配信スローライフをしてたら、相方のゴーレムがアップをはじめたようです

第242話 新生ハンドラ商会の会長、ミリオンによる配信(1)

　元ハンドラ商会の面々の前に、1人の美女が現れる。その美女はイプシロンちゃんに連れられて歩いて来ており、イプシロンちゃんの関係者である事は誰の目にも明らかであった。

　その美女はサングラスをかけた、肩出しの豪華な黒ドレスを着ていた。胸元には金色のネックレスをつけており、耳には金色のヘッドセットを被っていた。
　背中からは大きな白い翼を出しており、そして腕には【100万】という文字が刻み込まれた腕章を付けていた。

　そして、彼女は元ハンドラ商会の面々の顔をしっかり見て、こう話を切り出した。


「----君達。海は好きか?」


　いきなりの質問に対し、どういう意味かと皆が考え込んでいると、その美女は言葉を続ける。


「私は、海は好きだ。いや、好きだった・・・、である。海も良い物ではあるが、それ以上に美しく、良い物をご存じだろうか?
　----それは、"空・"だ。そう、海も良いけれども、空はもっと良い物でしょう?

　諸君、私の名は【ミリオン】という。『経営特化型アルファ・ゴーレムサポートシステム搭載型ゴーレム・モード"長者ミリオネア"』にして、新生ハンドラ商会の会長職として製造つくられたゴーレムです。
　そして----イプシロンの"姉《・》"でもあります」

「「「「姉っ……?!」」」」


　元ハンドラ商会の面々はその言葉の真偽について、イプシロンちゃんの顔色を窺うかがう。金色のヘッドセットを付けた美女ミリオンちゃんを連れて来た、当人であるイプシロンちゃんはと言うと、「うんうん!」と頷いていた。

「そう、ミリオンはこの私イプシロンの妹!　私の、空に逃げた私の妹です」
「はい、この私ミリオンはイプシロンの姉です。海に固執する、馬鹿げた私の妹です」

「「むむむぅ～っ!」」

　"どちらが妹論争"にて話し合う、イプシロンとミリオンちゃん。

「(やっぱり、変な関係性になりますよね。ミリオンちゃんをあんなややこしい事にすると)」




　『経営業務特化型アルファ・ゴーレムサポートシステム搭載型ゴーレム・モード"長者ミリオネア"』、通称ミリオンちゃん。
　『新生ハンドラ商会の会長に相応しい』『イプシロンちゃん要素もある』『シガラキ代表とはまた別の商会長像』を望む、ハンドラ商会の面々の望みを叶えるために作った、経営業に特化したゴーレムだ。

　機能に関しては詳細は省かせてもらいますが、ミリオンちゃんはイプシロンを前提として作り出したゴーレムである。

　そのため、イプシロンと姉妹関係を意識して作った結果、生まれたのがミリオンちゃんである。

　イプシロンちゃんが海好きだから、ミリオンちゃんは『元々は海が好きだったが、今はそれよりも好きな物を見つけた』という事で作った。
　その結果が、"自分こそがイプシロンの姉だと自称する、お姉ちゃん系妹"、ミリオンちゃんという事なのだ。




「ハンドラ商会の経営につきまして、過去の情報を精査させていただきました」

　どちらが姉か論争について一旦置くことにしたミリオンちゃんは、今後の、新生ハンドラ商会の方針について説明していく。そのために、まずは旧……というか、以前のハンドラ商会について、彼女は話したい事があるようだ。

「そうやって見させていただいた結果、私はハンドラ商会の運営に致命的な欠点がある事に気付きました。
　----それは、立地の悪さという点です」

　「こちらをご覧ください」と、ミリオンちゃんがヘッドセットを触ると、目の前に映像が映し出された。その映像には、ハンドラ商会がどこにお店を置いていたのかというのが分かる地図であった。
　地図を見ると、ハンドラ商会はどの街でも、表通りではなく裏通り、少し人通りが悪い所を中心に立地している事が分かった。

　まぁ、それも分からない話ではない。
　ハンドラ商会の会長、シベリア・ハンドラ会長は、ドラゴンを使った国家転覆未遂事件の罪があり、そんな脛すねに傷がある人が借りられるようなお店は、どうしても立地が悪い物になってしまうのだろう。

「逆に言えば、この立地の悪さ以外は、ハンドラ商会の短所はございません。
　----"仕入れる商品の質"、"価格帯"、"従業員の接客態度"。どれを取ったとしても、他の商会に負ける事のない、超優良商会だとこの私は考えております」
「「「「いやぁ～」」」」

　元ハンドラ商会の面々は、その言葉を聞いて嬉しそうに照れていた。
　誰しも褒められて悪い気はしないだろう。ましてや、あのようなクールな、滅多に褒めなさそうな仕事人間タイプのミリオンちゃんからとなると。

「故に、私は大社長たるススリア様から、この新生ハンドラ商会の会長職を任されるにあたりまして、1つ、画期的な方針を掲げたいと思います」

　「こほんっ」と、ミリオンちゃんは一度咳払いをする。そして、大々的にこう話していた。



「新生ハンドラ商会を経営させていただくミリオン会長としまして、『一部店舗以外の全面閉店』を経営方針の1つとして、宣言させていただきます」



(※)ミリオン
　別名、『経営業務特化型アルファ・ゴーレムサポートシステム搭載型ゴーレム・モード"長者ミリオネア"』。新生ハンドラ商会の会長職として設計、製造されたゴーレムであり、イプシロンとは姉妹関係に当たる
　イプシロンと姉妹関係に作り、『イプシロンと同じく海が好きだったが、今はそれよりも空が好きとなったゴーレム』として製造された。なお、イプシロンとは製造関係上妹である事は間違いないのだが、『経営をするに当たって高度な経営的判断をくだせる高い知能』、『クールな性格』、『海が好きだったが空が好きになった』などの結果、自分の方が姉っぽいという判断を下してしまい、自分こそがイプシロンの姉だと思っている