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エピソード・3 injury
3-26 背中を押してくれる君
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……なあ、蕪木。本当に格好いいよな、お前は。格好良すぎるんだよな。
だから、なのかな。約二年間まともに言葉を交わしたことが殆どないお前に、視線が奪われ続けていたのは。
そんなお前になら、自分はひねくれずに心の内を全て、見せられる。
「鞄の内ポケット。そこに書きかけの手紙が入っている」
「……見ても、良いのかしら」
「ああ。見てほしい」
自分がそう言うと、蕪木は小さく頷いて手を放し立ち上がった。そして、ベッドのわきに置かれていた自分のリュックのファスナーを開け、底に突っ込まれていた書きかけの神紙を取り出すと、それに目を通す。
「本多、これは」
「おれの、伝えたい気持ち」
「……苦しんだのね」
神紙を持つ蕪木の手に力が籠る。
まるで自分の心臓が掴まれているようで、胸が痛んだ。
「親子共に危ない状態だったから帝王切開するしかなかったらしくてな、お腹を切ってまで自分を産んでくれた。その傷は物心ついた時から何度も見ている」
だから、分かっているんだよ。自分が傷ついても産んでくれた親に、抱いて良い感情じゃなかったって分かっている。
「でも、間違いなくあの時のおれは思ってしまったんだ。何でこんな体に産んだんだよ。って。どうして痛みを、傷を、持ち続けなければいけないんだよって」
「本多」
「謝りたいってずっと思ってきたんだ。だけどな、どうしてかな、望んでひねくれたはずなのにさ、そのひねくれた自分がいつも伝えようとする気持ちを邪魔するんだ」
破れそうになるくらいベッドのシーツを握りしめる。
何重にも出来たシーツの皴のように、自分の心はひねくれた感情が複雑に混ざり合っていて、本当に伝えたい言葉が出てこない。
「蕪木、おれはどうしたら良いのかな?」
「……簡単よ」
と言う蕪木はまるで破こうとしているように、両手で神紙の上を摘まむように持った。
「蕪木?」
「こんな謝罪文なんて、なんの意味もないわ」
「なっ!」
自分が止める間もなく、蕪木は神紙を破いた。二度と読めなくなるくらい、ばらばらに。
そして、外れてしまわないか心配になるくらい力強くカーテンを開けると、窓際へ行き窓の外へとばらばらになった神紙をばらまく。散らばった神紙は風に乗り、夕日に焼き尽くされたかのように視界から消えていった。
「お前、なんで!?」
「必要ないからよ」
「必要ないって。あれはおれの後悔で」
「ええ、そうね。でも、勘違いしないで。わたしは謝罪(・・)文(・)なんて必要ないと言ったの」
「っ!? どういうことだよ」
心の中でかあさんを傷つける言葉を抱いたから自分は後悔をして。
「自分自身を責め続けたあなたは、あの謝罪文を伝えたら自分を許すことができるの?」
「っ。それは……」
言葉に詰まった。
答えられないということは、何よりの肯定の証だった。
「あなたが本当に伝えたいことは別にあるはずよ。今なら素直に伝えられる気持ちが」
「…………」
「ただ、ほんの少しだけ口に出す勇気が足りないだけ。だから、あの日のあなたのように、わたしがあなたの背中を押してあげるわ」
そう言うと蕪木は自分から夕日を隠すように立ち、こちらを見つめる。
そして先ほどまで繋がれていた百合の葉のような手を自分へえと差し出した。
「じゃんけんをしましょう。あなたが勝てばわたしに何でも命令して良いわ」
「だから、おれはその条件じゃ」
「何でもよ。毎朝近所に住む幼馴染のようにかいがいしく起こしに来いでも、将来結ばれることを約束しろでもなんでも命令して」
「…………」
「その代わり、わたしが勝ったならわたしの願いを一度だけ叶えて」
「……分かった」
自分はベッドから足を下ろし体ごと蕪木に向き合うと、右手を差し出す。
遅れて蕪木も右手を差し出すと、自分たちはじゃんけんをした。
結果は。
「わたしの勝ちね」
「……ああ」
蕪木の言葉に、自分は目を閉じて小さく頷く。
自分が出したのはグー。
対して蕪木が出したのは、チョキだった。
だから、なのかな。約二年間まともに言葉を交わしたことが殆どないお前に、視線が奪われ続けていたのは。
そんなお前になら、自分はひねくれずに心の内を全て、見せられる。
「鞄の内ポケット。そこに書きかけの手紙が入っている」
「……見ても、良いのかしら」
「ああ。見てほしい」
自分がそう言うと、蕪木は小さく頷いて手を放し立ち上がった。そして、ベッドのわきに置かれていた自分のリュックのファスナーを開け、底に突っ込まれていた書きかけの神紙を取り出すと、それに目を通す。
「本多、これは」
「おれの、伝えたい気持ち」
「……苦しんだのね」
神紙を持つ蕪木の手に力が籠る。
まるで自分の心臓が掴まれているようで、胸が痛んだ。
「親子共に危ない状態だったから帝王切開するしかなかったらしくてな、お腹を切ってまで自分を産んでくれた。その傷は物心ついた時から何度も見ている」
だから、分かっているんだよ。自分が傷ついても産んでくれた親に、抱いて良い感情じゃなかったって分かっている。
「でも、間違いなくあの時のおれは思ってしまったんだ。何でこんな体に産んだんだよ。って。どうして痛みを、傷を、持ち続けなければいけないんだよって」
「本多」
「謝りたいってずっと思ってきたんだ。だけどな、どうしてかな、望んでひねくれたはずなのにさ、そのひねくれた自分がいつも伝えようとする気持ちを邪魔するんだ」
破れそうになるくらいベッドのシーツを握りしめる。
何重にも出来たシーツの皴のように、自分の心はひねくれた感情が複雑に混ざり合っていて、本当に伝えたい言葉が出てこない。
「蕪木、おれはどうしたら良いのかな?」
「……簡単よ」
と言う蕪木はまるで破こうとしているように、両手で神紙の上を摘まむように持った。
「蕪木?」
「こんな謝罪文なんて、なんの意味もないわ」
「なっ!」
自分が止める間もなく、蕪木は神紙を破いた。二度と読めなくなるくらい、ばらばらに。
そして、外れてしまわないか心配になるくらい力強くカーテンを開けると、窓際へ行き窓の外へとばらばらになった神紙をばらまく。散らばった神紙は風に乗り、夕日に焼き尽くされたかのように視界から消えていった。
「お前、なんで!?」
「必要ないからよ」
「必要ないって。あれはおれの後悔で」
「ええ、そうね。でも、勘違いしないで。わたしは謝罪(・・)文(・)なんて必要ないと言ったの」
「っ!? どういうことだよ」
心の中でかあさんを傷つける言葉を抱いたから自分は後悔をして。
「自分自身を責め続けたあなたは、あの謝罪文を伝えたら自分を許すことができるの?」
「っ。それは……」
言葉に詰まった。
答えられないということは、何よりの肯定の証だった。
「あなたが本当に伝えたいことは別にあるはずよ。今なら素直に伝えられる気持ちが」
「…………」
「ただ、ほんの少しだけ口に出す勇気が足りないだけ。だから、あの日のあなたのように、わたしがあなたの背中を押してあげるわ」
そう言うと蕪木は自分から夕日を隠すように立ち、こちらを見つめる。
そして先ほどまで繋がれていた百合の葉のような手を自分へえと差し出した。
「じゃんけんをしましょう。あなたが勝てばわたしに何でも命令して良いわ」
「だから、おれはその条件じゃ」
「何でもよ。毎朝近所に住む幼馴染のようにかいがいしく起こしに来いでも、将来結ばれることを約束しろでもなんでも命令して」
「…………」
「その代わり、わたしが勝ったならわたしの願いを一度だけ叶えて」
「……分かった」
自分はベッドから足を下ろし体ごと蕪木に向き合うと、右手を差し出す。
遅れて蕪木も右手を差し出すと、自分たちはじゃんけんをした。
結果は。
「わたしの勝ちね」
「……ああ」
蕪木の言葉に、自分は目を閉じて小さく頷く。
自分が出したのはグー。
対して蕪木が出したのは、チョキだった。
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