生きる世界と冒険譚

山田浩輔

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第十九話 人と火

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 フォルトはゆっくりと立ち上がると教会を出る、よろめきながらも街へとゆっくりと向かっているとユリア、ジャンが現れる。
 「あれ、ルーカスさんは?」
 ジャンがフォルトに聞くとフォルトは教会を指差す。
 教会に抜け道がありまして、ルーカスさんは先に行きましたが...追いつけるとはとても...」
 フォルトの言葉を聞き、とりあえずジャンはフォルトに肩を貸す。
 「一旦、アストラさんのところに戻りましょう」
 そうしてフォルトはラルクとアストラのいる宿屋に行くと、とんでもない光景を見ることになった。
 「ラルク...さん....」
 そこにあったのは全身に包帯を巻かれ、腐り落ちた体、誰かもわからなく包帯の間から肉がまろび、臭いが部屋を包んでいた。
 「あ.....フォル...トさ....ん...みん...な.....」
 今までのラルクの覇気はなく、力無く、か細く、今にも死にそうな声でフォルトに呼びかける。
 「最近は食事もまともに取れていません、あなたの言った通り、皮は剥がれ、嘔吐し、土魔法でなんとか一命は取り留めていますが...このまま死んでしまいます、何か助ける方法はないのでしょうか?」
 アストラの言葉にフォルトはミメーシスに聞く。
 「どうにか、助ける方法はないんですか?」
 (存在しない)
 「やっぱり....ないと思います...」
 申し訳なさそうに言うとラルクは微笑む。
 「いやあ......ま...あ...先に....天国...で....楽しく...待って...ますか...ら....」
 死が直前に迫り、しかしそれ以上に冷静で、穏やかで、寡黙で、緩やかに命が落ち始める。
 「アストラさん、私たちはこれからココについて、龍神へーリオスについて調査を行います、あとは頼みました」
 そうしてフォルト達は部屋を後にするのだった。

 「アス...トラ...」
 「どうした」
 無表情で応答するアストラを見てラルクは笑う。
 「いつ...も...冷静だね...多分...もう死ぬ...ぜ?」
 「バカは死んでも治らないとは言うが...死ぬ直前は流石に喚き散らかさないか」
 「手厳...しい...ね......アストラ...頼みが...あるんだ...」
 「なんだ」
 ラルクは一呼吸置くと一言発する。
 「俺のことを...いつまでも...覚えて...くれないか....」
 
 「もちろんだ」
 「初めて...だよ...お前が...俺の言うこと...聞いたの」
 「ないからな」
 
 「まあいいさ、お前はあっちで待ってろ、俺も後で行く」
 「ああ...楽しみだ....」
 

 全身の痛みは薄くなって、眠気がきて、俺は眠ろうと目を瞑る、そのはずだった、だけど俺は最後に見た、それは死よりも衝撃的で、感動的にも感じた、アストラの目からホロホロと涙が流れていたんだ、そして思った、今までアストラは、冷静で、頭が良くて、合理的な人だと、でもわかったんだ、アストラはそんなことなかったんだ、感情表現が苦手で、人の前ではたかを括って、真面目でいようとしただけの、熱くて優しい男なんだと、俺は....死ぬ直前で初めて知れた。




 「おやすみ、ラルク」
 ラルクは微笑み、安心したように眠り、鼓動が止まる、アストラは涙を拭うが、それ以上の涙が流れ、止まらない、布団を濡らし、ラルクを抱きしめながら、声を殺し、泣き続けた。
 

 そうして1時間も経ち、涙は枯れ果て、立ち上がるとラルクの遺体を持ち上げる。
 何一つ言葉を発することもなく、巨大なバックに遺体を詰めると宿屋を出る。
 そうして地下街から出ると空は太陽の明るい昼、そんな中で草木を集めるとバックに集め、そして魔力結石を一つ投げる。
 「ファイア」
 発火し、ゆっくりと草木に火が回り始め、やがて遺体を燃やし始める、煙はゆっくりと燃え上がり、灰が風に流される、その光景はあまりにも、哀愁漂うものであったのだろう。
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