(3章完結)今なら素直に気持ちを伝えられるのに

在原正太朗

文字の大きさ
74 / 81
波打ち際の幽かな戀 ー今なら素直に気持ちを伝えられるのに外伝ー

外伝―6 君の隣

しおりを挟む
「えっと、初めまして? お名前を伺っても?」
「初めまして。私はゆりよ。あなたは?」
「僕は万次郎。同級生たちからはジョンって呼ばれているよ」
「ジョン?」
「うん。偉人のジョン万次郎から来ているんだけど」
「まあ、それなら英語で挨拶をした方が良いのかしら? えっとマイネームは」
「いやいや、日本語で話しかけてきたでしょ」
「あら、本当ね」

 艶やかな唇に指を重ねて微笑むゆりさん。

 年上なのかどうかは分からないけれど、思春期真っ盛りの僕にはどうにも刺激が強すぎたようで、頬が赤みを帯びていくのを抑えることができなかった。

 幸いにも時刻は夕暮れ。小さくとも砂浜を焼くぐらいの光が注がれているのだから、自分の頬の赤みがゆりさんに伝わることはなかった。

「それで、万次郎はどうしてここへ来たのかしら」
「あ。ジョンとは呼んでくれないんだね」
「ごめんなさい。私、横文字は苦手なの」
「そ、そうなんだ」

 名前に横文字も何も無いと思うのだけれど、ゆりさんが言うのだから仕方がないのだろう。
 僕は理解することを半ばあきらめつつも、頷いて返した。

「それで、質問の答えはどうなのかしら?」
「えっと、そうだなー。こう言うと気取っているなって思われるかもしれないけど、目の前に広がる世界から逃げたかった」
「逃げたかったの?」
「うん。すごく息が詰まる、そんな世界から」

 真っ青な言葉だったと思う。
 深海の水のように冷たく重い、痛い言葉。聞いた人によっては耳を手で塞ぎ、僕から目を背けていただろう。
 だけどゆりさんは両方ともをしなかった。
 むしろ海風にたなびく旗のような瞳を真っ直ぐに僕へと向けていた。

「あなたもこの世界からのけ者にされているのね」
「分かってくれるのかな?」
「分からないわ。私、あなたと違うから」
「何だよ、それ」
「でも、分かろうとすることはできる」

 怒りから拳を作ろうとした僕に対し、ゆりさんは手を後ろで組み微笑んで見せた。

「私には耳がある。だからあなたの声を聞ける」
「…………」
「それに私には口がある。だからあなたを励ますことができる」
「…………」
「そして、私はここに居る。だからあなたの側に居ることができるわ」

 励まし、だったのだろうか。

 まるで詠うように言葉を放つ君に、僕の心はどうしようもなく惹かれていた。

「とても詩的だね」
「そう、だった?」
「うん。とても魅力的だったかな」

 僕がそう言うと、ゆりさんは後ろで組んでいた手を自身の頬に添えた。

「そうやって褒められたら、私がナンパされているみたいだわ」

 頬が紅潮する様子はなかったけれど照れてはいるのだろうか、声が少し上ずっていた。

「一応、そう言う設定にしたんじゃなかったのかな?」
「そうだったわ。許してね、私少し忘れっぽいところがあるから」

 忘れっぽいというよりも、天然と言うべきなのだと思うのだけれど、夕日よりも魅力的な笑顔を向けられてしまっては全てが許せてしまう。

 何より。

「でも、あなたの名前はちゃんと覚えたわ、万次郎」
「っ!」

 名前を呼ばれてしまったら、もう、抵抗する余地すらないじゃないか。

「あはは」

 安っぽいなあ、僕。名前を呼ばれただけなのに。

 でも、今はそれでも良かった。

 どうしようもなく息が詰まるこの小さな世界の中で、君の隣に居られる時。
 その時だけ僕は素直に息をすることができる。そんな気がしたからだ。 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

処理中です...