混色の元ダンジョンマスター様。

摂政

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【ジャック】の勇者は、語り出す。

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 意外と、【ジャック】の勇者捕獲は楽勝に終わった。
 落とし穴に嵌めたり、敵の視線を誘導したり……相手が勇者だという事で、色々とこちら側としても策を弄そうとしていたのに、こんな簡単に終わっては少し、と言うよりかはかなり拍子抜けである。
 まさか、一番最初のササの蜘蛛の糸縛りが利くとは思いもしなかった。
 俺の感覚としてはあくまでもけん制程度のつもりだったのだが、まさか雲で全身を覆われている癖に糸から逃げられぬとは……。

「いやはや、びっくり仰天、奇想天外、摩訶不思議!
 この世界の蜘蛛形魔物が放つ糸は、このような不可思議な身体であろうとも捕らえられるのか! なるほど、この世界の魔物は前の世界に似ているが、このような形に進化しているのかと思うと勉強になるな!」

 ササの糸でぐるんぐるんと捕らえられている【ジャック】の勇者、メシア・キリサキはと言うと、さっきからこの調子だ。
 糸にくるまったまま、ただ喚いている。
 逃げようと雲状の身体を動かしているが、その度に蜘蛛の糸は彼の雲の身体をぎしり、ぎしりと締め上げていた。

(――――逃げるのは無理だ、諦めろよな)

 俺は溜め息を吐きながら、メシアを巻きつけている糸を見ていた。

 ヤトササガニ……兎の顔を持つ蜘蛛の魔物は、悪食である。
 と言うよりも、ほとんどの魔物は好き嫌いなく、節操なく、遠慮せずに、なんでも食べる。
 森に住まう魔物には身体がしっかりとした物ばかりではなく、俺の配下のスライムのような液体状になっているものから、ゴースト系のような物質ではないものまでいる。
 そんな相手をも餌とする、ヤトササガニの糸には魔力が宿っており、なんでも捕らえる事が出来るらしい。勿論、耐久性の問題はあるだろうけれども。
 今も、ヤトササガニ……ササの糸はメシアの身体をしっかりと掴んでいる。

「逃げられないなぁ~、逃げられないなぁ~。どうしようかなぁ、困ったなぁ、大問題だなぁ……」

「良いから前を向いて歩いてくれ……」

 さっきからそう言いながら、くるり、くるりと一回転して落ち着かない。自分が捕らえられているという実感が、こいつにはないのだろうか?

 今、俺はこの勇者をジョルグジョルグさまの元に引き渡すために、ミライトリスへと向かっている。
 そこでジョルグジョルグさまに対処を任せ、俺はもう1人の対処案件――――ファンデス・ノトシクスの目撃情報を待つつもりである。そいつと対処して、そのまま退散するつもりである。
 なにせ、報告に行ったらまたしても厄介な案件を押し付けられそうな雰囲気をひしひしと感じてしまっているからだ。
 ……流石に、あの魔王も、元部下だという事でこれ以上厄介事を押し付けない、だろう。

 だろう……。
 かも知れない……。
 とは言い切れない……。

 考えるだけでも、ぞくりと背筋が凍るような勢いを感じた。
 もう、実現されそうな感じがするので、退散案はすぐにでも実行しよう。迷う余地なし、である。

「……桐崎さん、と呼んでいいですか?」

 一方、ソラハさんはメシア・キリサキにそう話しかける。
 メシア・キリサキはソラハさんの頭にひょこっと生えている狐耳と、ゆらりゆらりと揺れ動いている狐の尻尾を見て、「だれ、だ?」と尋ねていた。

「ソラハ・テンジョウイン……もしくは【  】高校の天上院空葉、と言った方が……あれっ?
 【  】高校、【  】高校……可笑しいですね。【  】高校の名前が……」

「……!? まさか、あの【空の天上院】さん!? すっげー、まさかこんな所で会えるだなんてね!」

 ソラハさんが同郷の者だと分かったためか、かなり興奮気味で話しかけるメシア・キリサキ。

「なに、コスプレ!? そういう趣味嗜好?! それともそう言うプレイか何か!?
 いやー、それにしてもまさか我が【  】高校の三間美女の1人と、こうして出会う事が出来るなんて驚き、桃の木、山椒の木、って奴だね! 嬉しい限り、楽しい限り、幸せな限りだよ!」

「……えっと、とりあえずうちの高校で、私と同じように"あの"神様によって転生した人、って事で合ってますよね?」

 「あと三間美女って一体……」という彼女の呟きを無視して、「そう! まさにそれだよ!」とさらに興奮した様子でまくし立てるメシア・キリサキ。

「え~、なんだよぉ。まさかの本人は知らないパターンって奴ですか~。あんまりそれは面白くはないんだけどなぁ。まさしく、面白くはないさね。【  】高校の三間美女と言えば、俺のような凡人からして見れば凄い有名人だよ!

 透き通るような青空のような瞳と、浮世離れした雰囲気の美女、天上院空葉(てんじょういんそらは)。またの名を【空の天上院】!
 海のように幅広い言語と知識、幻想的ながらも理知的な美女、法久弥因海華(のりくみいんうみはな)。またの名を【海の法久弥因】!
 大地のようにあらゆる物を受け入れる器量と、どこまでも広がる人脈を武器にする美女、城務音陸根(じょうむいんりくね)。またの名を【陸の城務音】!

 うちの高校を代表する3人の美女と言えば、あなた達以外にはあり得ないですよねぇ~。もっともうちの高校には他にも色々と黒い噂はあるけどねぇ~」

 ――――曰く、IT社会を裏で取り仕切る影の支配者が居るだとか。
 ――――曰く、数年前に殺人を犯してしまった「少女A」が隠れているとか。
 ――――曰く、とある大会で優勝するほどの実力を持つ家事万能の主婦が居るだとか。
 ――――曰く、ドーナツ好きな少年が居るとか、居ないとか。

 メシア・キリサキの言葉はどうも現実味がなく、彼の話が本当だとすれば三間美女として名を連ねているはずの彼女はなにも知らないとの事だった。
 確かに法久弥因だとか、城務音なる人物は知っているらしいが、それでもそんな呼び方をされているだなんて知らなかったらしいけれども。
 ……それにメシア・キリサキの喋り方はどうにも胡散臭さマックスだから、信用できないんだけれども。

「いやーはやー、それにしても同郷の者に会うのは嬉しく、楽しく、喜ばしいものだねぇ~。ほら、俺ってば超寂しがり屋じゃん? こんな異世界なんかで一人ぼっちって寂しかったんだよねぇ~、本当にねぇ~。
 いやぁ、まさか初めて会う同郷の者が【空の天上院】だなんてなぁ、俺も運がついてるなぁ!」

 さっきから延々としゃべり続けている彼のどこが超寂しがり屋、だというのか……。

「ほらっ、もうすぐミライトリスに着くぞ。
 そこでジョルグジョルグ様にお前を引き渡して、俺の役目は終了だ。後のお前の人生など知るか」

 第一、自分の事だけで精一杯なのだ。
 なにが悲しくて配下でもない者の面倒まで見なくてはならないのか。

「……ふーん、なるほどなるほど。あれがそのジョルなんとかが居る村なんだね。オッケー、了解した。
 そう言えば、骨さんよ」

「……マスティスだ。マスティス・タウスト」

 別にこのお喋り雲男と仲良くなりたいという気持ちはちっともないが、それでも骨男なる変な愛称で呼ばれるよりかはマシである。
 俺が名前を言うと、メシア・キリサキは「マスティスね、了解了解!」とちっとも納得してない様子で話しかけてくる。

「俺のね、話をしたいんだ。なーに、すぐに済む程度のくだらない話さ。
 俺とそこのテンジョウインさんとの話を横で聞いてて、俺が彼女と同じくこの世界の者ではない事は理解したよな? でさ、その続きになるんだが、俺と彼女の故郷にあったとあるおもちゃの話をさせて欲しいんだよ」

「……おもちゃの話?」

「そそっ、子供達が遊ぶ程度の、そのくらい俺らの世界ではありふれたおもちゃの話だ。
 そのおもちゃの名前は黒ひげ危機一発、というちょっとしたパーティーグッズさ」

 遊び方は至極簡単、とメシア・キリサキはそう答える。

 まず樽状の装置の中にデフォルメされた海賊が入っている。
 樽にはいくつかの穴が開いており、そこに剣状の武器を突き刺す。
 ――――そして、一人一回ずつ穴の中に剣を刺して行って、1つだけある穴に剣を刺してしまって飛ばした方が負けという。

 どういう理由から作られたのか、全く分からぬゲームではあるがそれでも確かに聞くだけで遊び方が理解出来るくらい、分かりやすいおもちゃである。

「問題はここからなんだけどさ、実はこのおもちゃって"飛ばした方が負け"と言うのは正しい遊び方じゃないんですよねぇ~。正確には罠に嵌った仲間を救うために"飛ばしたら勝ち"、というルールもあるみたいなんだよなぁ~。もっとも、仲間を樽から助け出すのに剣を突き刺して行くと言う危険思考に関しては、いささか疑問を感じるけどさ。
 いやはや、と言うより俺が問題として挙げたいのはそう言った勝ち負けについての豆知識じゃなくてさ。この意外性さ」

「意外性……?」

 と、今まで色々と喋りながらも粛々と歩き続けていたメシア・キリサキの脚が止まる。
 どうしたんだよ、と思っていると彼の話は続いていた。

「剣、の部分は省くとしてもさ、いきなり樽の中からおっさんが飛び出して来るんだぜ?
 びっくりするとは思わないか? 中が見えない物の中から勢いと共になにかが出て来るんだぜ、面白いだろう? ワクワクするだろう? 楽しいだろう?」

「――――何が言いたいんだ?」

 ちょっとばかりイラッとした気持ちを交えて、俺は返答する。
 勿体付けて、ただただ引き延ばす彼の喋りに、元上司の魔王ジョルグジョルグ様にもうすぐ引き渡せるという開放感があったのにそれを先送りにしようとする彼の言動に、流石に不機嫌さを隠しきれなかったからだ。

 良く居るよね、「えっと、あのね~そのね~」とか言いつつ本題はさして重要じゃなかったりとか、語っている内に自分が伝えたい事を忘れちゃったのか「ごめんなさい、忘れました」と言って時間を無意味に浪費させるやつとか。

「つまりは――――こういう、事さ!」

 バンッ! と、さっきまでササの糸によって動けなくなっていたはずの雲がいきなり膨張し、そのまま雲が辺り一面に飛び散る。
 視界を覆わんばかりの雲の飛び散り、そしてそれが終わると、

 身体から生える無数の腕や手、それから足。
 大きな口は牙を剥き出しにしてパクリパクリと動いており、背中からは大量の短刀や弓矢を持った人間の上半身がこちらを獲物としてにらみを利かせていた。
 ――――端的に言うと、そこに居たのは化け物だった。

「「「やっぱり、中から飛び出すなら――――それはやはり、インパクトがある者に限るよね~!
 改めまして再び自己紹介! 【ジャック】……びっくり箱を意味する【ジャック・イン・ザ・ボックス】の勇者、メシア・キリサキでぇ~す!」」」

 少し音程が違う複数の口が同時に喋り、なおかつ涎をたらたらと流す様は、まさしく魔物なんかじゃない。
 そいつは勇者ではなく、化け物だった。
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