278 / 459
第278話 ノルカがやられた後の、ドン・デーロについての配信
しおりを挟む
~~狩猟のドン・デーロ~~
「あうっ?!」
新生ハンドラ商会が良く見える、建物の屋上。
魔王ユギーの五本槍である私、狩猟のドン・デーロは痛みを覚えていた。
「うぐわっ!?」
ズキリッと、【狩猟】の二文字が刻まれた手の形をした仮面に、亀裂が入っていた。その亀裂が入ったのを見て、私はこのゲームの敗北を悟っていた。
この亀裂は、ノルカ・ブックマンに与えていた【狩猟】の二文字----ひいては、私の分身が消え去ったのを意味するからだ。
「ミリオン商会長の記憶を奪う事----いや、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】の魔道具本体から記憶を奪う事には、失敗したようで・す・ね」
私はそう言うと、パチンっと指を鳴らす。すると、指を鳴らす際に使った手が消えていき、その代わりに仮面に付けられたヒビが消えて行く。
これは、私が持つ能力の1つである。自分の身体代わりに使っている身体の一部を代償にして、ヒビを消すという能力である。
自分の、文字通り手足として使っている身体の一部を代償にするのはかなりリスクが高い。しかしそれでも、私にはこのヒビを消しておくべき理由があった。
なんでこんな能力があるかというと、この仮面こそが狩猟のドン・デーロの本体なのである。
他の、魔王ユギーの五本槍のメンバーは知らないが、少なくとも私の場合、この仮面こそが本体なのだ。自分に、記憶する脳のような部分がないからこそ、ドン・デーロは他者の記憶に固執し、それを現実化できる能力を手に入れたんじゃないかとそう思ってるくらいなのだ。
「ふぅ~。ノルカちゃんはそこそこやってくれると思ってましたが、ダメだったみたいですね」
シベリア・ハンドラ会長の記憶を探った中で、一番商人に向いていないと思ったのがノルカ・ブックマンである。
ノルカ・ブックマンは"耳が非常に良い"、さらには"自分の足音を消して移動できる"など、彼女は武闘関係においては非常に強い能力の持ち主だ。しかしながら、ノルカはそのような能力を持っているにしては、あまりに気が弱すぎる。
彼女には、残念ながら商売としての才能はあまりない。
彼女にあるのは、このシベリア・ハンドラ会長の記憶にあった【オーラ】を、十二分に使えるだけの武力の才能くらい。
ノルカ・ブックマンは、この商売の国で生まれ、商売で成功する事しか価値がないと思っている。
彼女の頭に触れた際に記憶を少し読んだけれども、あの高い武術の才能も、護衛を雇わずに済むくらいにしか考えていなかったみたい。実に勿体ない。あれだけの力があれば、私だったら単騎で王城に乗り込むくらいの作戦を考えていたのに。
計画が成功し、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】の魔道具本体に短刀を突き刺して記憶を奪い取れたとしても、ノルカ・ブックマンは恐らく変わらなかったと思う。
私が言うのもなんだが、悪魔と契約するような者が、幸せな成功を得られるだなんてあり得ないのだから。
「私の【狩猟】の二文字という洗脳を与え、ようやく決心するくらいで・す・か・ら・ね」
悪魔と契約するだけの覚悟があるのなら、洗脳なんてせずとも、自分から行くだけの度胸を見せて欲しかった。せっかく、サービスとしてシベリア・ハンドラ会長の記憶を与えてあげたのに。
「まぁ、同じゲームを3回以上仕掛けるのは、魔王ユギー様としても面白く思ってもらえないでしょうからもうしませんがね」
さて、次はどんなゲームをしよう?
マージ・マンジ達を巨大化させて複数体召喚して、大陸そのものを牛に変えてみようか?
それとも、シベリア会長の記憶にあるドラゴンを召喚して、国そのものを火炎で包もうか?
あるいは、盟主パファーのいる城に潜入して、パファーを実験体にして最強の悪魔へと変えようか?
「なんにせよ、この身体は目立ちす・ぎ・る・ね。それに手も失くしちゃったし」
ヒビは消したが、その代わりに手を失ってしまった。それに、このシベリア・ハンドラ会長の姿は、もう多くの人に見られてしまったし、別の身体を奪い取るしかないのかもしれない。
「あぁ、ワクワクするなぁ! 今回は女性の身体を奪い取ったし、次は少年の身体を奪い取って、新鮮な気分を味わった方が良いのかも」
ランラン気分で、どの子にしようかと思っていると、
----ザクッ!
「あ・れ?」
私の、本体である仮面に、雷魔法が突き刺さっていた。
それはもう見事に、私の本体である仮面は2つに綺麗に分かれ、ヒビを補修する私の能力ですら直せないほど、完璧な一撃であった。
完全な、致命傷の一撃。
もうすぐ私は消えるだろう。ここまでやられては、流石の私でもどうしようも出来はしない。
----魔王ユギーの五本槍の一員として、色々好き勝手にやって来た。
魔王ユギー様が喜ぶために、多くの事柄をやって来た。
だからその報いとして、やられるのは分かる。
しかし、それでも納得できないことが、私にはあった。
「なんでお前が、私を殺すんだ! 同じ五本槍でしょう!
なぁ、ナ----」
その言葉を、私が言い続ける事は出来なかった。
本体である仮面の消失に伴い、私はこの世界から消えてしまったのであった。
(※)狩猟のドン・デーロ
魔王ユギーの五本槍の1人。記憶を司る悪魔であり、この世界で一番『獲物』を美しいと思っており、大きな獲物を狩猟した時に快感を感じている
相手の頭に手を掴むことで記憶から人間やバケモノを召喚する【泥沼から出た過去】、対象の大きさを変化させて召喚する【歪んだ思い出】などによって、記憶を扱う事に長けている。また記憶を読み取ったり、読み取った記憶を他者へ移すなどの事も可能
実は、本体は【狩猟】と刻まれた手の形をした仮面。この仮面をつけた死体を、自分の身体として使う事ができており、仮面が無事な限りドン・デーロは生き続ける
「あうっ?!」
新生ハンドラ商会が良く見える、建物の屋上。
魔王ユギーの五本槍である私、狩猟のドン・デーロは痛みを覚えていた。
「うぐわっ!?」
ズキリッと、【狩猟】の二文字が刻まれた手の形をした仮面に、亀裂が入っていた。その亀裂が入ったのを見て、私はこのゲームの敗北を悟っていた。
この亀裂は、ノルカ・ブックマンに与えていた【狩猟】の二文字----ひいては、私の分身が消え去ったのを意味するからだ。
「ミリオン商会長の記憶を奪う事----いや、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】の魔道具本体から記憶を奪う事には、失敗したようで・す・ね」
私はそう言うと、パチンっと指を鳴らす。すると、指を鳴らす際に使った手が消えていき、その代わりに仮面に付けられたヒビが消えて行く。
これは、私が持つ能力の1つである。自分の身体代わりに使っている身体の一部を代償にして、ヒビを消すという能力である。
自分の、文字通り手足として使っている身体の一部を代償にするのはかなりリスクが高い。しかしそれでも、私にはこのヒビを消しておくべき理由があった。
なんでこんな能力があるかというと、この仮面こそが狩猟のドン・デーロの本体なのである。
他の、魔王ユギーの五本槍のメンバーは知らないが、少なくとも私の場合、この仮面こそが本体なのだ。自分に、記憶する脳のような部分がないからこそ、ドン・デーロは他者の記憶に固執し、それを現実化できる能力を手に入れたんじゃないかとそう思ってるくらいなのだ。
「ふぅ~。ノルカちゃんはそこそこやってくれると思ってましたが、ダメだったみたいですね」
シベリア・ハンドラ会長の記憶を探った中で、一番商人に向いていないと思ったのがノルカ・ブックマンである。
ノルカ・ブックマンは"耳が非常に良い"、さらには"自分の足音を消して移動できる"など、彼女は武闘関係においては非常に強い能力の持ち主だ。しかしながら、ノルカはそのような能力を持っているにしては、あまりに気が弱すぎる。
彼女には、残念ながら商売としての才能はあまりない。
彼女にあるのは、このシベリア・ハンドラ会長の記憶にあった【オーラ】を、十二分に使えるだけの武力の才能くらい。
ノルカ・ブックマンは、この商売の国で生まれ、商売で成功する事しか価値がないと思っている。
彼女の頭に触れた際に記憶を少し読んだけれども、あの高い武術の才能も、護衛を雇わずに済むくらいにしか考えていなかったみたい。実に勿体ない。あれだけの力があれば、私だったら単騎で王城に乗り込むくらいの作戦を考えていたのに。
計画が成功し、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】の魔道具本体に短刀を突き刺して記憶を奪い取れたとしても、ノルカ・ブックマンは恐らく変わらなかったと思う。
私が言うのもなんだが、悪魔と契約するような者が、幸せな成功を得られるだなんてあり得ないのだから。
「私の【狩猟】の二文字という洗脳を与え、ようやく決心するくらいで・す・か・ら・ね」
悪魔と契約するだけの覚悟があるのなら、洗脳なんてせずとも、自分から行くだけの度胸を見せて欲しかった。せっかく、サービスとしてシベリア・ハンドラ会長の記憶を与えてあげたのに。
「まぁ、同じゲームを3回以上仕掛けるのは、魔王ユギー様としても面白く思ってもらえないでしょうからもうしませんがね」
さて、次はどんなゲームをしよう?
マージ・マンジ達を巨大化させて複数体召喚して、大陸そのものを牛に変えてみようか?
それとも、シベリア会長の記憶にあるドラゴンを召喚して、国そのものを火炎で包もうか?
あるいは、盟主パファーのいる城に潜入して、パファーを実験体にして最強の悪魔へと変えようか?
「なんにせよ、この身体は目立ちす・ぎ・る・ね。それに手も失くしちゃったし」
ヒビは消したが、その代わりに手を失ってしまった。それに、このシベリア・ハンドラ会長の姿は、もう多くの人に見られてしまったし、別の身体を奪い取るしかないのかもしれない。
「あぁ、ワクワクするなぁ! 今回は女性の身体を奪い取ったし、次は少年の身体を奪い取って、新鮮な気分を味わった方が良いのかも」
ランラン気分で、どの子にしようかと思っていると、
----ザクッ!
「あ・れ?」
私の、本体である仮面に、雷魔法が突き刺さっていた。
それはもう見事に、私の本体である仮面は2つに綺麗に分かれ、ヒビを補修する私の能力ですら直せないほど、完璧な一撃であった。
完全な、致命傷の一撃。
もうすぐ私は消えるだろう。ここまでやられては、流石の私でもどうしようも出来はしない。
----魔王ユギーの五本槍の一員として、色々好き勝手にやって来た。
魔王ユギー様が喜ぶために、多くの事柄をやって来た。
だからその報いとして、やられるのは分かる。
しかし、それでも納得できないことが、私にはあった。
「なんでお前が、私を殺すんだ! 同じ五本槍でしょう!
なぁ、ナ----」
その言葉を、私が言い続ける事は出来なかった。
本体である仮面の消失に伴い、私はこの世界から消えてしまったのであった。
(※)狩猟のドン・デーロ
魔王ユギーの五本槍の1人。記憶を司る悪魔であり、この世界で一番『獲物』を美しいと思っており、大きな獲物を狩猟した時に快感を感じている
相手の頭に手を掴むことで記憶から人間やバケモノを召喚する【泥沼から出た過去】、対象の大きさを変化させて召喚する【歪んだ思い出】などによって、記憶を扱う事に長けている。また記憶を読み取ったり、読み取った記憶を他者へ移すなどの事も可能
実は、本体は【狩猟】と刻まれた手の形をした仮面。この仮面をつけた死体を、自分の身体として使う事ができており、仮面が無事な限りドン・デーロは生き続ける
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる