混色の元ダンジョンマスター様。

摂政

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元ダンジョンマスター、元上司に呼び出される。

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 ――――【大足】の魔王ジョルグジョルグ。それはこの俺、マスティス・タウストをダンジョンマスターとして雇っていたのだが数日前に解雇した、件の魔王である。
  効率の良さを重点的に考えて、いかに自分の権力を上手く使うかを考えた人物。それが故に配下にもそれを求め、一定のノルマとなるラインを設定して、それを守れているかを定期的にチェックしに来る。出来ていなければ何故出来ていないかについて1つずつ項目にして抜き出したものをくどくどと言い連ね、出来てたら出来てたで次はさらにノルマを上げて来る。

  優秀なのは確かである、それは間違いない。
  上司としても、まぁノルマを課して来ることと抜き打ちでチェックすること以外はおおむね尊敬出来る。
  ――――けれども、魔王としては信頼していない。

  優秀すぎる故に、目標設定まで優秀。それは別に構わないのだが……こっちが必死に頑張っているのにも関わらず、「あれしろー」「これしろー」とのんきそうな口調でのんびりと動いているのにも関わらず、こちらよりも良い仕事をして来ると言うのは、なんとなくムカつく。頭では分かっていても、感情的に。


  とまぁ、これが俺がジョルグジョルグ様に対する感情である。
  完全に理解して貰えるとは思っていないけれども、そんな風な妙な苦手意識を持っていると思って貰えてると良い。


  ……そんなジョルグジョルグ様にエルフの村の1つ、ミライトリスに来るように言われてしまう。

 「はぁー……胃が痛い。いや、骨しかないけれども」

  ……なんでクビになった後に、わざわざ元上司に呼び出されなくてはいけないんだ。あの魔王様、会うだけでこちらの魂とか、魔力とか、とにかくなにか良く分からないけれどもなにか大切なものを削り取って、搾り取って来るから苦手なのに。
  とにかく元ではあるけれども、上司からのお誘いをわざわざ蹴るほどの事態にも直面していないし、そもそもそんな事態に巻き込まれていたとしても断れないだろうし……。

  けれども、俺の足取りは重かった。とーっても、重かった。
  その後ろでいかに筋肉をカッコよく見せるかを追求しているスライム達はうざかった。とーっても、うざかった。

  そうこうしているうちに、俺達はミライトリスに辿り着いてしまった。


  魔王に敵対する種族は、主に4つ。
  数と知恵を用いる人間、体力と野性を用いる獣人、魔術と魔力を用いるエルフ、技術と武器を用いるドワーフ……まぁ、他にも細々としたものを合わせれば10や20を越えるんだけれども、その全てが我々、魔王に対して敵対視している訳ではない。
  100人居たら70人から80人の割合だから、大多数が魔王に対して敵対視しているという事は事実である。とは言えども、それでも20人から30人くらいは魔王に対して敵視していない者も存在している。

  魔王に対して敵視はしていない者達のみが作り上げたエルフの村。それがここ、ミライトリスである。
  魔王だけではなく、魔族にも優しいこの村はダンジョンマスターをしていた頃にも何度も訪れたが、みな優しく、こんな元上司に呼び出されるという状況でなければもっと楽しめてただろう。
  元々は魔王なんかと仲良くしようと言い出した勇者がエルフであり、それに賛同した者達がえっちらほっちらと作り上げた村。この村には3人のエルフが、英雄の像として飾られている。



  1人目は剣を構えたエルフの銅像。

 =====
 聖騎士ニケル・トゥエンティの像
……ミライトリスを作った三賢人のエルフの1人。聖剣ラクーンバーを持ち、その力で反対するエルフ全てを一夜にして殲滅して、『一夜殲滅の反逆騎士 ニケル』とも呼ばれている。
 =====

  2人目は杖を構えたエルフの銅像。

 =====
 賢者クロロホルの像
……ミライトリスを作った三賢人のエルフの1人。未開の地であるこの村を自らの大魔法と知識で一瞬にして作り上げた、『一夜村作りの制作神 クロロ』とも呼ばれている。
 =====

  3人目は水着を着たエルフの銅像。

 =====
 遊び人ミランダの像
……ミライトリスを作った三賢人のエルフの1人。人が来ないこの村に自慢の美貌と巧みな話術で男共を一瞬にして骨抜きにして、『一夜限りの過ち ミランダ』とも呼ばれている。
 =====



  ……なんで3人目のミランダを入れたか分からないラインナップは、相変わらずらしい。ちなみに大きさと像に使われている銅は全部同じだが、クオリティーはだいぶ違う。
  そう、ミランダだけ無駄に細かい! 他の2つは剣や杖はそりゃあもう立派なのだが、ミランダの銅像だけは肌の質感とか、胸元を惹きつける扇情的な肢体とか、そりゃあもうご立派なのだ。
  出来が良いだけに他の2つがなんだか貧相に見えてしまう。やはりいつの時代も、男の性欲は芸術を爆発的に進歩して来たのだろう。うん。

  そんな、アンバランスな3体の銅像が村に入るとお出迎えしてくれるというこの村ならではの光景を目にしていたのだが……どうやら今日はいつもと様子が違うらしい。

 「うぅ、痛いよ! かあちゃん、全身が痛いよぉ!」
 「腕がぁ、腕がぁ!」
 「かてっこねぇよ……あんなのばけものだぜ……」

  何故かあちらこちらで怪我をしたエルフ達ばかり。擦り傷を負った軽い者から、ひどい者だと頭から大量の血を流してぐったりと倒れ込んでいる者まで様々だ。
  手当をしているエルフ達も看るのに必死なせいか、到着したこちらには気付いていないみたいである。

  いったい、何があったというのだ?
 そりゃあ森で暮らしていて、なおかつ魔王に賛成しているエルフである。狩りに失敗して怪我を負う事や、他のエルフから攻撃を受ける事もある。
  しかし、それにしたって重傷者の数が多すぎる。

 「いったい、なにがあったんだ?」


 「おぉ、かたじけないっ!」

  と、そんな事を思っていると、何故か俺の方に向かって頭を下げている1人のエルフの姿があった。
  先程ざっと見まわしている時に見た、右腕が折れて曲がっていたエルフだ。しかし、そのエルフの腕は右肩からかけている、謎の赤い糸によってがっちりと固定されていた。

  ……よくよく見ると、そのエルフが頭を下げているのは俺じゃなかった。

 「キュッキュッ!」

  ――――ササである。

  ササは遠慮しなくて良いとばかりに腕を振ると、そのまま次の患者の元へと走る。傷を見ると口から先程と同じように赤い糸を出し、今度は傷に直接貼りつけるように巻き付ける。
  その後もササッと、赤い糸を出してエルフ達の怪我に適切な処置をしていくササ。

 「……ササちゃん、どうしちゃったんでしょうか?」

 「さぁ? でもまぁ、糸で固定して血が出ないようにするだけでも、ありがたい物はあるんじゃないだろうか」

  実際、処置を受けた者達の顔色は良い。少なくとも受ける前よりかは、だいぶ具合は良くなっていると思われる。ササのやっている事は確実に、この村に対して救いになっていた。


 「おやおやっ、君は随分と優秀な眷属を仲間にしたようじゃないか」

  ササの活躍ぶりに対して感心していると、後ろから――――来た。

  口調こそ穏やか、だけれどもその声に込められている威圧は聞いている者の骨に直接ずさりと突き刺さり、そのまま重く受け止めさせる声。

  振り返ると、やはりと言うか、その人物は前に直接顔を見た時と同じ、ニコヤカとした顔で立っていた。


  自然を愛する緑色の髪が多いエルフには珍しい紫色の毒々しい髪。背丈はスラッとしていてまるで細い枯れ木のようだが、シャキッと背筋を伸ばしているから余計に高く見える。
  美形が多いエルフの中でもとりわけ愛くるしい顔立ち、そして全身に入った黒い刺青はまるで呪いの道具のようである。

 「久しぶりだね、タウくん。しばらくぶり。
  まさかクビにしたそのすぐ後に魔王になっているだなんて思いもしなかったよ。やはり君は面白いね」

 「…………」

  言葉が、でてこない。
  言いたい事は山ほどある。なんでダンジョンマスターをクビにしたのか、お久しぶりですとか、この村の状況はなんですか、とか。

  だけれども、結局。
  元とは言っても、そう簡単に元々の力関係、立場関係が即座に変わるという事もなく――――。

 「……お久しぶりです、ジョルグジョルグさま」

  ――――やはり口に出るのは、何度も何度も言い慣れた敬愛に満ちた口調。
  そして知らず知らずのうちに、というより身体にしみこんですぐ出てしまっている、しゃがみ込むポーズ。

 「あはは、もう良いってば。
  だって、ボク達はもう立場としては同じでしょ? そんな堅苦しい挨拶は抜きにして、さっさと奥の村長の家へ行こうじゃないか」


  その者の名は、【大足】の魔王ジョルグジョルグ。
  数多のダンジョンと広大な領地を支配下に置き、自らは積極的に動かない代わりに動く時は物凄い成果をあげる、言うなればエリート。
  ――――そして、この村出身のエルフの1人である。 
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