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エピソード・3 injury
3-25 大切な存在
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「すまん、蕪木」
「何に対して謝っているのかしら?」
「いや、その……昨日、図書室で酷いこと言っただろ。あと、今日も学校終わってからきてもらって」
「学校が終わってからではないわ」
「え?」
「早退したのよ」
「ええ!?」
自身が病人であることも忘れて驚く自分に対し、蕪木はまるで罪悪感がないのかケロッとしている。
「六限の自習とホームルームだけよ。単位には支障がないわ」
「……あんまりよくはないんだろうけど、こういう時優等生って融通が利くよな」
だからと言って推奨すべきことではないのだけれど。
「冗談はともかく、謝る必要はないわ。だって、お人好しのあなたのことだから、人の後悔を背負い込んで潰れてしまうことを避けようとしたのでしょう?」
「……どうかな」
「あら、違うの?」
意外そうに首をかしげる蕪木に対し、自分は苦笑して応える。
半分正解と言うべきだろうか。
蕪木が言うように、自分の後悔を聞いたことで蕪木自身が傷ついてしまわないか。という心配もあった。
ただ、それ以上に蕪木相手にはどこか自分のかっこ悪い部分を見せたくないという想いが働いてしまって、ひねくれものが表に張り付いて離れなかったのだ。
「ともかく、あなたは謝る必要はないわ。むしろ、謝るべきというならそれはわたしの方よ」
「? 何でだよ。お前が謝ることなんて」
「聞き出したのよ、あなたのこと」
「…………」
「あなたのことだからこんな状況になっても素直に話してはくれないだろうと思って、ジョンに聞きだしたの」
「……そっか」
「怒らないの? 勝手にあなたのことを探ったりして」
「怒るわけがないだろ。蕪木が必要だって思ってやったことだろうしな。何より、話そうとしなかったのはおれの方だし」
万次郎や部長の時のようにひねくれることなく蕪木に素直に話せていたら、むやみに蕪木を傷つけることもなかっただろう。
何よりだ、自らの後悔を全て自分に打ち明けてくれた蕪木に対して、隠そうとした自分。友だちとして礼儀を欠いていたのは明らかに自分の方だ。
「……ちなみに、親と何があったのかも、聞いたか?」
「いいえ、そこまでは聞いていない……いえ、聞けなかった。が正しいのだと思う」
両手の指を絡ませた蕪木。その手が震えていたため、自分は思わずその手の上に自分の手を置きそうになって、止めた。
「土居原先生の時に分かったつもりでいたのだけれど、誰かの後悔を知るというのは自らの持つ後悔と同等かそれ以上の痛みを背負うということ」
「…………」
「背負えるつもりだったの。だけど、できなかった。わたしは過信をしていた。あなたのことを知りたいと心の底から願っていたはずなのに、知れば知るほどわたしは怖くなってしまったの」
「蕪木」
「でも、あなたが話してくれるのなら、わたしは受け止めたい」
「……友だちとして、か」
「ええ。大切な友だちとして」
「っ……」
澄み切った言葉だった。
その言葉を真っ直ぐこちらを見て言ってくれることが自分には何よりも嬉しく、苦しかった。
「なんで、お前はそこまでしてくれるんだ?」
「? 質問の意図を理解しかねるわ」
本当に意味が分かっていないのだろう、蕪木は首を傾げる。それを見た自分はベッドのシーツをぎゅっと握った。
「言葉を繰り返すようで悪いけどよ、おれたちは友だちになったばかりだぜ。確かにそれ以前は言葉を交わさずとも一緒の空間に居続けた。だけどよ、自分自身が傷ついてまでどうして力になろうとしてくれるんだ?」
「……少なくとも、あの時のわたしはあなたに同じ質問をしたいと思っていたけれどね」
「茶化さないでくれよ」
冗談に対してまともに返してしまった自分に、蕪木は怒ることはせず静かに視線を合わせた。
「そうね。わたし、オブラートに包んで言うのが世界で一番苦手にしているから、そのままの言葉で言うけれど―わたしはあなたを大切に思っているからよ」
「なっ。大切にって」
「わたしに勇気をくれたあなたを大切に思わない理由はないもの」
顔を赤くして応える自分に対し、蕪木は一切表情を変えないまま言葉を続ける。
「あなたがわたしを気持ち悪いって思おうとも、少し助けたくらいで気持ちがなびいてしまうようなやつとでも、なんとでも思ってくれて良い。だけどわたしはあなたのことを大切に思っていたいし、これからも思い続けると思うわ」
「それくらいのものをあなたはわたしにくれたもの」。と言うと、蕪木は自分に微笑みかけ再び自分の左手と自身の右手を繋ぐ。
「あなたは踏み出せなかったわたしの背中を押してくれた。空っぽで無音な時間を共に過ごしてくれた。あなたはたったそれだけだと思うかもしれないけれど、わたしにはそれが何よりも必要だった」
「……蕪木」
「だからあなたのこと、大切だと思う。大切だと思うからわたしは苦しんでいるあなたを助けたいの」
繋がれた手に熱がこもる。
自分はその熱を決して逃さないように力を込めた。
「何に対して謝っているのかしら?」
「いや、その……昨日、図書室で酷いこと言っただろ。あと、今日も学校終わってからきてもらって」
「学校が終わってからではないわ」
「え?」
「早退したのよ」
「ええ!?」
自身が病人であることも忘れて驚く自分に対し、蕪木はまるで罪悪感がないのかケロッとしている。
「六限の自習とホームルームだけよ。単位には支障がないわ」
「……あんまりよくはないんだろうけど、こういう時優等生って融通が利くよな」
だからと言って推奨すべきことではないのだけれど。
「冗談はともかく、謝る必要はないわ。だって、お人好しのあなたのことだから、人の後悔を背負い込んで潰れてしまうことを避けようとしたのでしょう?」
「……どうかな」
「あら、違うの?」
意外そうに首をかしげる蕪木に対し、自分は苦笑して応える。
半分正解と言うべきだろうか。
蕪木が言うように、自分の後悔を聞いたことで蕪木自身が傷ついてしまわないか。という心配もあった。
ただ、それ以上に蕪木相手にはどこか自分のかっこ悪い部分を見せたくないという想いが働いてしまって、ひねくれものが表に張り付いて離れなかったのだ。
「ともかく、あなたは謝る必要はないわ。むしろ、謝るべきというならそれはわたしの方よ」
「? 何でだよ。お前が謝ることなんて」
「聞き出したのよ、あなたのこと」
「…………」
「あなたのことだからこんな状況になっても素直に話してはくれないだろうと思って、ジョンに聞きだしたの」
「……そっか」
「怒らないの? 勝手にあなたのことを探ったりして」
「怒るわけがないだろ。蕪木が必要だって思ってやったことだろうしな。何より、話そうとしなかったのはおれの方だし」
万次郎や部長の時のようにひねくれることなく蕪木に素直に話せていたら、むやみに蕪木を傷つけることもなかっただろう。
何よりだ、自らの後悔を全て自分に打ち明けてくれた蕪木に対して、隠そうとした自分。友だちとして礼儀を欠いていたのは明らかに自分の方だ。
「……ちなみに、親と何があったのかも、聞いたか?」
「いいえ、そこまでは聞いていない……いえ、聞けなかった。が正しいのだと思う」
両手の指を絡ませた蕪木。その手が震えていたため、自分は思わずその手の上に自分の手を置きそうになって、止めた。
「土居原先生の時に分かったつもりでいたのだけれど、誰かの後悔を知るというのは自らの持つ後悔と同等かそれ以上の痛みを背負うということ」
「…………」
「背負えるつもりだったの。だけど、できなかった。わたしは過信をしていた。あなたのことを知りたいと心の底から願っていたはずなのに、知れば知るほどわたしは怖くなってしまったの」
「蕪木」
「でも、あなたが話してくれるのなら、わたしは受け止めたい」
「……友だちとして、か」
「ええ。大切な友だちとして」
「っ……」
澄み切った言葉だった。
その言葉を真っ直ぐこちらを見て言ってくれることが自分には何よりも嬉しく、苦しかった。
「なんで、お前はそこまでしてくれるんだ?」
「? 質問の意図を理解しかねるわ」
本当に意味が分かっていないのだろう、蕪木は首を傾げる。それを見た自分はベッドのシーツをぎゅっと握った。
「言葉を繰り返すようで悪いけどよ、おれたちは友だちになったばかりだぜ。確かにそれ以前は言葉を交わさずとも一緒の空間に居続けた。だけどよ、自分自身が傷ついてまでどうして力になろうとしてくれるんだ?」
「……少なくとも、あの時のわたしはあなたに同じ質問をしたいと思っていたけれどね」
「茶化さないでくれよ」
冗談に対してまともに返してしまった自分に、蕪木は怒ることはせず静かに視線を合わせた。
「そうね。わたし、オブラートに包んで言うのが世界で一番苦手にしているから、そのままの言葉で言うけれど―わたしはあなたを大切に思っているからよ」
「なっ。大切にって」
「わたしに勇気をくれたあなたを大切に思わない理由はないもの」
顔を赤くして応える自分に対し、蕪木は一切表情を変えないまま言葉を続ける。
「あなたがわたしを気持ち悪いって思おうとも、少し助けたくらいで気持ちがなびいてしまうようなやつとでも、なんとでも思ってくれて良い。だけどわたしはあなたのことを大切に思っていたいし、これからも思い続けると思うわ」
「それくらいのものをあなたはわたしにくれたもの」。と言うと、蕪木は自分に微笑みかけ再び自分の左手と自身の右手を繋ぐ。
「あなたは踏み出せなかったわたしの背中を押してくれた。空っぽで無音な時間を共に過ごしてくれた。あなたはたったそれだけだと思うかもしれないけれど、わたしにはそれが何よりも必要だった」
「……蕪木」
「だからあなたのこと、大切だと思う。大切だと思うからわたしは苦しんでいるあなたを助けたいの」
繋がれた手に熱がこもる。
自分はその熱を決して逃さないように力を込めた。
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