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第371話 姫様、怪物と出会う配信
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~~イスウッド領主ノワルーナ・タノタノ~~
「そう。あなたに呪いをかけた悪魔は、このピンクの影を『勝者の証』だと言ったのね」
「はっ、はひっ! そっ、その通りでしゅぅ……」
ぷしゅーっ、とまるで頭から煙が出てくるかのような感じで、蛇の獣人族兵士トウダはそう言葉にしていた。なるほどと、一応頷く素振りを見せつつ、私はいつこの話を終わらせようか迷っていた。
明らかに挙動不審の猫の獣人族兵士、その正体は"自分が蛇から猫へと大幅に変えられたにも関わらず、自らの容姿にコンプレックスを持っているせいで一切気が付かなかった兵士トウダ"であった。
ザラザラな肌の蛇の獣人族の容姿から、ふわふわな毛で覆われている猫の獣人族の容姿になっていたら、私としては気付くのが当たり前だと思うんだけど、当の本人たるトウダにとってはそうではなかったらしい。彼にとって自分の容姿というのは、その辺の埃に注目するレベルで『どうでも良い』事だったらしく、このような劇的なビフォーアフターに気付かなかったそう。
私としてはその事について、とやかく問い詰めたい所ではあったけれども、当の本人が「それで何のようなんでしょうか?」と聞かれたため、こうして兵士トウダの、頭だけピンク色の呪いについての話を聞いていたという訳である。
もし仮に、「あなたのせいで、悪魔ハルファスに逃げられてしまった」なんて問い詰めたら、自分の容姿にすらコンプレックスを抱くような卑屈な彼が、どのような末路を遂げるのかは想像に難くない。
彼の容姿はともかく、偵察能力に関してはずば抜けているため、こんな所で死なせる人材ではないというのが私の判断だった。まぁ、悪魔ハルファスには逃げられてしまったけど……。
「(しかし、ピンク色の呪いが勝利の証、ですか)」
トウダは頭だけだが、彼の先祖----実際に悪魔と戦って勝ったという当人は、全身がピンク色の影になっていたらしい。代々少しずつ、ピンク色の影は薄くなったり、範囲が狭くなったりして、トウダは頭だけピンク色という所で落ち着いているみたい。
悪趣味な呪いとしか思えないそれを、トウダを始め、子孫たちは迷惑だと思っている。しかしながら、先祖本人が書いたとされる手記には、『このピンク色の影こそ、悪魔に勝利した証である』との事。
「えっと、聞きたい事って、それだけ、でしょうか……?」
「----! あぁ、すいません。少し気になったモノで」
「いっ、いえいえ! 気にしないでください! 同期にも、それから先輩にも、良く聞かれるいつもの事なんで」
トウダにして見れば、『なんでみんな右利きなのに、1人だけ左利きなの?』と言われるくらい、いつも通りの事だったので、気にしていないらしい。まぁ、気にしないと、やっていけないというくらい、諦めたのかもしれないけど。
「(トウダに関しては、これでオーケー。あとは、悪魔ハルファスを中の人達がしっかりと食い止めている事を祈ろう)」
商人ラジンとの話し合いの結果、悪魔ハルファスの目的地は、ホテル・イスウッドのエントランスであるという事は話がついている。だから、そこには強力な戦闘能力を誇る者達を複数人設置してあるため、なにかあったのならそこで戦闘があり、その戦闘の音がここまで響いてくるはずで----
【ウォォォッォォォォォォォォォ!!】
「「……?!」」
その時である。私とトウダの2人は、揃ってなにかの雄叫びを聞いた。なにか得体のしれない、だけれども明らかにヤバいモノだと分かる、そんな獣の声だった。
----パリィィィンンッツ!
そして、続いて、ホテルの目の前が割れた。いや、ホテルには一切傷なんてなく、正しく言えば、ホテルの目の前の"空間"がガラスのように割れて、そこから1人の女性と、1匹の猛獣が現れる。
1人は、私も良く知るヴァーミリオン。イスウッドが準避難都市としての計画を進めている事を知り、まだ準備段階だというのに来た避難民。その後、錬金術師ススリアさんからの紹介との事で、側仕え程度に思っていた彼女は、背中から赤く美しい4枚の羽根を出して、蛇の形をした剣を手にしていた。
ヴァーミリオンが、背中から4枚の羽根を出している事に、驚いたが、それ以上に驚いたのは、彼女と一緒に現れた猛獣。
その猛獣は、両腕と左足が赤い部位になっており、筋骨隆々な屈強な身体を持ったバケモノ。そして頭には金色の輪を浮かべており、顔面には【大衆】と書かれた仮面を被っていた。
文字が書かれた仮面という姿を見て、私は即座に、ススリアさん達から聞いていた魔王ユギーの五本槍の事を思い出した。
カイデン、ドン・デーロ。彼らはそれぞれ【闘争】、【狩猟】と書かれた仮面を着けていたと聞いていたので、このバケモノも五本槍の1人だと思ったのだ。
騒ぎを聞きつけ、エントランスに待機していた人達が駆けつける中、私とトウダもバケモノの方へと近付く。そして私は、事情を知っているであろうヴァーミリオンに声をかける。
「ヴァーミリオン!」
「----?! ひっ、姫様!?」
「あなたの羽根とか色々と聞きたい所だけど、それは後回し! 今聞きたい事は、あのバケモノが何者かという事よ!」
他の皆にも聞かせるように、少し大きめの言葉で、ヴァーミリオンに尋ねる。ヴァーミリオンはなにか言いたくなさそうな顔をしていたが、それどころじゃないと思ったみたいで、こういった。
「あれは、亡霊! 魔王ユギーの身体を乗っ取った、"群妖精"と呼ばれる者達の哀れな末路です!」
「そう。あなたに呪いをかけた悪魔は、このピンクの影を『勝者の証』だと言ったのね」
「はっ、はひっ! そっ、その通りでしゅぅ……」
ぷしゅーっ、とまるで頭から煙が出てくるかのような感じで、蛇の獣人族兵士トウダはそう言葉にしていた。なるほどと、一応頷く素振りを見せつつ、私はいつこの話を終わらせようか迷っていた。
明らかに挙動不審の猫の獣人族兵士、その正体は"自分が蛇から猫へと大幅に変えられたにも関わらず、自らの容姿にコンプレックスを持っているせいで一切気が付かなかった兵士トウダ"であった。
ザラザラな肌の蛇の獣人族の容姿から、ふわふわな毛で覆われている猫の獣人族の容姿になっていたら、私としては気付くのが当たり前だと思うんだけど、当の本人たるトウダにとってはそうではなかったらしい。彼にとって自分の容姿というのは、その辺の埃に注目するレベルで『どうでも良い』事だったらしく、このような劇的なビフォーアフターに気付かなかったそう。
私としてはその事について、とやかく問い詰めたい所ではあったけれども、当の本人が「それで何のようなんでしょうか?」と聞かれたため、こうして兵士トウダの、頭だけピンク色の呪いについての話を聞いていたという訳である。
もし仮に、「あなたのせいで、悪魔ハルファスに逃げられてしまった」なんて問い詰めたら、自分の容姿にすらコンプレックスを抱くような卑屈な彼が、どのような末路を遂げるのかは想像に難くない。
彼の容姿はともかく、偵察能力に関してはずば抜けているため、こんな所で死なせる人材ではないというのが私の判断だった。まぁ、悪魔ハルファスには逃げられてしまったけど……。
「(しかし、ピンク色の呪いが勝利の証、ですか)」
トウダは頭だけだが、彼の先祖----実際に悪魔と戦って勝ったという当人は、全身がピンク色の影になっていたらしい。代々少しずつ、ピンク色の影は薄くなったり、範囲が狭くなったりして、トウダは頭だけピンク色という所で落ち着いているみたい。
悪趣味な呪いとしか思えないそれを、トウダを始め、子孫たちは迷惑だと思っている。しかしながら、先祖本人が書いたとされる手記には、『このピンク色の影こそ、悪魔に勝利した証である』との事。
「えっと、聞きたい事って、それだけ、でしょうか……?」
「----! あぁ、すいません。少し気になったモノで」
「いっ、いえいえ! 気にしないでください! 同期にも、それから先輩にも、良く聞かれるいつもの事なんで」
トウダにして見れば、『なんでみんな右利きなのに、1人だけ左利きなの?』と言われるくらい、いつも通りの事だったので、気にしていないらしい。まぁ、気にしないと、やっていけないというくらい、諦めたのかもしれないけど。
「(トウダに関しては、これでオーケー。あとは、悪魔ハルファスを中の人達がしっかりと食い止めている事を祈ろう)」
商人ラジンとの話し合いの結果、悪魔ハルファスの目的地は、ホテル・イスウッドのエントランスであるという事は話がついている。だから、そこには強力な戦闘能力を誇る者達を複数人設置してあるため、なにかあったのならそこで戦闘があり、その戦闘の音がここまで響いてくるはずで----
【ウォォォッォォォォォォォォォ!!】
「「……?!」」
その時である。私とトウダの2人は、揃ってなにかの雄叫びを聞いた。なにか得体のしれない、だけれども明らかにヤバいモノだと分かる、そんな獣の声だった。
----パリィィィンンッツ!
そして、続いて、ホテルの目の前が割れた。いや、ホテルには一切傷なんてなく、正しく言えば、ホテルの目の前の"空間"がガラスのように割れて、そこから1人の女性と、1匹の猛獣が現れる。
1人は、私も良く知るヴァーミリオン。イスウッドが準避難都市としての計画を進めている事を知り、まだ準備段階だというのに来た避難民。その後、錬金術師ススリアさんからの紹介との事で、側仕え程度に思っていた彼女は、背中から赤く美しい4枚の羽根を出して、蛇の形をした剣を手にしていた。
ヴァーミリオンが、背中から4枚の羽根を出している事に、驚いたが、それ以上に驚いたのは、彼女と一緒に現れた猛獣。
その猛獣は、両腕と左足が赤い部位になっており、筋骨隆々な屈強な身体を持ったバケモノ。そして頭には金色の輪を浮かべており、顔面には【大衆】と書かれた仮面を被っていた。
文字が書かれた仮面という姿を見て、私は即座に、ススリアさん達から聞いていた魔王ユギーの五本槍の事を思い出した。
カイデン、ドン・デーロ。彼らはそれぞれ【闘争】、【狩猟】と書かれた仮面を着けていたと聞いていたので、このバケモノも五本槍の1人だと思ったのだ。
騒ぎを聞きつけ、エントランスに待機していた人達が駆けつける中、私とトウダもバケモノの方へと近付く。そして私は、事情を知っているであろうヴァーミリオンに声をかける。
「ヴァーミリオン!」
「----?! ひっ、姫様!?」
「あなたの羽根とか色々と聞きたい所だけど、それは後回し! 今聞きたい事は、あのバケモノが何者かという事よ!」
他の皆にも聞かせるように、少し大きめの言葉で、ヴァーミリオンに尋ねる。ヴァーミリオンはなにか言いたくなさそうな顔をしていたが、それどころじゃないと思ったみたいで、こういった。
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