混色の元ダンジョンマスター様。

摂政

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【ジャック】の化け物は、吠える。

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 ――――効率の話をしようじゃないか。

 身体から生える、無数の手足。
 大きく裂けた口は、ぱくぱくっと動くとおぞましげに動いていた。
 服を着ていない上半身は大きな身体から土筆のようににょきりにょきりと生えており、その手には弓矢や短刀、他にも槍や瓶などをがしりと掴んでいた。

 その様はまさしくケダモノ、怪物、化け物。
 少なくとも、《勇者》と呼べるようなものではなかった。

「「「いずれ、俺は始末されるだろう。それくらいの事はやっていたという気持ちはあった。
 なのだけれども、仕方がないんだ。ボーナスは、エルフを倒して得られるスキルポイントは格別だったからよぉ。経験値も上手かったよなぁ。
 こんなのでもさ。俺は勇者になる前は、前の世界だと割とまともに生きてたんだ」」」

 人に恨まれるような、蔑まれるような、憎まれるような……。
 そんな生き方をしてきた訳じゃない。
 勿論、人の気持ちは分からない。

 ――――恨まれてるかもしれない。
 ――――蔑まれてるかもしれない。
 ――――憎まれてるかもしれない。

 だとしても、そうならないようには努力したつもりではある。

 人の気持ちを分かるように、努力した。
 謝って欲しいと言われれば、こちらが悪いなら謝罪もした。
 喧嘩もせず、人の足を引っ張るような行為もしなかった。
 勿論、絶対にそうかと言われれば、怪しい所は確かにある。
 けれども、多くの人間がそうであるように、「自ら人の迷惑をかけたい」「悪いと思っても謝罪しなくて良いんじゃない?」なんて思って生きて来た訳ではない。

 そう言う意味で言えば、メシア・キリサキ……桐崎メシアは真っ当に生きて来たと言えるだろう。
 いや、人の迷惑にならないように生きて来た彼は、そんな者達よりも真っ当に生きて来たと言えるだろう。

 ――――けれども、それも異世界では意味のない話である。

「「「この世界に来た時にさ、自分のスキルを確認してみて気付いたよ。
 《雲内戦闘クラウドファインティング》……神から与えられた、俺を《勇者》足らしめてるその力には、《人を殺す能力》なんて書かれていたからさ」」」

 雲の中に入ったものを増やして、人を殺す能力。
 自分じゃない生物や魔法以外ならば、彼を覆う雲に増やせないものはない。

 既に彼の中には、自分の身体、傍に落ちていた短刀、エルフが襲って来た際に放って来た弓矢……などなど、武器として機能できそうなものは、真っ先に複製して増やしている。
 雲が晴れた際に見せつけた化け物のような身体も、その応用である。

 自分の身体を増やして、増殖して、多くして。
 それをくっつけたのが、今の化け物のような身体。

「「「人を殺しちゃいけないという倫理観も、人の姿でなくてはいけないという道徳感情も、騙してはいけないという抑止行為も、この異世界ではカスのほどにも役立たない陳腐なもんだ!」」」

 異世界。
 異なる世界では、常識も違ってくるはずだ。
 魔法もあるし、魔物も居るし――――なら、犯罪をしてはいけないという前の世界の常識は、捨てた方が良い。

「「「魔物を初めて殺すのには躊躇いがなかった。でも、エルフを殺すのには最初は戸惑いはあったよ。自分と同じ、人のような姿をした者を殺すなんて、前の世界じゃ考えられなかったからな。
 ――――だが、エルフを倒した事で貰える経験値は、俺を強くするためとしては最高だ! 魔物以上だったぜ!」」」

 ――――だから殺した。
 1体倒して10経験値が入る魔物と、100入るエルフ。
 どちらを殺せば良いかは子供だってわかる。単純な事だ。

 だが、メシア・キリサキは思った。
 自分に向かって来るエルフを討伐するのは、果たして効率が良いと言えるのか?
 本当の効率を求めるならば本拠地を、たとえばエルフが住まう村々を襲うのが良いのではないか?

 どこにあるかは分からなかったが、それも解決済み。

 自分を捕まえに来たという骨の奴。

 なんかプライドも、誇りも、責任感も、そんなものを全て削ぎ取ったような奴だと、メシアはそう感じた。
 少なくとも話し合いや、トラップなどで解決しようとする奴だ。
 最初、敢えて負けて死んだふりをしてエルフの村まで行こうと思っていたのに、拍子抜けである。

「「「だが、良い事を教えて貰ったな。"あいつ・・・"には」」」

 ――――魔王。
 まさかこんな簡単に、そんなレアキャラに会えるだなんて思いもしなかった。
 エルフであれだけの経験値、魔王ならばどれほどのものが貰えるのか……想像するだけでゾクゾクする。

「「「さて、とそろそろ偽装も大丈夫かなぁ……っと」」」

 そう言いながら、メシア……の"本体・・"は、ゆっくりと顔を出す。

 自身の身体を複製できるメシア・キリサキのどれが本体かと言われると迷うが、少なくとも""というしっかりとした核を持つ自分こそが、正確な己自身である事は言うまでもない。
 彼らの前には、大きな化け物と化した自分を置いて来た。
 あれには魂こそないが、あれだけの巨体だ。それに乱暴だ。無視は出来ぬだろうよ。
 本体は、あの散らばった雲の中の1つに隠れ込み、気付かれないように雲の中に隠れて進んでたとしても、あの巨体を倒す事の方が優先されるだろう。

「「「準備万端♪ 準備万端♪」」」

 それに……試してみたい事もあった。
 本体以外の自分の身体が敵を倒すと、自分に経験値が入るのか?

 既にメシア本体にとって、彼らの死は決定事項。
 どれだけ強いかは分からないが、傍にはいくつか雲を置いて来た。
 雲を全て散らしても、実は空洞のあの巨体の中に無数の雲がある事。それを全部散らす事は出来ないだろうなぁ、とメシア本体はそう思っていた。

「「「負けても良いさ。勝っても良いさ。どちらでも俺にとっては、どうでも良い♪
 俺の目標は、とりあえず強くなる事! 殺しを、殺戮を、蹂躙を、しても英雄として扱われる世界に来たんだ! 男なら、強くなって、女にモテて、お金もがっぽがっぽと手に入れる!
 それが俺の異世界目標だぁぁぁぁ!」」」

 やっほぉい、とメシア本体は雲の中から出した顔を、ゆっくりと背後――――あの巨体を置いてあった現場へと向ける。
 既に距離はだいぶ離れているし、木々も多いが、単なる動作の一つである。ふと後ろを見たくなってしまうという、ただの人間の動作であった。

「「「――――ン? なんだあれ?」」」

 後ろを振り返ったメシアの本体は、変な"黄色・・"に気付いた。
 巨体とあのやる気がない骨の一行――――そいつらが居るだろう場所から、謎の黄色い光の塔がぐいっと伸びていた。

「「「あれはもしや、エヴ――――ん!? ストッ~プぅ!」」」

 黄色い光に気を取られていたメシアだったが、目の前にアレが――――自分を捕らえた、真っ白い糸がある事に気付いて慌てて急ブレーキをかける。
 糸に触れる前にギリギリ回避して、そのまま短刀を出すと糸を切り始める。

「「「まったく……。この世界、蜘蛛だけは好きになれそうにないぜ。
 俺のこの身体を、演技とは言えがっしりと締めつけるだなんてよ。まぁ、こうしてゆっくりと切れば問題ないから良いんだけどよぉ~。雲の身体を持ってるが、蜘蛛は嫌いだぜ~」」」

 蜘蛛糸を切り終えたメシアは、そこでそいつに気付いた。
 木の上にしっかりと立つ、赤い糸で作った女の像を身体の上に置いた変な蜘蛛。確か……ササとか、シシとか、そんな名前だった気がする。

「「「俺を追って来たのか? たかが蜘蛛一匹程度が、この俺を殺せるとでも?
 エルフ共を奪って得た経験値、それによって新たに得た火炎魔術――――どーやら初歩らしい、ファイヤーボールも、俺が使えばこうなるぜぇ?」」」

 ぼぅ、っとまるで太陽が現れたかのように世界が真っ赤に染まりあがる。

「「「雲ってのは、ほんとーに不思議だよなぁ。小さくもあれば、大きくもある。
 《クラウドファイティング》は物を増やす能力ではあるが、大きさはその雲の大きさに比例する。小さい雲なら小さく作るし、大きい雲ならその物は自動的に大きくなる」」」

 今、あの蜘蛛の上には、今出せる限界の大きさの大型の雲を設置。そこから手を出し、俺はファイヤーボールを放つ。

「「「《拳大の大きさの火炎の球を放つ技》……なんでってよ? しっかし、便利だよなぁ。
 やっぱ、俺って強すぎじゃね? やばすぎじゃね? すごすぎじゃね? ――――って、訳で死ねぇい!」」」

 メシアはそのままファイヤーボールを、あの変な蜘蛛に向かって放つ。
 逃げようとしても無駄、既にあいつを逃がさないように小型の雲から出した俺の腕があいつをがっしりと掴んでいる。

「「「見よっ! これこそ、最強の《勇者》である【ジャック】の勇者様の一撃ってもんだぜ!」」」

 完全勝利!
 大型ファイヤーボールが消えた跡には、蜘蛛の身体は塵一つ残っていない。

「「「さーて、次はあの巨体が頑張る方だ。
 頼むぜ、俺。あの骨とかをぶっ倒して、出来ればソラハちゃんという美少女勇者は残しておけよな。女は蹂躙するもの、俺の無数の手でイヤらしく、触りたいからよぉ~」」」

 下卑た笑みを浮かべるメシアの本体には、既に勇者の面影はなかった。
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