらを振り向くと、重く閉じた口を開いた。

「連絡くらい、寄越してよね。何も準備できなかったし」
「……ごめん」
「……ごはん、食べた? まだなら昨日の残り物だけど、レンジでチンしたらすぐ出せるから」
「……食べるよ」
「そう。じゃあ椅子に座っていて」

 と言ってかあさんが冷蔵庫の扉に手を掛けた瞬間、自分はかあさんを呼び止める。

「あの」
「? なに」
「二人分、用意してくれるかな。おれの分と……あんたの分」
「……分かったわ。じゃあ、運ぶの手伝って」
「あ、ああ」

 急にかあさんの声色が和らいだため自分は戸惑ったけれど、かあさんの指示に従い総菜を電子レンジに運ぶ。
 レンジで温めている間、かあさんはネギと豆腐の味噌汁を作っていた。自分は総菜を食卓に、かあさんはご飯と味噌汁をそれぞれ食卓に運ぶ。

 自分たちは向かい合って座ると、静かに手を合わせて食べ始めた。
 麹味噌で作られたかあさんの味噌汁。心の底を温められるそんな味が、何よりもおいしく感じられた。

「……美味しいよ」
「そう。味覚変わっていないのね」
「ばっちゃんの味と一緒なんだ。だから、美味しいんだと思う」
「そう。やっぱり、血の繋がったかぞくなのね」
「……そうだな」

 改めて言われたことのくすぐったさとあの日の負い目が合わさって、自分はどんな表情をしたら良いか分からなくなる。それを察したのか、かあさんはやさしく微笑むと箸を置き学校のことについて尋ねてくる。

「勉強、ついていけてる? 工業科目とか、難しいんじゃないの?」
「難しいよ。やっぱり興味がない分野はきついわ」

 そう答えると自分は箸を置いた。箸を持ったままでは話せないと思ったからだ。

「そう。じゃあ、友だちや……大切に想う人なんかはできたの?」
「……後者はよく分かんないけど、大切な友だちは増えたよ」
「聞いても?」
「……ああ」

 自分は小さく頷くと、机の影で両手の指を絡ませる。両手の平には汗がにじんでいた。

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