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波打ち際の幽かな戀 ー今なら素直に気持ちを伝えられるのに外伝ー
外伝―6 君の隣
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「えっと、初めまして? お名前を伺っても?」
「初めまして。私はゆりよ。あなたは?」
「僕は万次郎。同級生たちからはジョンって呼ばれているよ」
「ジョン?」
「うん。偉人のジョン万次郎から来ているんだけど」
「まあ、それなら英語で挨拶をした方が良いのかしら? えっとマイネームは」
「いやいや、日本語で話しかけてきたでしょ」
「あら、本当ね」
艶やかな唇に指を重ねて微笑むゆりさん。
年上なのかどうかは分からないけれど、思春期真っ盛りの僕にはどうにも刺激が強すぎたようで、頬が赤みを帯びていくのを抑えることができなかった。
幸いにも時刻は夕暮れ。小さくとも砂浜を焼くぐらいの光が注がれているのだから、自分の頬の赤みがゆりさんに伝わることはなかった。
「それで、万次郎はどうしてここへ来たのかしら」
「あ。ジョンとは呼んでくれないんだね」
「ごめんなさい。私、横文字は苦手なの」
「そ、そうなんだ」
名前に横文字も何も無いと思うのだけれど、ゆりさんが言うのだから仕方がないのだろう。
僕は理解することを半ばあきらめつつも、頷いて返した。
「それで、質問の答えはどうなのかしら?」
「えっと、そうだなー。こう言うと気取っているなって思われるかもしれないけど、目の前に広がる世界から逃げたかった」
「逃げたかったの?」
「うん。すごく息が詰まる、そんな世界から」
真っ青な言葉だったと思う。
深海の水のように冷たく重い、痛い言葉。聞いた人によっては耳を手で塞ぎ、僕から目を背けていただろう。
だけどゆりさんは両方ともをしなかった。
むしろ海風にたなびく旗のような瞳を真っ直ぐに僕へと向けていた。
「あなたもこの世界からのけ者にされているのね」
「分かってくれるのかな?」
「分からないわ。私、あなたと違うから」
「何だよ、それ」
「でも、分かろうとすることはできる」
怒りから拳を作ろうとした僕に対し、ゆりさんは手を後ろで組み微笑んで見せた。
「私には耳がある。だからあなたの声を聞ける」
「…………」
「それに私には口がある。だからあなたを励ますことができる」
「…………」
「そして、私はここに居る。だからあなたの側に居ることができるわ」
励まし、だったのだろうか。
まるで詠うように言葉を放つ君に、僕の心はどうしようもなく惹かれていた。
「とても詩的だね」
「そう、だった?」
「うん。とても魅力的だったかな」
僕がそう言うと、ゆりさんは後ろで組んでいた手を自身の頬に添えた。
「そうやって褒められたら、私がナンパされているみたいだわ」
頬が紅潮する様子はなかったけれど照れてはいるのだろうか、声が少し上ずっていた。
「一応、そう言う設定にしたんじゃなかったのかな?」
「そうだったわ。許してね、私少し忘れっぽいところがあるから」
忘れっぽいというよりも、天然と言うべきなのだと思うのだけれど、夕日よりも魅力的な笑顔を向けられてしまっては全てが許せてしまう。
何より。
「でも、あなたの名前はちゃんと覚えたわ、万次郎」
「っ!」
名前を呼ばれてしまったら、もう、抵抗する余地すらないじゃないか。
「あはは」
安っぽいなあ、僕。名前を呼ばれただけなのに。
でも、今はそれでも良かった。
どうしようもなく息が詰まるこの小さな世界の中で、君の隣に居られる時。
その時だけ僕は素直に息をすることができる。そんな気がしたからだ。
「初めまして。私はゆりよ。あなたは?」
「僕は万次郎。同級生たちからはジョンって呼ばれているよ」
「ジョン?」
「うん。偉人のジョン万次郎から来ているんだけど」
「まあ、それなら英語で挨拶をした方が良いのかしら? えっとマイネームは」
「いやいや、日本語で話しかけてきたでしょ」
「あら、本当ね」
艶やかな唇に指を重ねて微笑むゆりさん。
年上なのかどうかは分からないけれど、思春期真っ盛りの僕にはどうにも刺激が強すぎたようで、頬が赤みを帯びていくのを抑えることができなかった。
幸いにも時刻は夕暮れ。小さくとも砂浜を焼くぐらいの光が注がれているのだから、自分の頬の赤みがゆりさんに伝わることはなかった。
「それで、万次郎はどうしてここへ来たのかしら」
「あ。ジョンとは呼んでくれないんだね」
「ごめんなさい。私、横文字は苦手なの」
「そ、そうなんだ」
名前に横文字も何も無いと思うのだけれど、ゆりさんが言うのだから仕方がないのだろう。
僕は理解することを半ばあきらめつつも、頷いて返した。
「それで、質問の答えはどうなのかしら?」
「えっと、そうだなー。こう言うと気取っているなって思われるかもしれないけど、目の前に広がる世界から逃げたかった」
「逃げたかったの?」
「うん。すごく息が詰まる、そんな世界から」
真っ青な言葉だったと思う。
深海の水のように冷たく重い、痛い言葉。聞いた人によっては耳を手で塞ぎ、僕から目を背けていただろう。
だけどゆりさんは両方ともをしなかった。
むしろ海風にたなびく旗のような瞳を真っ直ぐに僕へと向けていた。
「あなたもこの世界からのけ者にされているのね」
「分かってくれるのかな?」
「分からないわ。私、あなたと違うから」
「何だよ、それ」
「でも、分かろうとすることはできる」
怒りから拳を作ろうとした僕に対し、ゆりさんは手を後ろで組み微笑んで見せた。
「私には耳がある。だからあなたの声を聞ける」
「…………」
「それに私には口がある。だからあなたを励ますことができる」
「…………」
「そして、私はここに居る。だからあなたの側に居ることができるわ」
励まし、だったのだろうか。
まるで詠うように言葉を放つ君に、僕の心はどうしようもなく惹かれていた。
「とても詩的だね」
「そう、だった?」
「うん。とても魅力的だったかな」
僕がそう言うと、ゆりさんは後ろで組んでいた手を自身の頬に添えた。
「そうやって褒められたら、私がナンパされているみたいだわ」
頬が紅潮する様子はなかったけれど照れてはいるのだろうか、声が少し上ずっていた。
「一応、そう言う設定にしたんじゃなかったのかな?」
「そうだったわ。許してね、私少し忘れっぽいところがあるから」
忘れっぽいというよりも、天然と言うべきなのだと思うのだけれど、夕日よりも魅力的な笑顔を向けられてしまっては全てが許せてしまう。
何より。
「でも、あなたの名前はちゃんと覚えたわ、万次郎」
「っ!」
名前を呼ばれてしまったら、もう、抵抗する余地すらないじゃないか。
「あはは」
安っぽいなあ、僕。名前を呼ばれただけなのに。
でも、今はそれでも良かった。
どうしようもなく息が詰まるこの小さな世界の中で、君の隣に居られる時。
その時だけ僕は素直に息をすることができる。そんな気がしたからだ。
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