混色の元ダンジョンマスター様。

摂政

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ササ、強くなる?

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 話は数分前、ササとメシア・キリサキの本体が勝負しようとした時まで遡る。
 メシア・キリサキは自身が持つチートスキル、《クラウドファイティング》を用いて、『拳大の大きさの火炎の球を放つ』ファイヤーボールに対して雲から出した巨大な拳……それと同じ大きさの火炎の球にてササを迎撃するのだった。

 完全勝利を確信するメシアは、そのままミライトリス――――自ら捕まる事で分かった、魔王の居る村へと急ぐ。

 そもそもメシア・キリサキ――――異世界に転生する際、彼は神から《クラウドファインティング》を受け取る前に、神に対して色々と質問をしていた。
 世界はどれくらいの大きさだとか、どんな種族が居るんだとか、魔王や他に勇者が居るのか……とか。
 その質問の多さは他の勇者達、神に異世界転生がどんな感じを聞いて来た者達と比べても、特に多かった。具体的に言えば、転生者達にて分かりやすい説明をしようと考えている神様達に呆れられてしまうくらいには。
 勿論、その質問全てに神様が答えた訳ではない。むしろメシアの印象としては、"意図してはぐらかしている・・・・・・・・・・・・"、そう言う場面も見られたので全部が全部、心の底から信じている訳ではない。

 そんな中でもメシアが異世界に心惹かれた一因としては、その世界に伝わってる英雄譚であった。
 『魔導を極めて王国の王となった者の話』、『聖剣を使って魔王を倒して姫様を手に入れた者の話』、『科学技術によって世界を変革した者の話』――――色々と神様は聞かせてくれたが、そのどれにも共通しているのは"強さこそ正義・・・・・・"という事であった。
 性格がクソでも、生活能力が一切なくても、性的趣向が異常であっても――――強ければ、偉くなれる。
 それがメシアにとっては、嬉しかったのだ。微笑ましかったのだ。

「「強ければ、どんな事をしても良い。
 そんな世界、全く持って嬉しい限りだぜぇ!」」

 《クラウドファイティング》……雲を用いて無限に増やすこの能力さえあれば、死ぬ事はないだろう。
 この能力を用いて、誰よりも強くなる。それがメシアの目的である。

「「さて、っと……! それじゃあそろそろ1人に戻るとしますかねぇ……!」」

 メシアの全身を雲で隠して、メシアの身体がようやく元の姿へと戻る。
 身体の半分以上が隠れているこの状況を元の姿と言えばの話、ではあるが。

「――――クフフゥ、さてどう言う筋書きで行こうかなぁ。流石にこの雲、相手の攻撃を喰らわないための鎧は外せないよなぁ。けれども、この雲をしたままだと、【ジャック】の勇者である事はバレバレだし……。
 あっ、それならば奇襲で一気にかけるとしますかねぇ。ネズミくらいの大きさなら、潜入してもバレないだろうし」

 【ジャック】の勇者であるメシア・キリサキは、自身の能力のなにが長所なのかは良く分かっている。
 1つ目は自分の身体と中に入った物をいくらでも増やせるところ。
 そしてもう1つは、その大きさを選ばないこと。

 雲に決まった大きさがないように、この能力で増やせる物の大きさに規制はない。
 勿論、出せる大きさに限度はあるだろうが、極端な話を言えば蟻ほどの大きさだろうと可能。勿論、大きさによって強さと身体の頑丈さに違いは出てしまうのだが。

 今、メシアの立てた計画はこうだ。
 まず、ネズミほどの大きさのものを幾人か侵入させる。その後に毒物を用いて相手を弱らせて、その後に本体が潜入して一網打尽。
 ………完璧な計画である。

「さぁ、ってと!
 続いて俺の異世界生活、お次はエルフの村襲撃と参りましょうか!」

 ――――今、メシア・キリサキの新たな異世界英雄譚が幕を開けた!




「……あらあら、そんなことが出来ると思ってるのかしら?」

 しゅるしゅるる、とそんな音と共に雲の身体にしっかりと、逃れないように巻きつかれる赤い糸。

「この赤い糸は……!?」

 慌てて、後ろを見るとそこにはあの時始末したはずの蜘蛛魔物が、その身体の上にある"人間の上半身・・・・・・"がクスリと笑みを浮かべていた。

(ば、バカな……!?)

 メシアには鑑定能力がある。異世界に来るためにと、これだけは外せないと思って入れた能力。
 その能力であの蜘蛛魔物を見たが、確かに強そうではあった。
 だが、あの赤い糸で作った彫像の中身がない事は確認済みで――――

「かっ、鑑定!」

 慌てて、もう一度鑑定能力を発動させる。


=====
名前;ササ
種族;ヤトササガニ/アラクネ
職業;魔王(仮)の配下 もの作りの探究者 赤の者 
保有スキル;操糸 糸作成 猛毒生成 気配察知 極限集中 特異腹 《赤の力》 人間体操作 猛毒投与 人体錬成 拷問術 無手攻撃Lv.4
種族ランク;E+/S-
=====


「……アラクネ!?」

 今まで、とは言え短い期間の間ではあるが、メシアはいくつものステータスを盗み見た。神様からの話も聞いた。
 しかし、そんな中でも、"2つの種族を持つ魔物・・・・・・・・・・"なんて、誰も――――

「私は、ですね。
 ご主人様のために、強くなりたいんですよ」

 と、まるで歌手が歌うかのような心地いい声で、ササという名前のその魔物は、長い手足を使って糸を巧みに操る。
 その糸の先、メシアの身体をきつく縛り上げるように。

「この《赤の力》を使って、治療している際に気付いたんです。
 赤い糸で肌が治療されているんじゃない。"今までの身体とは違う、新たな肌が作り出されているんだって"」

 回復魔法での治療は、人々の生命力を用いて新しい肌を生み出す。
 薬草などの道具を使った場合も同じだ。その人の生命力を用いて、あるべき姿へと持って行こうとする。
 それ故に、骨折や怪我などは治せるが、切り落とされてしまったり、失ったものは戻せない。
 戻せたとしても、高い技術が必要となる。

 ――――しかし、《赤の力》は違う。
 例えるならばそれは、合成。
 そこにぴったり合う物を《赤の力》のエネルギーを用いて作り出し、違和感なく組み合わせる。
 腕を怪我をした場合は、怪我の部分を取り除いて、その上から怪我のない腕を。
 足が無くなった場合は、足を《赤の力》で作り出して、その上で足を。

 そのようにした《赤の力》の治療は、もはや治療と言う域を越えている。
 それはまるで――――

「"錬成・・"……って所ですか」

 ササの言葉には、物凄い真剣みが感じられた。

「ちょっとした試しで、ある死んだ魔物の口の中に人間の顔を赤い糸で作ってみたんですね。
 そしたら、なんと数分後にはそれが本当に人間の顔となって、おまけに喋り出しちゃって……。
 気持ちが悪かったんで、後で殺したんですけどね」

 ――――それなら、自分ならどうなのか?
 ササはそれを実行した。

 エルフの村にあったもっともスタイルの良い像に糸を巻きつけて、大きさを覚える。
 自分の身体の上に乗せて、後は胸を大きくしたり、兎耳というオプションを着けて見たり――――。

「結果として、こーんな事が出来ちゃったんですよ。
 私は、人間の身体を蜘蛛の身体の上に持ち、さらにその人間の身体と蜘蛛の身体の2つとも、私♪
 貴方も似たようなものでしょ? いくつもの身体を持ってるんだから」

 ――――話はもう良いでしょう。
 そう言うと、ササはさらに糸を持つ手を強め、メシアの首はさらに強く締めあがる。

「この《赤の力》って、『錬成』ではなくて、『固定』だと思うんですよね。
 怪我をしていない元の状態に固定する、ないものをあるように固定する……そして、身体が不安定な相手を、固定する」

 先程はあんなに斬れた赤い糸は、メシアの身体を締めつけるばかりで一向に斬れそうにない。
 逃げられるように手加減されていたんだ、とメシアが気付くのは遅すぎた。

「勇者を魔物が倒すと、ご主人様と同じように魔王(仮)の称号が手に入るのかなぁ?
 それだと嬉しいなぁ。ご主人様と同じ称号が貰えちゃうし、さらに強くなるから」

 ――――【ジャック】の勇者メシア・キリサキ。
 散々相手を経験値呼ばわりして来た勇者の最期は、とある蜘蛛の経験値となる事であった。

 因果応報、それに尽きる。





=====
【ジャック】の勇者メシア・キリサキを倒しました
よって、個体名ササを魔王(仮)と任命します

名前;ササ
種族;ヤトササガニ/アラクネ
職業;魔王(仮)の配下 もの作りの探究者 赤の者 【紡績】の魔王 魔王(仮)
保有スキル;操糸 糸作成 猛毒生成 気配察知 極限集中 特異腹 《赤の力》 人間体操作 猛毒投与 人体錬成 拷問術 無手攻撃Lv.4 《解きのススメ》 《より糸》
種族ランク;E+/S-

《赤の力》
…マスティスから授かった、赤をイメージする力。物体などの上に貼る事でその物を固定して、本人が望む形に"強制的に直す力"。能力を応用することで、生物の身体を別の生物や物にくっつける事ができる。

【紡績】の魔王
…【紡績】を司る魔王。糸を操る技術にプラス補正が付き、また一度手に入れた事がある糸なら魔力によって再錬成できるようになります。

《解きのススメ》
…物体を糸状に解く事が出来る能力。解いた物は消滅し、糸としてストック可能。なお、使用制限がかかっております。

《より糸》
…2本以上の糸をより合わせて、さらに強い糸を作り上げるスキル。2本の糸の組み合わせ方によって効果が変わります。
=====
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