生きる世界と冒険譚

山田浩輔

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狂気の化け物

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 鈍い金属音と土煙が辺りに満ち、ウィリアムが絶望していると声が聞こえる。
 「すまんウィリアム! 遅れたぜ!」
 フェルリートの一撃を剣で防ぐ女がいた。
 「あんた...一体...」
 ウィリアムが疑問を問いかけると女はにこやかに口にする。
 「トゥリアだぜ!!」
 トゥリアの言葉にフェルリートは怒りの表情を見せ、声を荒げる。
 「トゥリアああああ!!」
 フェルリートは今までの10倍以上の速度でトゥリアに切りかかるがトゥリアは剣撃を防ぎながら魔法を放つ。
 「ファイアストーム!」
 火の竜巻がトゥリアの前に現れたフェルリートは後ろに飛ぶ。
 「ウィリアム、ここは俺が食い止めるから先に行けよ!」
 余裕そうなトゥリアを見て呆然としているとヒューズがウィリアムを片手で抱えると叫ぶ。
 「みんな! 逃げるぞ!」
 フォルトは目を覚ますとガバッと起き上がる。
 「くそ!」
 フェルリートは剣を拾いヒューズに向かって投げるとリカルが腕で投擲を防ぐ。
 「いけ!!」
 リカルが叫ぶとヒューズはコクリと首を縦に振り走り出す。
 「逃したか...」
 フェルリートが追撃をしようとするとトゥリアが立ちはだかる。
 
 「フェルリートぉ! 今度は俺が勝つぜぇ?」
 トゥリアはヘラヘラしながらフェルリートに言うとフェルリートは殺意を放ち一言言う。
 「黙れ」
 
 そして神速とも呼べる速度での斬り合いが始まり、木を蹴り、地面を蹴り、瞬間的な速度での立体戦が始まる。
 姿見えず軌跡と火花が辺りに散り、そしてトゥリアの一撃がフェルリートの頬を僅かに掠り、その次の瞬間に宙を舞ったトゥリアの左手首が地面に落ちる。
 
 「やっべえ切られちゃった!」
 トゥリアは止血することなく、断面に刃を数本突き刺す。
 「はい強化あぁ!!」
 「.....バケモンが....!」
 トゥリアの狂気にフェルリートは殺意と軽蔑の入り混じった表情をすると切り掛かる。

 「ブラストぉ!!」
 トゥリアは足に仕込んでいた杖をフェルリートに向け詠唱すると爆風が突然現れ、その推進力で十数本のナイフが飛ぶがフェルリートは全て防ぐ。
 「そんなものが!」
 フェルリートはトゥリアが左腕を振りかぶっているのを確認し、防御しようとするが、フェルリートの脇腹に剣が刺さる。
 剣の元を辿ると、それはトゥリアが自身の身体ごと貫通させた刃であった。
 「ぐ.....」
 フェルリートはすぐに離れ、布で縛ると一瞬にしてトゥリアの後ろをとる。
 「あちゃ~、俺の負けか~」
 トゥリアがフェルリートの方向を向く、フェルリートはトゥリアの眼球を見た瞬間に刀を構え防御の姿勢へと移す。
 「ありゃりゃ?」 
 トゥリアの右目がボロリと落ち、穴から毒針が飛ぶがフェルリートには当たらない。

 「今の一瞬で気づくとはやるねえ?」
 トゥリアは手首に刺した刃を外すと、全身に巻き付けていた鎖につけると振り回す。
 「第二形態のご登場!!」
 
 

 ヒューズが村に着くと既にそこは炎に包まれ、騎士たちがたむろしていた。
 「生存者は...いないか...」
 木の影から状況を確認するが、生き残りは見当たらない、結衣やロルフも見つからず、とりあえず馬車にウィリアムを乗せると馬小屋から馬を出す。
 「....フォルト、ウィリアムを頼む」
 「....何をするつもりですか?」
 フォルトの問いにヒューズは言う
 「ここは俺に任せろ、お前らは先に行くんだ」
 「何を言っているんですか! だったら僕も...」
 フォルトがヒューズの手を取るとヒューズはその手を振り払う
 
 「すまない、お前らには死んでほしくない...」
 そう言ってヒューズが向かおうとすると血まみれの結衣が止める。
 「ダメです...」
 結衣を見てヒューズは一瞬困惑するが生きていることに安堵すると血を確認する。
 「この血は....ロルフはどうなった...?」
 「ダメでした、これは返り血です...」
 ヒューズが走り出そうとすると結衣が抱きしめる。
 
 「お願いします......逝かないでください...もしもあなたまで死んだら...私はあなたが好きです...ずっと...これは私のわがままです...だけどお願い...どうか....」
 結衣が目に涙を浮かべながら言う。
 ヒューズは今までにない優しい笑顔を浮かべると言う。
 「そうか、俺も好きだ、でも...だからこそ守りたい」

 ヒューズは結衣の頬にキスをすると走り出す。
 「行かないで!! お願い! どうか、どうか!!」
 結衣は声にならないほどの声で叫ぶが、ヒューズは走り去ってしまう、結衣は泣き続け、フォルトは無念そうな顔をしながらも結衣を抱えて馬車に乗せると馬車を走らせ、北へと向かった。
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