生きる世界と冒険譚

山田浩輔

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フェイル

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  かつて私は、何もなかった。
 15歳、人間で言えば7歳ほどだろうか?
 ゴミどもの掃き溜め、私はそんななかで無気力にただ倒れていた。
 目を閉じ全てを受け入れていた。
 虫が寄る感覚、男の体液の臭い、嘲笑われる声、乾ききった舌、真っ暗闇の中私は心を閉ざしていた。
 


 「大丈夫?」
 顔を上げるとそこには、私の姉とも言えるような存在、リアがいた。
 「君は私の弟子にならない?」
 彼女は太陽のようで、私には女神にも見えた。
 服の質感、花の香り、温かい人の声、食事の味、そして目を開けばそこに彼女がいる幸せ、全ての感覚が心を開いていたのかもしれない、食事、住まい、教養、衣類、全てが彼女からの贈り物だった。
 「ごめんなさい」 
 私がリアにそう言うと彼女は笑った。
 「そんなに謝らないで、もっとニコニコ笑わないと!」
 彼女の屈託のない笑顔に救われるがそれでも申し訳ないと感じた、私は受け取ってばかりで何も与えることができない、恩も返せず劣等感を抱いていたのだろう。
 「いつか私が必ずリアさんに恩返しをするから....でも今は何も返すことができないの...ごめんなさい...」
 私の言葉を聞くと、彼女は私の頭をワシワシと撫でた、その手は温かく、泣きそうになりそうな優しい声で彼女は言った。
 「ありがとうってさ、言われた方はとても嬉しいの、ありがとうのために私は頑張れるし、それを与える人として生きる価値すら見つかるの、だからありがとうっていろんな人にたくさん言ってあげて、そしてもしも大切な人ができたのなら———」
 

 そんな優しい彼女が殺されるとは私は決して思っていなかった。
 戦いもない街の中で人を庇った、ただの無差別犯のせいで、彼女は死んでしまったのだ。
 そうだ、私はまだ戦える、弟のようなフォルト、静かだけどクールなヒューズ、ちょっと抜けてるけど頭のいい結衣、優しくて穏やかなエレナ、サムとロイとは話すことは少なかったけど、それでも私の大事な仲間だ、ウィリアムはちょっとバカだけど、それでも勇気をもらえた、私の愛しい仲間達をこれ以上誰も失いたくない、傷ついてほしくない、必ず私が止めなければならない。
 
 
 ありがとう、みんな


 「終わりだ」
 ピカトムが原罪をウィリアムに突き刺そうとする、しかしフェイルは鎖が絡みついた腕を無理やりピカトムの方に向け、詠唱をする。
 「エレメンタル...エクスプロージョン...!」
 手に火、水が集まり空気が二つを無理やりに圧縮する、本来は植物などのエネルギーを奪うが今はできない、フェイルは自身の生命エネルギーを魔法に込めるとピカトムに打ち出す。

 「これは....まさか!?」
 ピカトムは一瞬で状況を察知しフェイルの両手足を引きちぎる、しかし魔法はゆっくりとこちらに飛んできた
 (大丈夫だ、どっちにしろこれならばこの男は魔法で死ぬ、魔力を使い果たしていたならば....どちらも死ぬだろう...)
 着弾するであろう場所からできるだけ距離を取るとそのすぐ後に爆発を起こす。
 土煙を上げる中、一つの影があった。
 「ギリギリセーフ、かな?」
 「お前は一体...」
 そこにいたのはウィリアムを庇うように立つマークであった。
 「こっからは俺達に任しとけ!」
 マークが空に向かって指をなぞると突然ピカトムに鉛のように重い何かがのしかかる
 「ぐ...なにがおきて...」
 マークが正面から突っ込み、ピカトムが原罪で刺突を行う、マークはふわりと浮き、ピカトムの頭上をとった瞬間に踵落としをする。
 ピカトムはマークの攻撃を腕で防ごうとするがピカトムの腕が折れる。
 「う....イラ 滅せよ」
 マークは後ろに吹っ飛び受け身を取るがピカトムがゆっくりと起き上がる。
 「はあ....強いですね」
 

 土が顔につきウィリアムが目を覚ます。  
 「マークさん、聞いてくれ」
 「どった? ウィリアム?」
 「あいつの能力だけど...よくわからない技を使うんだ、錆びさせたり、身体能力を強化したり、魔法を掴んだりとか...」
 「ウィリアムさん、詠唱みたいなことはしてましたか?」
 フォルトがウィリアムに聞き、思い出せることを口にする。 
 「イラとかスペルビア?とか?」
 「......もしかしたら、それは七つの大罪の力かもしれません...イラは確か憤怒、スペルビアは確か......傲慢だったはずです」
 フォルトの言葉にウィリアムはピンとくる。
 「もしそうだとしたら...あいつの口調、途中で変わったんだ、スペルビアを使うまえまでまるで舐め切っていた...そんで錆びるのが...怠惰?だとしたらだから本気を出した?....あいつは自らの罪を力にしている?金属を錆びさせられるのにやらないのは....一度使うと罪が消えるってことか?」
 「そうなのかー? じゃあ出させまくってから倒せばいいってわけだな!」
 そう言ってマークはピカトムの方向を向くとすでに目の前までピカトムは近づいていた。
 「ちょっま!?」
 マークが驚きを崩したその時だった、ロイがマークを庇い、手で防いだ。
 「ロイ!!」
 次の瞬間にロイの服だけが地面に落ち、ロイが消える。
 「てめぇ!!」
 サムとヒューズが剣を振るが切先がわずかに服をかするだけ、ピカトムが距離を取ると同時にサムの首元を蹴り飛ばしそれと同時にナイフをヒューズの腕に投げ飛ばす。
 「くっ.....」
 ヒューズはナイフをすぐに引き抜くと布を巻く、結衣が銃を構える。
 「ファイア!」
 銃弾はピカトムの肩にあたり血を撒き散らす。
 「俺が行くから援護頼むぞ!!」
 マークが接近しピカトムと殴り合う。
 体が重く怪我も負ったピカトムはマークの攻撃を捌ききれずに少しずつ打撲痕が増えていく。 
 「ほらほらどうしたー!」
 マークは余裕の笑みで殴り続けるとピカトムはマークの腕を掴む。
 「スペルビア 放て」
 「マークさん! 身体強化です、気をつ——」
 しかし次の瞬間に勝負は決まった。
 マークの手刀がピカトムの頭を叩き潰したのだった。
 
 「...勝負ありってとこか」
 マークはあくびをするとウィリアムの方に近づく。
 「終わったぜ、まあ二人は残念だったな」
 「二人?...ロイは...確かにそうだが....あと一人って...」
 ウィリアムが周りを見渡すと、そこには手足をもがれ目や鼻、口から血を出したフェイルがいた。
 「なにが...どうなって...」
 ウィリアムが困惑しているとマークが答える。
 「腕はあいつに引きちぎられたとして...これは魔力切れでなお魔法を使ったんだろ、もう死んでるぞ」
 マークはウィリアムの肩を叩く。
 「ああ....そうか...俺のせいでか...」
 ウィリアムは状況についていけずそれと同時に複雑な気持ちになる。
 「まあ今は子供達を救うべきだと俺は思うぜ」
 「そうだな...そう...だな...」
 
 
 「フェイルさん...こんな死に方って....」
 フォルトはフェイルの死体を抱きしめながらただ泣き続けた、絶望しながら、悲しみに暮れながらも、しかし世界はそれを待ってはくれはしなかった。
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