混色の元ダンジョンマスター様。

摂政

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魔王(仮)、報告する。

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「――――と言う訳で、ご主人様のために強くなったんです!」

 ササの説明が終わったが、俺の感想としては――――正直、凄すぎる!
 なんなの、《アラクネ》とかそんなの伝説級の存在じゃないか!
 様々な種類の糸を用いる蜘蛛の身体、高度な魔法をも使いこなす人間の身体――――2つの身体を持つアラクネの強さは、異常である。異常に強い。伝説だとあるアラクネは世界の神々と対等以上に渡り歩く事が出来たのだとか。数千年前を最後に消えてしまったらしいんだけれども。
 何故、うちの配下はそんな俺が見てない所で変な進化を遂げるんだよ。スライム達がマッチョスライムに進化したり、ササがアラクネになっていたり……。

 まぁ、それはさておきなんだけれども、とりあえずササは《ジャック》の勇者の本体をぶち殺して、俺と同じ魔王(仮)になったらしい。
 ……本当に頼りになるのだけれども、何故か頼もしさよりも先に身の危険を感じるのは何故だろう。

 これでジョルグジョルグさまに頼まれたうちの1つ、《ジャック》の勇者の方は解決する事が出来た。死んでしまっているけれども、まぁ脅威を排除できたと考えればこれはこれで解決だろう。
 もう1つの問題、《鉄格子》の魔王(仮)ことファンデス・ノトシクスの方は場所が分からないから、俺はとりあえずの報告のためにミライトリスへと帰って来ていた。
 ジョルグジョルグさまとは出来る限り1回で済ませたいのだが、分からない以上は仕方がないだろう。もしかしたら《ジャック》の勇者だけで良いと言われるかもしれないし、報告はしておくべきだろう。

 そんな気持ちの中、ミライトリスの村へと帰って来たのだが、何だか様子がおかしい。

(あれ……? エルフ達が……居ない?)

 あれだけ痛い痛いと泣き騒いでいたエルフ達、そしてそれを必死の表情で看病していたエルフ達。そしてそれを遠巻きに見ていたエルフ達……ともかく、今このエルフの村には人の気配が一切なかった。いや、この場合はエルフ達の気配と言うべきか。
 もぬけの殻、あるいは嵐の前の静けさと言うべきだろうか。
 なんとなく、嫌な気配がする。

 なにかの罠に嵌められているような……。


「おおっ、マスティス殿。戻られましたか」

 怪しみながら、気配がないエルフの村に入って行くと俺に話しかけて来たのは、あの時の金属鎧の大男である。【大足】の魔王ジョルグジョルグさまと一緒に居たのは覚えているのだが、何気に声をかけられたのは初めてである。
 金属鎧の大男は、顔の部分以外は完全に隙間なく接合された白銀の鎧を着た大男。ジョルグジョルグさまより少し大きい所だから、2m弱くらいだろう。背中の金色の剣も強そうだ。

 さて、問題だ。
 俺はこの大男がジョルグジョルグさまの護衛だと思っていた。だからこそ、あそこに居て可笑しくないと思っていた。
 しかし、どうだ。
 エルフが消えた村、護衛のはずが1人で居る大男。

 極めつけは――――その背後に見える、沢山の血気盛んなゴブリン達。そのゴブリン達の全員が腕に"アレ・・"を巻いている事で、今の状況が良く理解できた。
 良く出来たから、余計に知りたくなったのだが。

「お前……"誰だ・・"」

 そいつは、完全に敵として俺達を排除しようとする動きであった。
 全員が武器を手にしている所から見ても、俺達を逃がさないように取り囲んでいる所から見ても……奴らが俺らを殺そうとしているのは明らかである。

「――――クククッ、もう分かってるはずだろう?
 俺の正体も、そして現在どのような状況に居るかもさ」

 ……実際、こいつの正体についてはまだピンときている訳ではない。ただ、一番あり得る、なおかつ一番あり得て欲しくない可能性なら思い当っている。

 エルフの村から、一斉に消えたエルフ達。
 【大足】の魔王であるジョルグジョルグさま。
 そして――――ゴブリン達が巻いている"アレ・・"。

「……お前が、【鉄格子】の魔王(仮)ことファンデス・ノトシクス。
 いや、ジョルグジョルグさまの息子って事か」

 その答えに全身鎧の大男、ファンデス・ノトシクスは正解だと言わんばかりに嬉しそうに「そうだ」と口にしていた。



 人間は間違いを犯す。
 いや、魔物であろうとも、エルフであろうとも、例え魔王であろうとも、失敗なく生きていける者なんて居ないだろう。

 ファンデスは、ハーフエルフ。人間とエルフの間に生まれた者。
 ジョルグジョルグさまは、魔王。しかし、エルフの魔王。
 要するにあれだ、2人は親子関係母と子である。俺が推察したのはそう言う事である。

 彼の背後に居るゴブリン達が付けているもの、あれは腕章である。
 魔王は自分の配下である事が分かるように、自分を象徴するマークが描かれたものを自身の配下に持たせる事がある。ファンデスの後ろに居るゴブリン達が腕に腕章のように巻いている布には、大きな足――――【大足】の魔王を意味するマークが刻み込まれていた。

「魔王の息子が冒険者、ねぇ。世も末、いやはや世知辛いね」

「クククッ……別にそうでもないさ。
 俺だって自分の母親が魔王である事を知ったのはつい最近、俺が魔王(仮)として覚醒した時さ」


 高らかに自分の出生を語る、ファンデスの話を纏めるとこうだ。

 ファンデスの母親、【大足】の魔王ジョルグジョルグ。彼女がファンデスの母となる少し前、彼女の治めるダンジョンに1人の勇者が現れた。
 【節制】の勇者と名乗るその勇者は誰よりも気高く、そして誰よりも誇り高い英傑であった。
 【大足】と【節制】の戦いは熾烈を極め、互いに互いを高め合い、同時に歴史に名を残すような戦いであった。
 三日三晩……程度では語りつくせない戦いの末……勝ったのは【大足】の方であった。
 しばらく後になってだが、【大足】の魔王ジョルグジョルグさまのお腹の中に子供がいることが分かった。それがその勇者の忘れ形見だと分かったのは、すぐの事だったという。

「俺の父、【節制】の勇者ってのは自らの魂そのものを流れ狂う水流として操る能力を持っていたらしい。
 普通の英傑が水を操るとはわけが違う、文字通り自分が生きるエネルギーを糧としてるんだ。その強さは桁外れだったらしいぜ。あくまでも噂、どこまでのものかは知らないし、俺自身としては本当に興味もないけどな。
 ただ知っておくべきなのは――――相手が魔王であり、同時に長時間の間、熾烈な戦闘を繰り広げてたと言う部分さ」

 普通の戦闘だったら、大丈夫だったのだろう。
 しかし、長時間でなおかつ、歴史に名が残るほどの激しい戦い。
 その戦いの最中、彼の身体は自分の生命を残そうとする。そんな、至ってごく普通の生命としての反応によって、彼の水質が変化したのだという。
 そう、"生命を主として残そうとする・・・・・・・・・・・・・"、そんな液体へと。

「一方は、本能的に生命を残そうとする、男の液体。
 もう一方は、そんな男の強すぎる生命力を受け止められるだけの、上質な女の身体。
 その2つが出逢ったら、どうなるのか? 後はどうなるかは、容易に想像できるだろう?
 ――――そんな風にして生まれた俺を、あの母親は捨てた。俺は、ただのハーフエルフとして過ごしていたさ。お前のダンジョンで死んだあの時でさえ、俺は自分をただのハーフエルフとしてしかみてなかったさ。
 そんな俺を、【あの御方】が救ってくださったのさ!」

「あの御方……?」

「俺を蘇らせて貰っただけでなく、魔王(仮)として戦えるだけの力! さらには、俺の母親が魔王である事も教えて貰った、偉大なる御方だ!
 ……まぁ、そんな訳で後は想像がつくだろう?」

「あぁ……最悪な想像だけど、だが」

 復活したファンデスは、【大足】の魔王ジョルグジョルグさまのところに向かう。
 そして自分の存在を弱みにして、後ろの配下を与えて貰い、同時に俺をおびき出す計画を立てたのだろう。
 いくら情報がないからと言って、名前が分かっていながら……他に情報がないというのは気になっていた。その相手が自分の隠し息子で、なおかつ俺を嵌めようとしてるだなんてことまでは分からなかったが。

「いやぁ、俺さぁ。魔物のことを誤解してたなぁ。
 俺、死ぬ前までは魔物ってうっざーいだけだと思ってたんだ。なにせ、色々な場所に現れては、俺達に迷惑かけるんだぜ?
 人によっては自分達の生活を豊かにする益虫っていう奴も居たが、俺にとっては害虫――――結局、虫って事かよ。けどさぁ……その認識は謝らさせていただくぜ。なにせ――――」

 と、そこでわざとらしく言葉を切ったファンデスが、指をパチンと鳴らすと共に、

 ――――ゴォンッ、と俺の骨の身体が、ハンマーで思いっ切り殴られていた。


「こう言う、力の上下関係がはっきりしているのは、好きだぜ?」


 振り返るとそこには、ササによって既に拘束されている、"ボディービルスライム俺の配下"の姿があった。
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