混色の元ダンジョンマスター様。

摂政

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蜘蛛、盛大に役立つ。

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 ヤトササガニ。
 ソラハさんの《青の力》を纏った雷の実験によって、彼(いや、彼女?)の住処がある樹木を倒してしまったためか、襲い掛かって来た蜘蛛の魔物。それによって、俺はステータスのお勧めもあって赤の絵の具をぶちまけた。

 赤の絵の具を顔にぶちまけられたヤトササガニは、何故だか分からないのだが、

「キュウキュウー……」

 ――――なぜかヤトササガニはキューッと言いながら、その場にひれ伏せていた。と言うか、自分の身体をくねくねと動かしながら、悶えていた。

「うっわー……ないわぁー……」

 傍目から見たら、顔に赤い血をぶつけられたまま悶えてる蜘蛛の魔物。
 ……多分、近くで見てもそんなに良いもんじゃないなぁー。うん、正直なところソッとして、そのまま帰りたいものである。

「スライム達、それからソラハさん。この蜘蛛はホッといて、さっさと逃げ――――」

「キュウ!? キュッキュッ!」

 だが、なにかを感じ取ったのか逃げる前にヤトササガニに回りこまれてしまった。さっきまでただ悶えていたのに、どうしてこっちが逃げようとする前に回りこんでいるのだろう?

 怖いよ、すっげ―恐いよ。なんか必死すぎて本当に怖い。
 ……と言うか、なんでそんなに必死になって、「キュッキュッ!」と鳴き声を出しているのだろう? まるで、「待って、待って!」と必死に訴えかけているようである。

「えっと、どうかしたの……?」

 俺が恐る恐るそう聞くと、ヤトササガニは必死になって何かをアピールしたいようだ。声を必死に荒げて、自分の身体とそばにあった木の実を指差して来る。この木の実になにかあるのかと思って手に取って見ると、それはごく普通の木の実であった。美味しくもまずくもなく、ただただ栄養価があまりにも低いから見向きもされないような木の実である。ちなみに名前は、毒がないが食べても意味がない"イミナシの実"だったか。

「これが、どうかしたのか?」

「キュキュッ!」

 バンバンッと足を使って地面を何度も叩く、ヤトササガニ。なにを言っているのかは、残念ながら骨の魔族と蜘蛛の魔物ではやっぱり会話にならないみたいである。だけれどもジェスチャーというか、必死な様子の身振り手振りによってなんとか伝えたい事は分かる。どうやらこの蜘蛛は、この木の実を地面に置いて欲しいみたいである。

「あー、はいはい。分かりましたよ」

 ぽんっ、と置くとヤトササガニは「やっと伝わったよぉ~」というような、どこかホッとした様子で顔を微笑ませる(?)ヤトササガニ……って、やっぱりややこしいわ。

 昔、とある東方の地の話である。その地域では何故か蜘蛛のことを"ササガニ"と呼ぶ習慣があり、なおかつ野兎を"ヤト"と呼んでいたらしい。その上でこの蜘蛛の魔物が見られたのがその東方の地域であったがために、ヤトササガニという名前が付いたらしい。

 ……とは言っても、俺にとっては蜘蛛の魔物としては"〇〇クモ"や"〇〇グモ"、"〇〇スパイダー"とかの方が分かりやすいのだが。
 なんだよ、ヤトササガニって。普通にヤトとか、ササとかとかいう名前の方が良い。と言うか、そっちの方が絶対に呼びやすいと思うって。

=====
眷属ヤトササガニに、ササという名前を付けます。
以後、この個体の名前をササと固定します。

名前;ササ
種族;ヤトササガニ
職業;魔王(仮)の配下 もの作りの探究者 赤の者
保有スキル;操糸 糸作成 猛毒生成 気配察知 極限集中 特異腹 《赤の力》
種族ランク;E+
=====

 ちょっとステータスさん、仕事しすぎじゃない!?  ちょっぴり思っただけじゃないですかぁ! その意見まで反応してくれるの!? ありがたいような、そうではないような……。
 それにこいつも、仲間なの!? なんなのっ! 赤い液体ぶちまけただけだよ! 絶対、色落としたら襲ってくるパターンだよ! おいっ!

 ……とりあえずヤトササガニ、もといササに話を戻そう。後、色は落とさないようにしておこう。
 さて、イミナシの実をササの前に置いたわけなのだけれども、何故かササはイミナシの実を前にしてじっとその場で止まっていた。
 ……あれ? 違ったのか?

 顔を横に傾けて疑問符を浮かべていると、「もしかして……」とソラハさんが心当たりがあるみたいである。

「その蜘蛛ちゃん、もしかしてヤトササガニじゃない名前で呼ばれたいんじゃ?」

「えっ……?」

「多分ですけどヤトササガニって種族名であって、個体の名前ではないんですよね?」

 その通りだと言わんばかりに頷くと、原因を見つけたとばかりにソラハさんの2本の狐尻尾が嬉しそうに激しく揺れていた。

「きっとなにか、彼女を現すあだ名か何かで読んであげると良いと思いますよ! 絶対、そうです! 私もそうですもん! マスティス様に名前を呼ばれると身体の奥から嬉しいという感情が溢れてきます!
 私の身体にかけられた青い色が身体の中をほんわかと温めていて、今でも身体の中を心地好い温かさが全身をかけめぐっています。もう捨てられるだなんて、別々になるだなんてそんなの……」

 あぅ~、と考えたくない事だと言わんばかりに顔色が何故か真っ青になってしまっているソラハさん。そしてなぜかそれが理解出来ると言った感じのヤトササガニのササ。
 「青い力が身体中を~」といっていたし、もしかしてササも同じように身体を赤い力が駆け巡っていたりするのだろうか?

(……まぁ、それはともかくとしてここは名前を呼ばないと話が進まないのか?)

 仕方ないな……。

「"ササ"、とりあえず教えて欲しい事があるなら、どういう事なのか教えて欲しいんだけど……」

「キュキュッ!」

 ただの鳴き声だとは思うのだが、何故かその時は「任せて!」という声が聞こえた気がした。

 ササはようやく行動に移ってくれたようである。
 まず、俺が先程目の前に置いたイミナシの実を器用に手に取ると、そこに何かの文字を書いていく。書き終わった後に俺の方に見せて来ると、そこには結構な達筆な文字にて《ササ》という文字が刻まれていた。
 ……なんともまぁ、達筆な文字な事で。

 ササはもしかして、こんなきれいな文字が書けるんだよという自慢のためにイミナシの実を渡しのかと思ったのだが、だったら最初からイミナシの実を渡しているはずである。
 他に意味があるのかと思っていると、急にササが口から灰色の糸をイミナシの実へとかけていた。なにがしたいんだろうと思っていると、灰色の糸がかかったイミナシの実が"消えてしまった"。

「……っ!? 消え、た!?」

「どう言う事……?」

 俺とソラハの後ろでマッチョスライム達はマッスルポージングを……うん、こいつらはなにも考えてないな。不思議がっていると、ササは「これをご覧ください」とばかりに口からイミナシの実を……あれっ?!

「どこから出した……」

「キュキュッ!」

 「重要なのはそこじゃないよっ!」とばかりにイミナシの実を見せつけると、そこには――――


 ―――――《ササ》という文字が刻まれた。


「これは……まさかっ!」

「キュキュッ!」

 そうだよ、と言わんばかりの頷き。


 そう、ササは身体の中にアイテムを入れて置ける――――俺が夢見た、アイテムボックスの役目を果たす事が出来るモンスターだったのだ!



「やったっ! やったぞっ!」

 遂に、遂に、である!
 俺の夢だった、アイテムを中に入れてそれを自由自在に取り出す事が出来ると言う夢の能力。中に入れている間は物の重さを感じる事がなく、さらに高位な物であれば中に入れている間は腐る事もないという、まさに俺が欲しかった夢の能力!
 まさか、それがこんな形で叶うだなんて……本当に嬉しい限りである。

 今日は、もしやっ!
 人生最良の日ではないだろうか!

 この時の俺は、そう感じていた。
 夢のスキルを、配下としてではあるが手に入れた事は俺の長きに渡る魔族人生の中でも、トップクラスの出来事だったからだ。


======
マスティスさまへ、【大足】の魔王ジョルグジョルグさまよりメッセージが届いております。
至急、エルフの村ミライトリスに来い、との事です。
======


 ……元上司の魔王さまからのお呼び出しがなければ。
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