混色の元ダンジョンマスター様。

摂政

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魔王(仮)は、ジャックの【勇者】と出会う。

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 ――――勇者。
 誰もが恐れる困難に立ち向かい偉業を成し遂げた者、または成し遂げようとする者。

 神に選ばれた【勇者】と呼ばれる称号を持つ者は、他の者より成長率が高い。むしろ、優遇されていると言っても過言でもないくらいである。
 人々を守るために、魔王、またそれに比類する強大な力を持つ者と戦う事を宿命づけられている彼らは元々ステータスが割かし高めに設定されており、なおかつ他よりも圧倒的に長所を伸ばしやすい傾向にある。勿論、それだけの優遇処置が撮られる以上はそれに付随するだけの責任もあるのだが。
 そして、勇者と他との一番の違いはと言えば――――やはり勇者のみが最初から持っているユニークスキル、いわゆる固有スキルの事を語らなければならない。

 例えば、これはあくまでも一例なのだが……【魔法】の勇者として世界を平和へと導いた勇者には、【魔導補助思考】と呼ばれる、魔法を行使するのを手助けする第二の人格がスキルとして備わっていたという。
 【大槌】の勇者として魔神を封印した勇者は、【神器生成】と呼ばれる、神の力を宿す武器を作るスキルを持っているとされていた。
 他にも数多くの勇者が最初から強力な、他の者だったら人生の全てを賭けて得られるかどうかというようなスキルを、勇者として目覚めた頃から持っている。

 それ故に、勇者は強い。
 それ故に、勇者の行動には責任がある。
 それ故に、勇者は勝たねばならない。

 まぁ、最も勇者と同じように、魔王もユニークスキルがあるから結局、この話で言いたい事は次の言葉で文章が締められる。

 ―――結局、最初から優遇されている者はそれだけ頑張らなければならない、と。



「はぁ~、なんで勇者と戦わなくちゃいけないんだか」

 最初、俺は早々に隠居するつもりだった。
 元ダンジョンマスターの魔族として、上司であるジョルグジョルグさまがどう対処して来るかは良く分かっていた。
 多分、この場所に居ては魔王(仮)であろうとなかろうと、どちらにしても面倒事があった際に対処して欲しいと頼まれると思っていた。
 ――――まさか、それが早々にこんな形で来るとは想定外だったけど。

 今、俺達は【ジャック】の勇者が目撃されたという、森の奥へと向かっている。
 丁度、ソラハさんと出会った場所からさらに奥地であり、もし俺がさらに奥に行っていれば出会っていたのかも知れないというくらいの距離である。
 いや、多分あのエルフ達の悲惨さからすれば、死んでいてもおかしくはない。
 ……そう思うと、ぶるっと身体が震えた。

「霧咲メシア……その子も多分、私と同じでなにか特殊能力を持っているんでしょうか?
 だとしたら、いったいどんな……」

 ソラハさんはと言うと、これから戦う勇者との対決に少しばかり緊張しているようである。
 まぁ、彼女の話からすると、これから初めて敵と戦うのだ。

 初戦闘、誰しも"初”という物には緊張するだろう。
 その初戦の相手が事もあろうに勇者なのだ。彼女の緊張も当然だろう。

(まぁ、でも彼女には優秀なスキルがあるし、それを上手く用いればそんな危険な事もないだろう)

=====
名前;ソラハ・テンジョウイン
職業;【勇者】 【妖狐】の勇者 青の者
保有スキル;獣化 魔術の才能 雷魔術 探知 《魔術カスタム》 《青の力》
筋力;E
耐久力;F
敏捷性;B
魔力;S++
=====

 ステータスからして見ても、彼女は魔術に特化している。
 《魔術カスタム》というのも含めて、彼女は高い魔術適性がある。
 《青の力》の実験の際に雷魔術を使ってるから、発動に困るという事もないだろう。

 マッチョスライム達も同様。
 彼らは元はスライム、自分達がどれだけ他の魔物達に襲われて来たかと言う危険性は十分に理解しているはず。

 ササは……ちょっとだけ心配。今も蜘蛛の身体の上に、赤い糸で作られた遊び人ミランダの像を乗せている。
 まさかとは思うんだけれども、あれを庇ってろくに動けないなんていう結果は避けて欲しい。
 いざとなったら捨てるだろうし、そこまで心配しなくて良いだろう。

(じゃあ、やっぱり後は俺か……)

 上がしっかりすれば、下もそれなりにしっかりと働く。
 上が微妙ならば、下も微妙になってしまう。
 ――――結局はこの場の中で一番上の立場である俺が、しっかりしないといけないみたいである。

 とは言っても俺はあまり強くないから、出来れば皆に頑張って欲しい。
 目標は、指揮官ポジション。皆に指示を出して戦って貰う。そのポジションが俺の目指すポジションである。

「出来れば……あの時のような、デブで自滅な勇者を希望! お願いします!」

 そんな事を心に念じ、いや、言葉に出しながら、俺はこれから戦う勇者がそう言う類である事を願った。
 いや、エルフ達が被害に遭っているのだから、そんな事を言ってられないんだけれども。

 出来れば、もうこの辺から逃げてくれると嬉しいなぁ。
 ……そんな後ろ向きな事を考えながら、件の勇者が目撃されたポイントへと近付くと――――


「ククク……! やはり来たか、来ましたか、来ちゃったか! エルフ達を倒していればいつかはその親玉が顔を出すとは思っていたが……まさか、やって来たのがこう言うのだとはな!
 骨、魔族、強大なる敵! まさに俺の伝説の始まりに相応しい!」


「うわぁ……居たなぁ……」

 しかも、なんだかうざったらしい喋り方をする変な男が。

 木々の間を抜けて姿が見えて来たのは、全身に黒雲を纏った10代前半の、若々しい人間だ。
 顔は若々しく好戦的なツリ目の顔、両手にはそれぞれナイフを持っており、それ以外は全身を先の見えない黒雲が覆っている。
 顔が見えなかったら、雲の魔物か何かだと思ってしまう所であった。

 そして、全身を雲に覆われた相手は俺達の方を見て、歯を見せて嬉しそうに笑っていた。
 どちらかと言えば男は俺の方を見て、嬉しそうにしているみたいだが。

「よぅ、魔族! まずは、自己紹介を始めようか!
 みなが語り継ぐ伝説の、英雄の道の、全ての者がその名を覚えるべき、俺の名前はメシア・キリサキ! またの名を【ジャック】の勇者!
 ――――お前は、俺の伝説的な活躍の1ページ、英雄になるための第一歩、栄えある経験値となるが良い!」

 そう言いながら、メシア・キリサキは俺の方へと向かって来る。
 音もなく、雲で覆い尽くしている足ですーっと、空を舞うようにしてこちらへと迫って来ている。

「さぁ、やられろ、倒れろ、死ねぇ!」

 そう言って、彼は手に持つ短刀を振り上げ――――


「――――シュッ!」

 ――――普通にササが放った、蜘蛛糸に絡まりその場に倒れる。

「ばっ、ばかな!
 これからは俺のターン、第二の人生、真なる英雄伝の開幕のはず! それなのに、なぜおれはこんなに無様に地に這いつくばってる!?」

「……いや、当たり前だろうが」

 なにを言ってんだこいつというような口調で、俺はメシア・キリサキに語りかける。

 メシア・キリサキはエルフに危害を加え、さらに特に逃げも隠れもせずに堂々とした様子で待っていた。
 その上、策もなんもなく、ただ真っ直ぐに俺達に突っ込んで来ているのだ。

 そんな戦い方は実戦では向かない。
 勿論、それをしてでも戦えるだけの能力があれば、話は別だろうが、それ以外だとただ網の中に自ら突っ込む魚と同じだ。ただ網を準備すれば、後は勝手に引っかかる。

「さっ、お前がどれだけ偉いのかは知らないけど、うちの元上司様に事情を説明しろよな。
 もっとも、エルフ達と敵対している時点で、うちの元上司がどう対処するかは良く分かるけど」

 ――――死、もしくは、監禁。
 そのどちらかであるのは確かである。
 もっとも最悪な場合だとするならば監禁して、その後に餓死か、経験値のなにかにされるだろう。

「――――ひひっ! 面白い、喜劇だ、笑えて来る!
 こんな糸きれごときで、この空前絶後、最強無敵、絶対無比なこのメシア・キリサキが倒される訳がないだろう!? 捕まる訳がないだろう!? 敗北する訳がないだろぅぅぅ!?」

「……戯言もここまで来ると聞くに堪えんな」

 ササの意図は、蜘蛛型の魔物の糸をそう簡単に斬れるとは思っていない。
 ナイフで斬ろうとしたら、その瞬間にナイフごと糸に絡まれるのがオチだ。
 それでも逃げようともがこうとしたら、流石に危ないので止めるだろう。

 どちらにしても……このメシア・キリサキの負けは決定しているようなものだった。



 事実、こいつの戯言は何の意味もなく、ただ自分の身体をクネクネと動かしながら糸に全身を包まれて、身動きが取れなくなるという自滅で終わった。
 ……こいつ、本当に何がしたかったんだ?
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